予測不可で奇想天外
彼女は真紅に染まる颯花の元へ近寄った。
それを不思議がる民衆だったが、
誰も止めようともせず、ただ傍観している。
そして誰にも妨害される事もなく、
彼女は目的地に辿り着く。
「でも…私には力がない…」
歩み寄った彼女は颯花に話し掛けるように言った。
ゆっくりとしゃがみ、語りかける。
無論瀕死の颯花は聞くことすら出来ない。
「あなたは一体どんな人生を歩んだの…?
聞きたいな…聞かせて欲しいな…
壮絶な人生に…頼れる仲間達…
いっぱいあったんでしょ…だから…
まだ…あなたは死ぬべき時じゃない…」
冷えていく颯花の身体にそっと右手で触れる。
しかし、能力も何もない彼女が触れても、
何も変わることは無かった。
時間経過が進んでいくにつれて、
颯花の生存は絶望的な状況になっていく。
「何か…何でもいいですから…
何かひとつ…今この人を救えるだけ…
そんな力を…下さいませんか…?
私が彼女の罪を背負っても構いません…
私には…人を救える覚悟が…あります!」
そう彼女は言い放った。
同時に、彼女の右手は緑色に輝いた。
その光は人の温もりを帯びた、
暖かく優しい、そんな緑色を放っている。
そして一気に颯花を包み込み、
一瞬にして彼女の傷を癒す力があった。
「これは…一体何…なんなの…?」
やがて輝きは消え失せた。
彼女は不思議そうな表情をしながら、
自らの手の平を見つめている。
「…私は…何を…?」
「…」
真紅に染まる颯花はゆっくりと身体を起こした。
両手を見つめ、何故自分は生きているか、
そう思わせる仕草をしていた。
そして周囲を見た颯花は、
それをやったと思われる人物を見つめた。
「…君が…私を…?」
「ええ…よく分からないですけど…
私はあなたを助けること…出来たみたいです!」
「…なんで…こんな私を…まさか」
「次にあなたは、人を救うのに理由はいらない、
そういうと私は予想します」
「人を救うのに理由はいらない…って事かな…
…って…よく分かったね…」
「えっへん!私は勘がいいほうなので!」
「…とりあえず…移動しよう…ここはいけない」
5分経過して模倣能力が可能となり、
時を止め一気に裏道へ走っていった。
周りの時が止まっているのに、
彼女は不思議そうな顔をしていた。
「何ですかこれ…みなさん止まってますよ!?」
「ああ…私が時を止めた…ってこと」
そしてある程度歩いていき、
人気のない小道に入っていった。
「それ…すごい力ですね…」
「ああ…これは凄いよ…私の力じゃないけどね」
「あなたの力じゃない…?」
「私は能力を模倣出来るの…
それと、私は桐初 颯花。君の名前を聞かせてよ」
「私は桐柄って言います、是非あなたの人生を!
私のこの耳で聞かせて下さい!」
颯花は表情に出るほどに悩んだ。
こんな似てるだけの相手に話していい事なのか、
それとも命の恩人として話すべきか、
頭の中でふたつの意見が渦巻いている。
「…。聞いて後悔する…私の為にも、
それは聞かないで欲しいな…でも…」
「でも…?」
「それでも…聞きたい…?」
「…覚悟はありますよ!さあ!」
「…」
しぶしぶ颯花は知っている全ての最初から、
今現在までの流れを話した。
それを言って嫌われないか、
そう思いながら桐柄に全てを打ち明けた。
興味津々で桐柄は話を聞いている。
「へぇ…そんな日々が…」
「色々あったよ…様々な人が死んでいったり…」
「……」
「…あっごめん…空気重くしちゃったね…
とりあえず…君のさっきの力を教えてよ…」
颯花は桐柄の能力を聞いた。
しかし、彼女は何を言えばいいか分からなかった。
「えっと…よく分からないです」
「突然に生まれた力…試してみるか」
発動方法もよく分からず、とりあえず、
颯花がその能力を使って色々試した。
まずは道の端に落ちている石に触れた。
しかし、同時にその石は透明となった。
「…さっきは命を救い…次は透明にした…?」
「不思議ですね…なんでしょうこれ…」
次も似たような石に触れた。
しかし、今回は重力に反発し、
宇宙の彼方まで吹き飛んでいった。
似たような2人は似たような顔をする。
しかし、同時に勘のいいふたりは理解した。
「これは…」
「…触れた相手に何かが起きる…でしょうね!」
「…変な…能力…だね…」
「でもこれ…任意に発動出来ないから…
手袋とか買っておきなよ…多分大丈夫だと思うから」
「あっはい…ありがとうございます」
不意に桐柄は身に付けていた腕時計を見た。
別に焦るほどではないが、
少しだけ急ぐように別れを告げた。
「あと、そろそろ時間があれなので、帰りますね」
「ああ、君に話したおかげで楽になった。
何よりも命の恩人だし、感謝してる、んじゃ」
ふたりは互いの帰る場所へ帰っていく。
時刻は既に午後8時頃にまで過ぎていた。
しかし依然として人通りは止まず、
いつもの賑やかさが大通りにはあった。
桐柄は持っていたキャップを深く被り、
手袋を買って、それを身につけた。
さきほどの颯花を助けた時に写真を撮られている、
彼女はそう予想していた。
なるべく顔を見られないように早歩きで帰った。