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東方project 〜東方少女録〜  作者: mariari
~外界旅立編〜
153/245

宛のない復讐:2

「私はね…あなたが欲しいの…」


彼女はまず、言葉でそれを求めた。

それを分かっているかのように、

颯花は求められているそれを言い放つ。


「…私の…模倣能力を…だろ?」

「あなたのその力で…何でも出来るのよ?

どうして有効活用しないのかしら?」

「…何でも出来るほど…大事な事が出来ない。

お前みたいな空っぽの頭にはさぞかし便利だろう」

「…私を敵に回して…勝てるの?」

「…私は前みたいに弱くない…

立ちはだかった壁は…壊さなければ進めない」

「…」


その月の輝きが照らす屋上で、

殺気を放ったまま目を逸らさない。

薄く照らされる2人の表情は不気味さを放ち、

冬になり枯れた観葉植物や、

無人のように静まったビルと相まって、

見る角度を変えれば廃屋のような雰囲気がある。

その静かな世界は、朝を迎えるまで続く。

そして、時間の経過と共に住人を増やした。


「…霊夢…か」

「…」


相変わらずの赤と白の巫女の服の彼女は、

屋上の床に脚を踏み込み着地する。

足元に土煙が舞い上がる中、

彼女はゆっくりと体勢を立て直した。

そして彼女の視界は紫を映し、

その方向へと1歩ずつ歩み寄っていく。


「紫…あんた…今まで1人で抱え込んで…!

私は…あんたにとって…どんな存在なのよ…!

ただの駒だったって事なの…!?

使い捨てるだけの存在だったっていうの…!?」

「…違う…それは…」

「私は知りたい…何でもいいから…

…あんたの答えを言いなさいよ…!」

「…あなたが思う以上に…

私の心の闇は…深いってことよ…

あなたよりも…絶望を知っている…!」

「っ…!」


紫の右側に、ひとつの隙間が展開された。

その隙間は、霊夢の方角へ真っ直ぐと、

一筋の標識棒を撃ち込んだ。

隙間から放たれたそれは霊夢の足元に刺さり、

紫は霊夢の接近を強く拒んだ。

あと1歩歩んでいたら直撃していたという場所に、

ほぼ正確に、ただ真っ直ぐへ撃ち込んでいた。

霊夢を見つめる紫は視線を変え、

そして彼女の視線は颯花へと移った。

彼女は相手を求めるように手を伸ばした。

表情からは何か強い意志が感じられ、

求める手からは憎しみを纏ったような、

強く悲しげな力で求めていた。


「来なさい…来れば…願いは叶うわよ…」

「…」

「駄目よ…今の紫は復讐心の塊…

利用されて…使い捨てられるだけ…!」

「霊夢…今だってそんなものだ。

さとりや…この世界の妹紅達に…

既に利用されている立場なんだ…私達は」

「そんなの…分からないじゃない…!

…だから…相手を信じるしかないのよ…!」

「…例え…全てを裏切られたとしても?」

「ええ…疑うだけじゃ…進まないから…!」

「…霊夢…それではお前が…!」


行く手を阻むそれを霊夢は思い切り踏みつけ、

そして脚に力を込め、一気に蹴り飛んだ。

空に映る大きな月を背に、大きく飛び上がった。

彼女はそして、颯花に手を伸ばした。

その必死で求める手は、力強さと同時に、

彼女の心の中の優しさをも感じることが出来た。

その相手へと、真っ直ぐ、力強く手が伸びていく。

自然と颯花は反応するかのように手を伸ばしていた。

自分が無意識に優しさに惹かれ、

安らぎを求めている事さえ気付くことは無かった。

ただ、この手を掴まなければ、

2度と手を取り合う事は出来ないと、

未来を知らないにも関わらず、

彼女は何故かそう思ってしまっていた。


「…決まりね。さようなら…霊夢」

「ッ……!?」

「…何を…やめろ…八雲紫…!」


瞬間、紫は前方に大きな隙間を展開した。

そこから、古い雰囲気を放つ電車が姿を現した。

その電車は止まることなく前進を続け、

そして、颯花の視界から霊夢を消し去った。

目の前の状態に唖然とする彼女の手をすれすれに、

そして視界いっぱいに電車が横切った。

そして棒立ちのまま最後尾が通り過ぎ、

辺りには月が妖しく照らす静けさが戻った。


「…」

「…そんな簡単に、霊夢は死なない」

「でも…求める手は…私だけよ」

「…違う…」

「…?」

「私は…救いを求めちゃいけないんだ…

崖からただ落ちていく私が…

救うために伸ばすその手を掴んでしまったら…

私の代わりに崖のそこへ落ちてしまうから…

結局救われないのなら…私が落ちるべきなんだ…」

「…」


霊夢の手を求めた手は、

何も掴めなかった哀れな雰囲気と、

向ける方向が分からない怒りを力に変え、

相手を殺す為だけの武器を構えていた。


「知っているか…?殺す為だったら…

斬る剣よりも…突き刺す刺剣の方がいいらしい」


そしてもう片方の腕は、紫へ伸びていた。

その腕は、先程のように求めはせず、

ただ腕と同じく人差し指を真っ直ぐ向けている。

相手を一直線に指すその指と重なるように、

様々な感情を感じ取れる表情をしながら、

紫を、ただ見つめ続けた。


「壁は避けるものでも…飛び越えるものでもない…

壁は…ただぶち壊す為の…障害物だ…!」

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