同じ八雲で違う八雲
「…お前は何も分かっちゃいない…!
…利用されるんだぞ!命そのものを…!」
「…だから何だ。お前はまだ…
失うものの大切さを分かっていない…」
「ッ…!」
「やめなさい魔理沙…けど、
話しかけたのが馬鹿だった。
あんたはもう…ただの屍よ…!」
「…」
時は進み、夕方となっていた。
近くから撃ち上がっている花火が眩い。
その光が妹紅の表情を妖しく照らす。
しかし、彼女の瞳にまでは輝かせられなかった。
その表情は悲しげで、憎しみを放っている。
「見てみろ…咲いて…すぐ散る。
あれが…あれこそが…人間の命だ」
「…行くぞ霊夢、こんなの見てる気分じゃない」
「…」
2人は振り返ることなく来た道を引き返す。
妹紅はその場所から動かず、
ただずっと2人の背中を見つめていた。
「藍様〜次は何処へ行くんです?」
「ええ、どこに行きましょうか…」
街を歩き回る八雲藍と橙は、
まるでその近代風の都市の風景と
一体化している、そんな雰囲気だった。
街では相変わらず流れるように人が歩き、
その流れは止むことを知らない。
しかし、その平和な風景は、
とある一瞬の漂った匂いによって消え失せた。
「……?」
「ん……藍様…この匂い…!」
「……紫…様……?でもこちらの世界の…
でも…それでも、もう一度だけ…会いたい…」
「待ってください藍様〜!」
大通りを出て、人があまり通らない道に入った。
だんだんと思い出にある匂いが増していく。
「……来たわね」
「……紫様…」
「どの世界でも、もらう香水は一緒なのね 」
「この子から貰った…大切な香水…。
忘れずに、使っていたんですね。
こちらの世界の私達が…死んでしまっても」
「…」
電柱の上に座る八雲紫が、
ゆっくりと藍のもとへ降りてきた。
「でも…一体どうしていきなり…
ずっと…1度でも顔が見たかったんですよ…」
「…全く、こちらの世界の藍と本当に一緒、
凄く、懐かしく…前の記憶が蘇るわ…全部」
「…あっ橙、さっき行ったスーパーで、
卵を買って先に帰ってて欲しいの…」
「私もまだ一緒に居たいです…」
「あとで隠れ家まで来てもらえるから…
我慢して、お願い…」
「うーん…分かったです…」
橙は来た道を引き返していった。
それを最後まで藍は見守っていた。
「…やっぱり、分かっちゃうのね」
「…あの子だけは…駄目です」
「本当…こっちの藍にそっくり…
人思いも…優しさも笑顔も…そして…
それを見て思い出す…最期の死に顔も……!」
「…ッ…」
藍の腹部をひとつの道路標識棒が貫いた。
いともたやすく、躊躇いも無かった。
「その顔は…もう忘れたいのよ…
…私は……この壊れた世界を…破滅へ導く…!」
「…紫……様……復讐に…駆られては…
…駄目……です…いつか必ず…幸せが…
来ますから…その日まで…手を汚さ…ないで…」
ひとつの輝弾が藍の頭部へ直撃し、
彼女の頭を粉々に消し飛ばした。
紫の両手は震え、道の端に倒れ込む。
「……違う…この藍は別人…そう…別人…
私は悪くない…この世界が悪いのよ…!
こんな世界があったから…こんな…!」
「ぁ………藍……様……嫌…嫌だ……」
先程の道から橙は戻って来てしまった。
その藍の亡骸を見て、取り乱す寸前だった。
「駄目…気付かれる…こらえて…!!」
「ッ…!」
そっと背後に居た人物が口を塞いだ。
そのまま橙を抱きしめ、現実を見させまいと、
口から目へと隠す手は動いた。
そこから紫は姿を消し、亡骸だけが残った。
「…さとり達に伝えてきて……できる…?
彼女はあなたを守る為に命を尽くした…
だから…あなたが…みんなに伝えるの…!
2度と…仲間が…大切な人が死なないように…!」
「…」
橙は軽く頷き、隠れ家へ走っていく。
その人物は、藍のもとへ歩み寄り、
悲しみの表情を浮かべながら言った。
彼女はアリス・マーガトロイドだった。
彼女の部屋にひとつ手紙が置いてあり、
これからどうなるかだけを書かれていた。
外出していた彼女はその手紙に気付かず、
ここへ来た時にはすでに遅かった。
自分の周りに人形を配置し、周囲を警戒させた。
「最初から…分かってたくせに…
なんでこんな役を…
あなたが死ななくていいじゃない…
会いたいだけで…命を…捨てるなんて…!
何が…あの子を強く前へ進めるように…って…
結局…自分の為だけじゃない…!
もっと…他人のこと…考えなさいよ…!」