吸血鬼のように悪魔のように
「一体誰がこの件を広めたの!
あの子だけはせめてでも…
生かせるつもりだったのに…なんで!」
「落ち着いてください!
幸いに、彼女は師匠と同じほぼ不死身、
額を撃ち抜いたところを見せれば、
黙ってくれるはずですよ!」
「もしも保険として、焼けと言われればどうするの?」
「ですが…!」
そこに1人の人物が入ってきた。
複数のボディガードを連れたA国の代表だった。
小太りで白い肌、身体中に金品を身に付けている。
その男が永琳に話しかける。
「もちろん、殺しちゃってあげてください。
国を知らぬ愚か共に生きる義理はありませんよ」
「…」
「ん?まさか反論をするのですか?
こんな小国が歯向かって、勝てると?」
「反論はありません、
1週間後に死刑台へ送ります」
「結構、良い見世物になると良いですな…」
「…」
高笑いをしつつその男は退席していった。
自動ドアが閉まると同時に、永琳は机を殴った。
「…私が…あの子達のことを話さなければ…!」
「師匠は悪くありませんよ!
あれは仕方ないんですよ…誰も悪くない」
「…」
「お前が反国家思想の仲間か」
「…。誰だお前?…こんなポテトヘッド知らん」
「貴様無礼な!」
「よしたまえ、銃を下ろしなさい」
檻の中で鎖で縛られている颯花に、
先ほどの永琳と会話していた、
小太りの男が話しかける。
「3年前のC市の大量虐殺、知っているな?」
「C市…?ああ…懐かしいな…
まっ…確か…紅魔館の前の場所だな」
「ふん、知っているならば早い話だ、質問をする。
よく聞け、いいな?」
「…」
「その大量虐殺犯は死んだか?
それとも生きてるか?どっちだ?」
「それは二択か?」
「ならば他に何があるという?」
「三択目…それは、『殺した』だ」
ボディガードは驚きを隠せない。
こんな幼い少女が老若男女問わず殺した殺人犯を、
自ら殺したと言われても信じようがない。
「殺した?それは君らが持つ『能力』で?」
「YES」
「ほう、こりゃ驚いた。まさか他の住人にも、
特殊能力とやらを持っているとはな。
それでその歴史級犯罪者を殺した君に、
生きる道を与えようじゃないか」
「残念だが…あと数年は死ぬ予定はない」
「だが貴様は1週間後に世界に晒されて死ぬ。
だが私は実に優しい。
こんな生きる価値ない生物に、
生きることを選ばせてあげるのだからな…」
相変わらずその小太りの男は傲慢な態度で、
颯花に話しかけている。
しかし、颯花はただこう思っていた。
「(吸血鬼だからなのかは知らんが…
あのデブの肉、うまそう)」
そう、彼女は相手の話を全く聞いていなかった。
「…(ん、でもそこまで思わないかも…)」
「もし生きたいのならば、私の国へ来るといい。
君のその力があれば、何も怖くはない」
「…(でもなぁ…何か食べたいし…)」
「君は将来いい女性になるだろう。
私の妻にしてもよいぞ?」
「…(お腹空いたわぁ…)」
「さあ、来るか?力だけが正義の世界に…?」
「…。(やばい、話聞いてなかった…
力だけが正義の世界?何の話だ?)」
2人は目線を逸らさない。
檻で分けられた、天国と地獄のような世界で、
ただその小太りの男は彼女を見下ろしている。
ただなんとなく、その態度が気に食わなかった。
「とりあえず思ったことひとつ、
人にものを頼むときはな、頭を下げるんだよ?
どうかお願いしますってよ、犬みたいに」
「貴様!反国家思想罪は死刑だ!恥を知れ恥を!」
「ふん、存分にやりたまえ」
その数人のボディガードは、颯花に向けて、
何十発もの弾丸を撃ち込んだ。
檻の隙間をすり抜け、彼女へと向かう。
「いい機会だと思わないか?能力のひとつを、
存分に知る機会だってことのよ…!」
同時に、檻から彼女の姿は消えた。
同時に銃声は形止んだ。
「どうした、何故撃つのを辞めた!
撃ち殺せ…ぬっ!?」
その小太りの男はその状況を見て唖然とした。
彼を守るように囲んでいたそれらは、
首の断面図から血しぶきを上げていた。
その後、小太りの男に寄り添うように倒れた。
足の上に乗った死体を蹴り飛ばした。
「どう?これはレミィ…いや、君達が言う、
大量虐殺犯の仲間の能力だ…」
「よくやった…お見事だ…そして…!
い…いい力だ!まさに世界を支配する能力!
世界は時に添って動く、それを操るその能力、
まさに世界を支配する!文字通りだ! 」
小太りの男は高笑いを始めた。
両手を左右に広げ、盛大に笑った。
「…。腰が抜けないとは意外だな。
お前みたいな奴、戦争の後ろで眺めるだけの、
ただの傍観者だと思ってたけど」
「ふん…この程度、
私の過去よりも全然何ともない。
部下が死のうと上が生きていれば換えが効く」
その男は近くの椅子に座った。
颯花は自然とボディガードの頭を捨て、
地面に転ぶ複数の胴体を喰べていた。
しかし、それを見ても動じていない。
「換えが効く…聞いたことある言葉…
お前はメシアという人物を知っているか?」
「駒の名前などいちいち覚えていられんよ」
「ふん…そうか、あんたの名前は」
「名乗る必要は無い。この国よりも大きく力強い、
A国の代表を務めている者だ。
ちなみに私の外見はほとんどフェイクだ。
もはや誰にも男も女も、本当の体型も、
私以外誰も分かるまい…私は捨てたのだ…過去を。
だがな…前に君が使った能力の中に、
私の正体を知るきっかけがある。
興味があるなら考えてみるがいい…」
「ふぅん…。まさかね…」
そして自身が喰べているものに気付き、
即座に投げ捨てた。彼女に少しの吐き気が襲う。
「日に日に吸血鬼のようになっている。
不思議だが、
どこかで受け入れようとする気持ちがあるな」
「吸血鬼になろうと、生物である限り死ぬ。
残りの人生をどう生きるかは、君の自由だ」
「ん?今私の自由って言ったよね?」
「えっ」
「じゃ脱獄するわ、じゃあねポテトヘッド。
うまそうだけど金臭くて遠慮するわ」
「なっ…待てッ!」
颯花は再び姿を消した。
その牢屋の壁は鉄製の厚さ5cmの壁で囲まれていて、
扉も鋼鉄製で頑丈だったはずだが、
大きく中央に穴を開けられ凹んでいた。
慌てて男は携帯を取り、電話を掛けた。
「八意永琳!貴様の管理不足だ!
あのクソッタレなガキが逃げ出したッ!
国力の全てで、貴様の国の威厳を賭けて殺せ!」