世界へ旅立つ少女達:1
「ここまで来れば大丈夫だろう、たぶん…」
「たぶん…って、あんたねぇ…」
霊夢達はかなり遠くへ離れた。
周囲の木々が少なくなっていき、
舗装された道路などが視認できることから、
ここはもう幻想郷の外だという事が分かった。
「全員居る…?魔理沙…チルノ…アリス…にとり…
それに私、大丈夫そうね」
「私もいますよ」
「文…最初から居なかったし数えなかったわ」
「えっなにそれひどいですよぉ」
「死ぬ気で戦ってるのに観察みたいな事しかしないし
居ても居なくても変わらないわ」
「歴史的な戦いの数少ない目撃者として、
ひとつひとつ書き留めているんですよ?」
「目撃者も何も、
私達はね、死ぬ為に戦ってる訳じゃないからね?」
「……大ちゃん…」
「抱えて逃げてたら幻想郷と同じ運命を辿っていたのよ?
あの子の為にも、今は生きなきゃ駄目、分かった?」
「…」
「…で、あんた前にも会ったわよね」
「会った?何の話だ?」
「……えっ?」
霊夢達はその人物に導かれ、難を逃れた。
その人物は過去に会ったことはあるものの、
どうも知らないそぶりを見せていた。
その疲労した彼女達を助けるかのように、
一台の自動車がこちらへ向かって来た。
その自動車の助席から1人降りてきた。
「あれが…車ね、しかもあいつ…」
「…。霊夢、その妹紅はあの妹紅の別人よ」
「…(無心になれ…無心になれ…)」
「無理しなくてもいいのに…」
「羨ましい能力だけど、見られて困る時もあるのよ」
「敵じゃないからいいでしょ?」
「敵じゃないだけマシ、って言っておくわ」
その自動車から降りてきたのは、
別の世界から来た方の古明地さとりだった。
前とあまり変わらない外見だが、
灰の力によって体調が悪いのか稀に咳き込んでいる。
その後、霊夢は彼女に質問をした。
「で、この妹紅が別人とか何か言ってるけど、
それってどういうこと?こっちが本物ってこと?」
「本物ってなにも、両方本物の妹紅よ。
前私と一緒にこの世界に来たのが向こうの世界の妹紅、
今ここにいるのはこっちの世界の妹紅よ」
「あんた達、相当めんどくさい立場にいるわね…」
「まっ敵意はないから安心してくれよな…?
さてと、じゃああれに乗ってくれ。
これから行く所は、ここよりも安全な場所だ」
「こんな物騒な世の中に、
安全な場所なんてあるのかしら?」
「外に野ざらしみたいに生きるより、遥かにマシだと
思うけど…まあ来ないならいいけど」
「行くに決まってるでしょ!全く…」
とりあえずその自動車に全員乗り込んだ。
しかし定員を軽く超えており、
詰めて乗っても狭い状態だった。
「足を踏むんじゃない!」
「魔理沙こそスペース取り過ぎでしょうが!」
小さな喧嘩が始まりつつ、自動車は移動した。
その喧嘩は長々と終わることはないと思われたが、
車窓から見る景色が変わってからは、
喧嘩は収まり、全員が景色に集中していった。
「これが…都会…?」
「へぇ…かなり時代が進んでるじゃない…」
「なかなかこれはいい場所ですねぇ」
「あんたは疲れてないでしょ!飛んできなさいよ!」
「今から降りたら危ないですよ?」
「…あとで覚えておきなさいよ文…」
「過去は振り返らない私なんで(キリッ」
「…嘘つけ…」
そして更に進んでいくと、裏道のような場所へ入った。
そして、ひとつの建造物を前に車は止まった。
「着いたわ、降りて」
「すぐ近くに大通りがあるのに、
こんな近くていいのか?」
「隠れ家は5つあるの、心配しなくていいわ」
「5つもあるのか…意外だぜ」
「とりあえず資金源は問題ないの、でも条件があるわ」
「条件…?」
その建造物に入る前に、全員の足が止まった。
「別にそんなに警戒しなくてもいいのに…」
「そりゃあ警戒するでしょ、お前のことだぜ、
並のなことじゃないだろ?」
「ええ」
「えっ…認めたよこの人…」
「まあ単純に、過度の外出の禁止ってだけよ」
「…たいして問題ないじゃないか…」
「でもあなた達を狙う敵は大きいわ、
ここまで何事もなかったのは奇跡に近いほどね」
そして彼女達は再び建造物へ歩み始める。
その建造物は、内部は旅館のような構造で、
かなり多くの個室があった。
とりあえず全員分の部屋はあるようだ。
「……思ったけど、やっぱりあの人はいないのね」
「あの人?…もしかして…颯花?」
「なんで居ないのかは分かってるわ。
別に意外とあの人タフだし…大丈夫そうね」
「何もないといいけど…まあ心配しなくていいわよね」
「扱いが酷いな、あいつの…で、霊夢」
「なによにとり、どうしたの?」
「どうしたの?じゃなくて、その腕ボロボロだろ?
直すから外して、ほら」
「分かったわよ…でも片腕ないって不便ねぇ…」
「戦いの勲章とでも思っとけば?」
「あんたねぇ…」
全員が別れて個人個人の部屋へ入っていった。
そして1人玄関に残ったさとりの下に、
2人の人物が歩み寄る。
1人は自動車を運転していた人物である。
「一体…
私達の世界の妹紅は何を考えてるんでしょうね…」
「それが分かったら苦労はありませんよ。
会わないと脳内は見れませんし」
「藍様…お腹空いたです…」
「橙…では、なにか食べに行きましょうか」
「私も同行していいですか?」
「ええ、行きましょう」