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東方project 〜東方少女録〜  作者: mariari
〜紅蒼運命編〜
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記憶

「…」


彼女から紅い輝きが徐々に薄まっていき、

最終的には完全に消滅した。

そして翼は体内へと戻り、元の姿に戻った。

しかし、彼女に異変が起こった。


「まるで……本当に人形に…なったみたいだ…」


そのままの体勢で、大きく後ろに倒れ込んだ。

その後もピクリとも動かなかった。


「ちょっと…大丈夫………なの?」

「……ああ…フランか…参ったな……

今すぐには動けそうにない…私も、お前もな」

「…」


2人はその場から動かない。

まるで彼女達と同じようになりたくないかのように

周囲の景色だけが動いている。


「……いいや…やはりそうか」

「…?」

「…まだ終わっちゃいない、という事だ」

「え…?でも確かにあなたが木っ端微塵に…!」

「じゃあ…なんで君がその状態で…

何不自由…無くもないが…維持出来ているのか?」

「それは…」


颯花が見ているフランの背後の、

メシアの破片がピクリと動いたように見えた。

しかし、流石に錯覚と思っていた。


「待ってろ…必ず自由にしてやる…

私が動けるように…なったらな…」

「…無理しないで…ね…」

「………!」


再び視認した破片は、明らかに位置がずれていた。

錯覚ではないと思ったその時には、

事は一瞬にして終わり、既に遅かった。

破片は元にいた場所へと戻り、集まり、

まるで粘土のように液体状となった。

そして、再び例の姿へと戻った。


「……やれやれ、どう見たって……

お前の方がゾンビだよ…」

「…」


その不死身という言葉通りに復活した彼女は、

自身に何が起こったのかを、

まるで分かっていないかのように驚いていた。

しかも、あの剣も復活していた。


「何が……どうなっている…!」

「…そのまんま…だろ…蘇ったんだろう…な」

「聞いていないぞ…こんな力…!

不死身なんて気味悪いこと…

させてんじゃねーよ…あの糞野郎…」

「…(あの…糞野郎…?)」


誰かに怒っているかのように怒鳴っていたが、

そのまま颯花へと歩み寄っていく。


「…八つ当たり…でもする気か…」

「いいや…これは『ついで』だ…

もともと、殺す気でやりあっていただろ…?」

「まあ…そうか…そうだな」


そしてその動けない彼女の下へ着いた。

そこに立ち止まり、勝ち誇るかのような笑顔で、

足下の颯花を見下ろしている。

仮面越しに分かるほどだった。

しかし、すぐにその顔は悲痛な顔へと変わった。

手に持っていた剣が地面へ落ち、

メシアは空を見上げた。

しかしそこに青空は無かった。

照らす太陽はなく、延々と続く鼠色の雲。

更に雪まで降ってきた。

まるで、空が彼女を同情しているかのように。


「…だが…忘れていた全ての事を思い出した。

死んで分かるという…言葉通りにな」

「……そうか…。

…どうせ…惨殺された所までだろうな…

なぜなら……君と私は別人なのだから」

「そうさ…お前と私は別人、

同じ存在で、異なる人物。

私には憎悪が残り、お前には希望が生まれた」

「…希望……違うね…私に生まれたのは…

自分以外の人間への…不信感だけだ…

友人に見殺しにされ…信じていた主に殺され…

…だけど…記憶が飛んでいたのが幸いだった」

「…」

「心に余裕が出来た私は、色々なものを取り込み、

最終的には…君に残ったもの全てが消えていった」

「…私の心は、燃やされた身体以上に…

復讐心で燃え上がった…全ての記憶を捨てて。

君が光の存在というのなら…私は影だ…

光と影…いつも隣り合わせでも…

決して混ざり合うことのない存在…」

「…いいや…お前が影なら…私も影だ…

私達は…存在が異なるとしても…

私達2人で…ゼィルという存在… 」


その会話の中で、フランの身体がうっすらと

崩れ去っていくのが確認出来た。

それはメシアの戦闘の意思が消え、

命令が無くなり、やがてその蘇った記憶による、

何か見えない大切なものによって生まれた優しさ、

それが死の灰という存在を消していったのだった。

しかし、フランは彼女にそれを伝えなかった。

呪縛から解かれたように消えていく彼女は、

最後の最後に初めての笑顔を見せた。


「(…またね…ゼィル…。

レミリアお姉様…今…行きます)」

「(タイミングが悪いな…最後に一つ言いたかった。

だけど思ってる事は分かる。

君と私との関係に、『またね』は無いよ…。

……お元気で…フラン)」


颯花もまた、気づかないふりをしていた。

彼女を殺した相手と仲良く話していて、

見せる顔がなかったと思っていたからである。


メシアには、復讐心しか残らなかった。

ただそれによって、彼女には力が手に入った。

目の前の相手を躊躇いなく殺し、

ただ自身の復讐心だけを頼りに動いた。

人間のエゴの駒としてでも殺し、

いつか巡り会う復讐の対象の殺害だけを、

ただそれだけを望んでいるかのように。


「…お前は…人を殺し過ぎた。それは、

決して許されないことかもしれない。

しかし、その復讐心は自分の為じゃない…

友人であった咲夜の為の復讐心でもあった。

無意識に他人の為に戦っていたんだ…

泥を舐め、権力に犬のように従い、

どんな過酷だろうが己の復讐心だけを信じた。

お前はゼィルという存在に、

誰よりも…私よりもなっていたんだ…

自らを捨て、他人を憎み、阻む敵を殺して。

だけど…お前は決して桐初 颯花にはなれない…

なぜなら…桐初 颯花は過去の為に戦った。

復讐心が満たされる未来よりも、

生まれてしまった過去の為に戦っていたから」

「なぜ…過去の為に戦っていた…

出来てしまった物語は、書き換えなど出来ない」

「出来てしまったのなら…その原因を無くせばいい。

そうすれば…悲しみも…復讐心も…私達も…

この世から消え去ることが出来るんだ」

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