人形の吸血鬼:3
「…ぬっ…?」
突然と颯花の片腕に激痛が走る。
二の腕の部分を深く切り刻まれていた。
「やはりこいつは…時止めが…使える…!」
颯花は即座に咲夜の形態に変化した。
動ける時間差は片方のみの使用では大きいが、
時間稼ぎには充分だと思っている。
「今度は時を止めずに来るのか…!」
「…」
レミリアはそのまま颯花へ接近、
そして速度に任せて飛び蹴りをする。
「一直線に向かって来るのなら…!」
颯花は刺剣を取り出し、
レミリアの額目掛けて一気に突き刺す。
その刺剣と飛び蹴りが交差した直後、
刺剣の動きは止まることとなった。
「…動けん…!」
飛び蹴りが命中する直前の僅かな時間に、
レミリアは時止めを発動した。
これによって颯花も発動するまでの時間、
何度も殴り蹴りの連打を食らった。
その後遅く颯花も発動、反動で勢い良く吹き飛ぶ。
「グッ…まさか操られてるというのに…
そんな器用な事も…出来るとはな…」
全身の痛みを耐え、折れた刺剣を投げ捨て、
額から視界を阻む垂れる血を拭う。
「やっぱ…最初からドンパチ全力が…
手っ取り早くて考えなくても済む…!」
あらかじめ生やしている翼の力と、
片方は咲夜のまま、もう一つはレミリアへと変化、
咲夜の青と白に赤が合わさった姿になった。
「時止めは4秒少ない…パワー負けもしてる…
だけど戦うには充分だと思っている…!」
もう1本の刺剣を左手で取り出し、
右手には紅く輝くレミリアと似た槍を持つ。
それと同時に、レミリアも両手に槍を生成する。
「相手の戦闘方法に合わせるとはね…
それとも素手では自信が無いとかか?
……聞いても意味ないか…いくぞ!」
2人は互いに突撃する。
振る剣と槍が何度もぶつかり、
激しい火花を散らせている。
「久しぶりにこれを使ってみるか…!雷光球ッ!」
額から眩しく光る球体が射出された。
それは攻撃する力はなくとも、
互いの視界を潰した。
「やはりな…本体とは、
別の…視覚があるらしいな!」
直後にレミリアの動きは鈍くなった。
颯花は右手の紅い槍を振り払い、
レミリアの持つ二つの槍は弾き飛ばされ、
そして自らの槍もへし折れた。
「不完全な生成武器は流石に脆かったか…
だが私にはこれがある…!」
そして左手の刺剣を勢い良く突き刺す。
しかし即座に回避され狙った頭部とは外れ、
腹部の中心を貫いた。
そして同時に颯花はあることに驚く。
「…痛っ…!」
「………何だ…!?」
血は出ていない。更に感覚もないレミリアの身体は
痛みを確かに感じ取った。
互いに戸惑いの顔が浮かんでいる。
「まさか…ボタンで身体中を回ってる電気が、
脳の電気信号となって痛みを表したとでも…!?
馬鹿な…そんなことあるのかよ…!」
「駄目!油断しないで!」
「…ぬっ…!」
レミリアの右手に生成された紅い短剣は、
刺剣を持った左腕ごと切り離した。
その断面から血が吹き出す。
「ギッ…この程度…
巫女の必殺技より…マシ…だ!」
右手の風圧結界でレミリアを吹き飛ばす。
そして高度を下げ、腕を拾った。
「ちょっと痛いが…溶接する!……うぐッ…!」
断面に電気を流し、熱で無理矢理溶接した。
酷い火傷と出血が悲惨さを物語っている。
「…やっぱりあなた1人じゃあ…!」
「…いいや…大丈夫だ。
…へいきへっちゃらってな!」
溶接で繋がった腕は、小指を除いて正常に稼働。
しかし同時に二つの力が時間切れとなった。
「なっ…こんな時にかよ…!」
そのまま垂直に落下していく。
しかし地面に向かって風圧結界を使う事で、
その風圧をクッション代わりとして使った。
「これでなんとか落下死は免れたか…」
「馬鹿!敵はまだ健在なのよ!
そんな隙だらけで!」
「なっ…容赦ないなこいつは…グッ…!」
頭上から颯花を踏みつけ、
かなりの高度から颯花を大地に叩きつけた。
その衝撃で地面に大きな亀裂が生まれた。
「そうさ…これを待っていたのさ!嘘だけど!」
直後、颯花の場所から伸びる亀裂の終了地点から、
レミリアに向かって二つのアンカーが絡み付いた。
亀裂によって生まれた空洞にアンカーを投げ込み、
そして相手の動きを制限することが出来た。
「動きは止められた…だけど身体の負担が…!」