人形の吸血鬼:2
かなり遠くまでレミリアを運んだ。
強い力で抵抗するレミリアに突き飛ばされる。
「しかし…電気ボタンは取り付けた!
これでどう!?」
電気が流れる音は出ている。
しかし依然とレミリアは戦闘態勢だった。
「なぜ効かない…!?」
「何がどうなってるのよ…なんなのよ!」
電気でメシアの操作は妨害している。
しかしまだ戦闘態勢な事にしばらく時間を要した。
たが今回ばかりはさっぱり分からなかった。
颯花の脳内世界に無限に増える例えと言葉が、
彼女の脳内を駆け巡る。
「…。(命令は取り消されない…いや、
咲夜の場合を元にして考えてみるのなら、
あれは攻撃されるまで待機という感じで…
いや、脳からの信号を阻害していた?
電気を流すことで無理矢理体が動かせたのか?
だが今回は敵の殺害…それは敵がいる限り
常時命令が働く…待機時間がない…
そのせいでボタンが無意味だったのか?
意志よりも命令内容を優先的に動く…が咲夜は
待機時間で命令がなかったからこそ動けたのか?
例えを作るほど仕組みが分からない…)」
颯花の意識は現実に戻る。
目の前には大きく映るレミリアの拳があった。
それをギリギリで回避する。
「(だけど…今回は、今回だけわかったことがある…
それは…今回だけは救いようが…無い事だ…)」
「あなた苦い顔してないで説明しなさいよ!
どうして私はこんな事になってるのよ!」
「…じゃあ、レミィはどこまで覚えてる?
死んだ時の記憶はあるか?」
「質問に答えなさいよ!
質問されてもさっぱりだわ!」
「なら…ざっくりと簡潔に言う。
お前は無理矢理生き返らされ『利用』されている」
「生き返った…どうやってよ!無理でしょ!」
「お前を生き返らした者に常識は通用しない!
私の実力ではすぐに終わらないだろう…
今のお前はただの魂が入った人形だ。
私はそこからお前を引きずり出す!」
「人形…?いいえ…私は生きてるわ!」
「生きていると言うのなら、
その身体に痛みや痛覚はあるのか?」
「っ…」
「不愉快だろうな。いきなり生き返って、
そして目の前で自分が人をまた殺しそうになり、
そしてたいしてどうでもいい奴に殺す、
なんて…言われてさ…」
「どうでもいいなんて…」
レミリアは言葉を返せない。
交流が少ないのは確かだった。
「まだお前は向こうに行けない。
私はあんたを楽に倒せるとは思えない。
だから…せめて再び死ぬ時まで、
目を閉じて休んでくれ…
無理に現実を…見なくていいんだ…」
「…そんな無責任なこと出来るわけないじゃない…
こんな私にそんな権利なんてないっ!」
「いいや、お前にはある」
「どこに!」
「お前に!」
颯花はレミリアを見つめる。
その目は見た目は強気に睨んでいても、
その奥では泣いているように感じ取られた。
「お前は人を殺し過ぎた…地獄じゃなく…
すぐに存在が浄化されるかもしれない!
だが!だけどお前は悲しんではいけない!
今ここで悲しみに押し潰される必要はない!」
身体は依然として勝手に動く。
何度も相手を攻撃し、痛みつけている。
自身には痛みも何もなく、
ただその光景を見せられているだけだった。
そんな状態でレミリアにはどうしようもなかった。
「必要がないって、どうして言い切れるの!」
「それはお前を思う人がいるからだ!
お前はまだ忘れ去られていない!
物理的には死んでいる…だが!
本当に死んだ時は仲間に忘れ去られた時!
だから貴様はどこへ行っても死なない!
悲しんでくれる人が居るからこそ!
決して消えることのない存在になる!
悲しませてる奴が自分にまで悲しませるな!」
「悲しませてる…私が?」
レミリアの拳は受け止められ、
強く両手で握られている。
そして颯花は言った。
「だから…もう休んでいいのさ。
お前を愛した咲夜の為にも…
お前は死んだ、だが無駄死にじゃない!
私達は死んだ仲間を背負って生きていく!
仲間の灰を…忘れる事なく生きる糧として!」
「…」
レミリアの身体は腕を振り払い、
颯花を突き放した。
どんなにダメージを受けても、
颯花はその瞳の眼差しを止めることはない。
「だからもう悲しむ必要はない。
だからもう休め、仲間の為に。咲夜の為に」
「…じゃあ………あとのことは頼んだわよ」
「それでいい…それでいいのさ。今は」
レミリアの意識は消えた。
彼女の意識は再び目覚めることはないだろう。
少なくともそうなって欲しいと思っている。
これ以上咲夜と彼女の愛した人が、
悲しんで欲しくないからな。
「これで躊躇いなくやれる…
その前に自分が死ぬかもな…」
それまでに受けた多少の攻撃でも、
レミリアの攻撃は身体に負担を蓄積している。
「さあ…やるか。やはり咲夜には、
こんな汚れ仕事をやらすわけにはいけない…!」