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東方project 〜東方少女録〜  作者: mariari
〜紅霧異変編〜
11/245

召使いと機械人形

「負けただと…この私が…なんで!?」


ジャンケンにやたら大袈裟に悔しむ。

どうやら彼女はとても負けず嫌いなようだ。

こちらの廊下の方が完全に薄暗い。

雷光球の光以外に、光るものはない。

窓側のカーテンを開けてみたが、

満月がほぼ正反対側にある為に、

開けても光源にならず、明るくはならなかった。


「暗いなぁ、もう…」


部屋の扉を一室一室開けていったが、

どれも同じ部屋と思ってしまうほど、

テーブル等の家具の配置が統一してあった。

その長い廊下をかなり歩き、とある一室に、

扉の下から明かりが出ている部屋があった。

颯花はその扉をゆっくりと開ける。

そこには人が居て、椅子に座っていた。

その人物は青と白のメイド服を着ていて、

白髪のお洒落の様で、

どこか物静かな雰囲気の女性が、

何か日記の様なものを書いていた。


「来ましたね、ジーグ。

いや…ゼィル・アルフ・ノイズ・セカンド。

アルフから下の名前はあの人物から、

聞いただけの事ですけどね」

「何ですかその外国人の偽名のようなものは」


何かの暗号の様な言葉を発したメイド。

言葉の意味を全く理解出来ていない颯花。

彼女は、自分の知り合いであるのだろうか。

相変わらず颯花に記憶は残っていない。


「あなたはここに来ることは予想してました」

「だから、貴方誰よ?」

「やはり…」


「あなた、何も覚えてないのね」

「そっそうだよ…」


今回は相手を騙せる自信がなかった。

嘘を言ってもすぐにバレてしまうと、

颯花の直感はそう感じていた。

彼女は何かを知っている。

記憶を無くした私を妙に悲しい目で見ている。


「私の名前は十六夜咲夜。現館主に使えています」

「見た目でわかるわ…で、

あなたと私の関係ってどんな関係なの?」

「そして、貴方と私は、

この館の…旧館主に使えておりました」

「…えっ?」


どういう事なのだろうかと、

急に颯花は詳しく知りたくなった。


「…これを読んで、私に同情するなら、

ここから立ち去りなさい」

「…」

「これを読んで、それでもなお、

自分の信念と意志を貫くのであれば、

私はこの先で…貴方と戦います。

貴方を、お嬢様と会わせてはいけない」

「…?」


私は過去に何かしてしまったのだろうか。

読まなければいけない使命感に駆られる。


「では、また。ゼィル。私は信じています」

「…」


その後、咲夜は部屋から退室した。

颯花は早速本を手に取り読み始める。


「…私は…どんな奴だったんだ…?」


━━━━━━━━━━━━━━


ある日、館主が二人の少女を連れてきた。


どう聞いても、ただはぐらかすが、

実験動物と独り言で呟いていたので、

私はどうしても救い出したかった。


やがて日は重なる度に、とある声が聞こえる。

毎日、地下室から彼女達の悲鳴が聞こえる。


度々その部屋から出てくる館主の両手は、

ただ当然のように真紅に染まっている。

不気味な笑みを浮かべる館主は、

まるで感情のない化物だった。


私は彼女達の悲鳴が頭から離れない。

やがて使い仲間から心配されるほど、

身体にも心にもヒビが入った様に、

ボロボロの状態になっていく。

結局何も出来ないまま、自分を責め続けた。


ある日、館主がやたら嬉しく叫んでいた。

なんでも実験が成功したらしいと、

私達召使いの間で噂された。


次の日、一人の新人が来た。

その人物を見て私は疑問を持った。

私は彼女にどうしても不信感が残る。

やたら、二人の少女に似ていたからだ。


私は彼女に色々聞いてみたが、

彼女は自分のことも何も知らない。

生まれも育ちも何も知らなかった。


ある日、実験内容を私は聞いてみた。

またはぐらかされるだけだと思った。

しかし、彼女は躊躇いなく言った。

当然かのように、ハッキリと言った。

もう既に君達が知っている通りだ、と。


私は新人に陰湿ないじめをしていた。

館主を止めたいのと、何も出来ない自分を、

彼女に重ねてしまっていた。

分かっているけれど、辞められなかった。


彼女はいつも笑顔だった。

その笑顔に不気味さを感じるほどである。

どんな時も。怒られても。蹴られても。悲しくても。


やがて私は知った。


彼女は感情を表に出すことが分からない。

ただ最初に見た館主の笑顔を真似していた。

しかし、その仮面の下には、

悲痛な顔があった事を誰にも分からなかった。


彼女は珍しく泣いている。笑顔ではなかった。

とうとう聞かれた館主が、何の感情なく、

ただありのままを教えたのだろう。

そして知ったのだろう、自分の生まれを。


ある日、彼女は言った。

それはほとんどの事を言い当てていて、

私がいじめていた理由を的中させていた。

咲夜はとても冷や汗をかいた。

それを弱みとして利用されたりなど、

ただ悪い方にだけを考えていた。


彼女は提案した。二人を助ける事を。

私には断る理由は無かった。

私は当たり前に賛成した。彼女は笑顔を取り戻す。

しかし相変わらず機械のような笑顔だ。


ふたりは行動を始めた。

見事に誰にも会わず、地下室まで移動した。

そこには血で染まる少女達の姿があった。

鎖を外し、その地獄から解放した。


そしてそのまま誰にも見つからずに、

館の外まで移動することが出来た。

二人の少女は笑顔で感謝をしつつ、

自分達の居場所へ帰っていった。


少女らは軽やかに空を舞っていった。

ふたりはそれに見とれていた。

やがて少女達の姿は見えなくなり、館にもどった。


その廊下で、館主に出会った。





気がつけば、周囲は悲惨な状況へ変貌していた。

付近には彼女の腕が転がっている。

頭部から大量の出血で、意識が朦朧としていた。


私は拘束されている。

目の前の柵の向こうには彼女がいた。

彼女の解体を、見つめさせられている。

斬られたり刺されたりと、まるで玩具の扱いだった。

しかし彼女は叫び声も、涙も流さない。


ただ一言だけ私に言った。私は大丈夫だよ。


私はただ泣くことしか出来なかった。

また私は何も出来なかった。


次の日。私は目覚めた。

すると、私を拘束する器具が壊れていた。

彼女に虫が集っている。


振り払い、その血塗れの彼女を抱いた。

彼女はまるで抜け殻のように冷たかった。

私は悲しいのに、涙も出なかった。


後ろで館主が嘲笑う。

それを見て私は戸惑いを隠せなかった。

館主の顔が彼女の顔に似ていた。


何故か殴れなかった。

別人なのに、彼女と重ねて見てしまう。

ただ泣く事しか出来ないでいた。

相変わらず涙も出ない。


拘束されていた間、その後、

かなり館の雰囲気が変わった。


召使い仲間はまるで機械人形のように、

ただ命令され、動くだけの存在になっていた。


自分が周りと違っている。自分の方がおかしいと、

そう思ってしまってしまうほどだった。


ただ逃げ出したかった。自分が壊れそうだ。


逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい痛い痛い

いたいたいたいたいたいくるしいくるしい

くるしいくるしいくるしいくるしいたすけて

(字が乱雑に書かれていた。

颯花は思わず声を上げ本を投げた。

そのページは狂気を感じるほどで、

1つのページにぎっしりと書かれている。

目を凝らせばやっと見える程度だ。)


時は流れ、二人の少女が帰ってきた。


姉は信念を貫く様な目をしている。

妹は未だにか弱い状態だったが、

以前のトラウマは無いようだ。


少女はただ私が正しいと言った。

そして彼女達は壊れた人間を壊していく。


仲間であった分、悲しかったが、

既に壊れたみんなを救うにはこれしか無かった。


しかし、館主が居なかった。彼女の死体が無い。

館中を探したが、痕跡すらなくなっていた。


館主が彼女を持って行ったと、思うと、

(字が滲んで読めない。涙で滲んでいるようだ。)


館の人間が私以外全て壊れた頃に、

私は、再び彼女と会う。


館主の嘲笑っている顔ではない。

しかし、私にはどちらの人物かを、

判別することは出来なかった。


彼女の顔は、怒りに満ちている顔だった。

彼女はまず私を殴り倒した。

またがり更に私を殴っている。


その度に何かを私に言い放っている。

みんなを殺す必要はなかった、と。


そしてその後、姉妹の姉が彼女を蹴り飛ばした。

窓を割り突き抜け、外へ蹴り出された。


姉が私をそっと抱いた。

何も言わずに私を抱きしめてくれた。


辞めてください、お嬢様、

お洋服が汚れてしまいます。


そう言いつつ、私は抱かせない様に離れる。

私は全てを失った代わりに、答えを手に入れた。


壊れていたのは、自分だと。

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