咲夜の追憶:3
私は現実を見た。
「……ッ!」
「ゼィルっ!」
彼女は大きな切断する工具によって、
周囲を血で染めた。
咲夜は思わず現実から目を背けた。
しかし、隠しきれてない視界に、
彼女の右腕が写った。
「…やめなさい…貴方…生物を弄んで…
そんなこと人間がする事じゃないわ!」
「…なら、私は死神となろう。
今は…こいつの運命を司っている…!」
「全く貴方は…!」
「こいつは私の失敗作だった。だから壊す。
こいつにはもう価値はない。
だが、瀕死状態になってまだ、
生きようとするならば私は助けよう」
「そんな…悪魔な…!」
「言いたいだけ言え、目を逸らしたいなら逸らせ。
彼女が君の友達なら、彼女の運命を見届けて
あげようじゃないか?」
「…貴方は…おかしいわ…!」
続いて、左腕を切り取られた。
同じく大量に出血した。彼女の意識が遠のく。
咲夜は拘束されていて、どうすることも出来ない。
ただ目の前の惨劇を見せ付けられている。
「…ぁ…咲…夜…」
「…無理をしないで!死んでは駄目よ…!」
「私は…大丈夫…だから…」
「全然大丈夫じゃないじゃない!
貴方はそれでも…そんな簡単な人生でいいの!?」
「…私は…君と出会えて…それでいい…」
「ゼィル…!」
彼女は1度も悲鳴を上げず、涙も流さない。
彼女はいつもの笑顔を無理にしていた。
そして、夜が開けた。私は気絶していた。
そして、拘束具が破損していた。
私は彼女の元へ向かう。
「…」
彼女に集る蝿を振り払う。
そして血塗れた彼女を抱いた。
彼女は冷たかった。
悲しいのに、涙も出ない。
「どうやら…友情はその程度だったんだな…!」
「…」
後ろで館主が嘲笑っている。
私は彼女の顔を初めて見た。
彼女は、ゼィルだった。
私はこの時、彼女を殺せた。
けど、身体が動かなかった。
憎しみと戸惑いが混ざりあった。
私はただ泣くことしか出来なかった。
だが、相変わらず涙が出ない。
次の日、私は開放された。
しかし、この館は前の雰囲気とは全く違った。
召使い仲間はまるで機械のようになった。
ただ黙々と仕事をこなしている。
まるで、自分の方がおかしいと思わせるように。
私は何度も脱出を試みた。
結果は全て駄目だった。
召使い仲間がほとんど後ろを追ってくる。
この歯車の巣窟に逃げる隙が無かった。
そして数日後のことである。
「…貴方を…助けに来た」
「貴…方…はあの時の…」
「私は、レミリア・スカーレット」
「レミ…リア」
「貴方は正しい。間違っていない。
私はこの間違っている世界を壊す」
「…」
咲夜の目の前に現れたのは、
自らが助けた少女達の姿だった。
そして、彼女達は次々と仲間を殺していった。
私は悲しかった。
けれども、機械となった彼女達を助けるのは、
これ以外に方法は無かった。
「館主がいない…ゼィルも…!!」
館中を探した。しかし痕跡も無かった。
私は復讐の機会と、友人を失った。
涙が出ない。ただ悲しく叫んだ。