咲夜の追憶:2
彼女はいつも笑顔。人形のように。
怒られても悲しくても、
不気味と感じてきた同期が怖がり、
それを指摘したときも。
けどそれは違かった。
彼女は感情が無かった。
表面で物事を表すことが出来なかった。
だから、初めて人の表情を見た時の、
その館主の不気味な笑顔をただ真似していた、
それだけだった。
表面は笑っている。けど、内面は泣いていた。
昨日の夜、珍しく彼女は泣いていた。
誰も通らない地下室前の廊下で。
自分の生まれを教えて貰ったんだろうと、
そう私は理解していた。
相変わらず、笑顔だった。
今日、彼女は私に言った。
「私をいじめているの、分かってるよ?」
「…っ!」
背中がゾッとした。
見破られたことで、自分の未来を握られた、
そう考えていて、目眩などが更に酷くなった。
頭が真っ白になった。
「私の予測だと、君はあの子達を助けたい、
けど一人だからどうすることも出来なくて、
貴方は私を自分と重ねて見てしまっているのね」
「…なんでそこまで分かるの…?」
「ふふ…秘密。1人で抱えるなら、
私と協力して救い出そうよ!」
「でも私は貴方を…」
「いーのいーの!全然された気しないし」
「…ありがとう…でもどうやって…」
「館主のあの地下室の出入る時間、
決まって15分なの。そこを使うわ」
「でも、鍵が…」
「大丈夫、私器用だから!」
あとから気付いた。あの落とせそうもない汚れ、
ものの3分で見事に落としていた。
だんだん体調が優れてきた。
次の日、私達は決行した。
2人だけで、あの子達を助けに。
相変わらず彼女達の悲鳴が響く。
そして止み、館主が地下から出てきた。
姿が見えなくなった所で、 私達は実行する。
「相変わらず入口も鍵が2つ…厳重ね…」
「大丈夫…?開くかな…」
「大丈夫、こんな100均な鍵、朝飯前ね」
その後扉が開く。
地下室への廊下は、空気が凍っているほど、
すごく寒かった。
なるべく早く移動する。
いくつも部屋があり、その様々な場所に、
紅い血が付着していた。
「あそこの部屋、明かるいわね」
「あそこの血が新しい…決まりね」
再び、ドアの鍵を開ける。
しかし、今回は時間が掛かった。
3分程度だったが、それはかなり、
私達にプレッシャーをかけた。
「…居た。まずは鎖を外して…」
「貴方達は…?」
「助けに来たのよ、まあ…ここから出るわよ」
「…」
「咲夜…廊下見張ってて」
「時間かかりそう…?」
「ええ…だけど大丈夫」
そして、2人の拘束具は外れた。
彼女達はやせ細っていて、
全身に怪我をしており、出血も酷かった。
軽く手当をして、外に出る。
「廊下に人影なし。行こ」
「あと少しよ、頑張って…」
そして、裏口から外に出た。
彼女達は硬い表情で笑いつつ、ありがとう、
そう言って旅立って行った。
「終わったわね…
あとは私達が気付かれないように」
「そうね…ここでバレたら全てパーね」
「ねえ…今回は本当にありがと…」
「いいの、気にしないで」
「…うん…」
今は1階、私達の部屋は3階ほど上だった。
足音を立てないように、靴を脱ぎ少しずつ歩く。
「君達、面白いことしてくれたね」
「…っ!」
「咲夜っ!」
私は、背後からの打撃で気絶してしまった。
目が覚めると、そこはあの少女達の部屋だった。
「お目覚めかい?十六夜 咲夜」
「…」
「そう、怖い顔するなよ。
今から面白いの見せてやる」
館主のそこには、ゼィルが居た。
館主は両手に様々な医具、工具を持っていた。
「何をする気なの…悪いのはあたしなの!
彼女に何かしたら…!」
「連帯責任だ…貴様にも彼女を見届けてもらう」
「見届ける…?」
「ふふ…そうだとも…」
「止めて…それだけは!」
「止めないさ、これだけは止められない!」