閃光の魔理沙
「どうしたのしら?もう諦めたの?」
「なわけ」
徐々に魔法陣の前に光が集まっていく。
発射するには時間がかかる魔法だと、
魔理沙はそれを見て予想した。
「…おっそいな!早くしろよ!」
「高火力魔法に、チャージタイムは必須なのよ。
そんなことも知らないなんて、
「やっぱり魔法使い、辞めた方が良かったのよ」
「ん?必須…?違うね。例外がある」
魔理沙は服のポケットから、
何かが刻まれている物体を取り出した。
全体的に黒い色基準に、白い線が囲むその中央には、
陰陽玉の模様が描かれている。
「そんなガラクタでどうしようと?」
「これがガラクタに見えるあんたも悪い。
後で後悔するぜ…覚えときな」
「…?」
パチュリーは不思議そうな顔をした。
「これには、あんたの常識を覆す力がある」
「…馬鹿馬鹿しい、そんな筈ない」
魔理沙はそれを前に両手で構える。
それを見てパチュリーは馬鹿にしたように、
妙に小高く嘲笑う。
「そんなもので…。
せっかくのチャンスを無駄にしたわね」
「…どうかな?」
「まあいい、貴方が死んでも悲しくも何ともない」
「…そうかい…ヘッ。…死ぬ気は無いけどな」
パチュリーの目の前の巨大な魔法陣は、
少しずつ集めていた光を集め終わる。
巨大な魔法陣に相応しいほどの大きさの、
見事に大きなエネルギー量だった。
「これを見て腰を抜かさない所も、
そこだけは褒めてあげるわ」
「いーから、さっさと撃てよ。
ノロノロノロノロ、遅過ぎるっつーの」
「…」
パチュリーは腕を魔理沙へ向けた。
同時に魔法陣に集められた巨大な光は、
その2人を包み込むほどの大きな輝きを放つ、
真っ直ぐ進み全てを消し去る閃光となった。
「…火力勝負。負ける気は無い…!
いくぜミニ八卦炉、恋符『マスタースパーク』ッ!」
「あの世で悔い改めてなさい!
私の魔法で何もかも消し飛んでからね!」
魔理沙が手に持っていたミニ八卦炉から、
同じく巨大な閃光が出現した。
光を集めることも無く、即座に放たれた。
「…!?」
そしてふたつの閃光は重なり合った。
互いを触れた閃光が激しく火花が散っている。
火力は五分五分であったことに、
パチュリーは驚きを隠せないでいた。
「一体何なの!それは!」
「ミニ八卦炉だ!覚えときな!」
「今なんて言ったの!聞こえないんだけど!」
「知るか、自分で考えろ!」
両者がちゃんと会話が聞き取れないほど、
自身の攻撃に集中している。
気を抜けば、互いに死を迎える事となる。
しかし、パチュリーの作成したエネルギー量は、
未だ健在であり、尽きる時が見えない。
「あなたのそれが、そんな道具が、
このエネルギー量を耐え切ることは出来ない!
さっさと諦めなさい!」
「私に二言はない!お前が諦めるんだな!」
長々と続く勝負は未だに決まらない。
しかし変化はあった。
魔理沙の足場のつるは、熱で枯れていた。
彼女の行動を防ぐものは無くなった。
「(おっ、有難いわ)」
「くっ、もっと出力を上げるわ…
これで…終わりよ…霧雨 魔理沙!」
巨大な魔法陣の周囲に魔法陣が展開された。
その魔法陣から閃光が走り、
中央の閃光に混ざり込み火力を底上げする。
「くっ…くそっ…なかなかやるな…!」
「どうやら…それが限界のようね!
そのまま押し潰されなさい!」
どんどん押されていく。
勝敗は、決まってしまったのだろうか。
しかし、依然として魔理沙は諦めていない。
「あんた、楽しかったわ!」
「…」
「生まれ変わったら、
私がいつかは欲しい召使いにしてあげるわ!」
「…」
「恐怖で声も出ないのね!」
「…」
「何か返事しなさいよ!」
「…」
相変わらずパチュリーが問い掛けるが、
どんなに話し掛けても返事がない。
気絶でもしているのだろうか。
そう思った、その時だった。
「お前、何処に話しかけてんだ?」
「なっ…なんで…なんでそこにいるの!」
魔理沙は閃光の放つ向かい側には居なかった。
彼女がいた場所は、パチュリーの真後ろだった。
その状況に彼女は困惑する。
「どうして!?いつの間に!?」
「私がその質問に答える言葉、
それはさっき、それだけだ」
「さっきって…じゃあこれは一体…!?」
前方では、まだ閃光が火力勝負をしている。
しかし、魔理沙は真後ろに居る。
閃光を放つ相手は誰も居ないはずであった。
「何が、どういうことなの…!」
「親切な魔理沙さんはこう答えました。
単に、道具を信頼しただけだぜ」
「えっ…?」
「つまり、あんたの正面には、焦げた箒と、
ミニ八卦炉しか無いってことだ」
「まさか…!?道具に頼るなんてどうかしてるわ!」
「あんたの常識ではな」
魔理沙が1歩ずつゆっくりと歩む。
それを拒むかのようにパチュリーは魔法陣を展開、
しかし、隣りには豆粒ほどの魔法陣が生まれた。
前方に魔力を集中しているせいで、
他に回せる魔力が残っていなかったせいである。
見た目も大きさもとても貧弱だった。
そしてそれはそれ相応の小さな光を飛ばした。
それを食らっても、魔理沙はものともしない。
煙が出ただけの、痛みも傷もない光だった。
「火力を上げ過ぎたな、知能勝ちだ」
「ありえない…あんたの全てより、
私の方が上よ!…認めない…!」
「自分に甘いからそうなる。
そんな女性、一番嫌われるぜ」
「なっ…!」
魔理沙は更にパチュリーの元へ歩み続けた。
彼女は5m程の距離で立ち止まる。
そしてポケットから瓶を取り出した。
しかし中身は水の様な色をしている。
「この液体はな、空気に触れると爆発するんだ」
「…何をする気…!」
「そのままの意味だぜ…
分からないのなら…今から教えてやる!」
魔理沙は投げる構えをした。
それを怯えて、パチュリーは抵抗した。
再び小さな魔法陣が出現するが、
そこから放つ極小の光では何も出来なかった。
「プレゼントだ!受け取れ!」
「なっ…!」
瓶はパチュリーの頭部へ直撃。
大きな音を立てながら、割れて中の液体がかかる。
しかし、その後の状況に彼女は硬直した。
やがてパチュリーは思わずツッコミしてしまった。
「ただの水じゃねーか!」
「うん、いいツッコミだ。パチパチ」
それのせいで気が抜けたパチュリーは、
前方の大きな魔法陣を解除してしまった。
ミニ八卦炉から放たれる閃光が、
前方にいる彼女を今にも包み込もうとする。
「くらえ!私のとっておきだ!」
「しまった!」
そして閃光がパチュリーを包み込んだ。
意識が遠のく中、パチュリーは敗北を認めた。
「(私の負けだわ、霧雨魔理沙。
貴方を一流として、認めたわ)」
彼女はそう思いつつ、大きく後ろへ倒れた。
全身が焦げ臭くなっているが、
死に至るほどの怪我はしていなかった。
どうやら魔理沙は直前に手加減をしていたようだ。
「あー、おい…大丈夫か?」
「…むにゅむにゅ」
「…寝てる?気絶か?」
とりあえず彼女は道具を取りに行き、
その道具に向かって感謝を心から思った。
「(ありがとな!)」
焦げてボロボロになった箒と、
発熱でとても熱くなっているミニ八卦炉。
彼女は、2つのそれらを大事そうにしまった。
そしてパチュリーの方へ戻り、確認する。
相変わらず寝ている。それだけだった。
「おい、風邪、引くぞ」
「ぬーん…」
魔理沙は呆れ顔で、帽子のリボンを解き、
一枚の布となったそれを、彼女にかけた。
「これこういう使い方しないんだけどな…
まあ…後で返してもらうからな!手数料込みで」