7 私立図書館で
まずはお父さんについての詳しい話を聞くことにした。
「秋斗君、お父さんのリストラにあった直接な原因とか理由はわかる?」
「うん。お父さん、おれと母さんに全部ちゃんと説明してくれたから。
お父さんが中心になって取引していた会社が、もう潰れそうなのにそれを隠して契約を結んできたんだ。で、結局破綻して父さんの会社も大打撃を受けちゃって、父さんが責任を取らされることになったって。
会社も酷過ぎるよ! 父さん、今までずっとあんなに頑張ってきたのに」
いつも穏やかな秋斗君には珍しく、ぷんぷんと怒りを露にしている。
それだけお父さんのこと、尊敬してるんだ。
「・・うーんと、要はその取引先の会社と契約を結ばなければいいのよね。
でもどうやって・・・・私達が過去に行って、直接お父さんにそう言っても、こいつ何言ってるんだって信じてもらえないだろうし・・」
「そうだね、うちの父さんは非現実的なことは一切信じないから、未来からタイムマシンで来たなんて絶対信じないと思う。
真面目でやや頑固な人だから、仕事に子どもが口を出しても相手にしないかも」
秋斗君は、また腕を組んで、目線を下や横に泳がしている。
「・・大人のフリして手紙を出すとか」
「それよ! 匿名で、貴方が契約しようとしてる会社の経営状態は危ないです、 考え直してくださいって書くとか」
「それ、いいかも! 父さん言ってたんだ。
もっと契約を結ぶ前に相手の会社の調査をするべきだったって。
忠告があれば調査も徹底してやるんじゃないかな」
「決まりね。図書館に行く? ネットとか手紙のマナーとかの本も見たいし。
便箋は私、無地のを持ってるからそれを使おっか」
私は立ち上がって、引き出しから便箋と封筒を取り出して、ペンケースと一緒にカバンにいれた。
「なんか、さくらちゃんって、心強いな。頼もしい」
「まっかせて! 計画を立ててやるのは得意だから。絶対成功させようね!
秋斗君!」
「うん! ありがとう」
*****
家から結構近くにある市立図書館は、そんなに大きくはないけど、自習室も空きが多いし、静かで使いやすくて昔から利用してる。
県立図書館は、ちょっと遠い。でも去年建て直されたのでピカピカだ。
今までなかった広いパソコンブースやオーディオブースも充実している。
ふかふかのソファでDVDとか観れてちょっとリッチな気分になるんだ。
自転車で三十分かけて行く価値はあるかもしれない。
今日はもちろん市立図書館。
まずは書籍の検索くんで、大人の手紙のマナーの本を探して借りた。
次にネットが自由に使えるパソコンのコーナーで、秋斗君のお父さんの会社のホームページを検索。正式な会社の名前とかをメモった。
あと、取引先の会社名も。
「相手は子会社だからホームページもないね。ありふれた名前だから似たようなとこが何個もある。どれかな」
「そこはまあ、特定できなくても、お父さんは分かるだろうから問題ないよね。
うーん、どんな文がいいかなあ」
私達はパソコンを終えて自習室に移動した。
ノートを広げて、 まずは下書き。本を開いて、それっぽい言葉を探す。
「えっと、書き出しは・・・拝啓。高木様。突然のご無礼をお許しください。
あ、高木様の前に役職名も書いた方がいいのかな?・・・っと。
私は、小野商事の・・・えーっと、名前は何にしよう?」
「佐藤、山田、鈴木あたりが無難かな。いそうな名前」
「そうね。・・佐藤と、申します。・・実は、我が社の経営状態は過去最悪です。
・・相手の会社のことは貴社、ね。んで、自分の会社のことは弊社。
えっと、貴社との契約を・・結ぶために、このことは秘密にしておりましたが、このままでは弊社はまもなく倒産し、貴社にも多大な迷惑を及ぼすでしょう」
「差出人は、最近クビにされた人って設定の方がいいかもね。
わざわざ自分の会社の弱みをさらすのは不自然だけど、辞めさせられた人なら納得するだろうし」
「なるほど。そうね」
「あとは・・・」
二人であれこれ案を出し合って、なんとかそれっぽい文章を書き上げた。