32 すごく怖かった
目が覚めると、ふかふかベッドの上。
ああ、やっぱりこのお布団は本当に気持ちイイ。
ぼんやりした頭で天井を見上げる、お洒落な喫茶店にあるような、ガラスのライトがぶら下がってる。キラキラしてて・・・星みたい。すごく綺麗。
「瀬川さん、目が覚めましたか?」
「・・・せんせ・・」
起きようとして、目の前がくらりとした。
「ああ、いいですよ。まだゆっくりしていてください。
たくさん走って疲れたんでしょう。
ココア、いれますから、寝ててください」
もう一度お布団に身を沈める。
先生の声は低くて穏やかで、私はほっと息をついた。
・・・助けられたんだよね、はるにい。よかったー・・。
ココアの甘い香りで目を開ける。
「す、すみません。また寝てしまうところでした。
このお布団、ふかふかですっごく気持ちよくって」
「あはは。いいですよ。寝ても。まだ四時前ですし。はい、どうぞ」
渡されたココアは熱すぎずちょうどいいあったかさ。
やっぱりちょっと薄いけど。
この前ここに来た時に私が猫舌だって話をしたんだっけ。覚えてたんだ、先生。
あれ? ココアが好きだって話はいつしたんだったっけかな・・。
顔を上げると、先生はベッドに座って、じっとこっちを見ていた。
「あの、本当にありがとうございます」
「さっきお家に電話したらお兄さんが出ました。
私にお礼を言ってくれましたよ。お礼はあなたに、と言っておきました。
よかったですね。未来を変えられて」
「はい」
「聞きましたよ。赤ん坊を助けに道路に飛び出したって。
お兄さん、寿命が縮まったと言っていました」
「あ、あはは。夢中、だったから。
・・・でも、・・・怖かったです。赤ちゃんが車道に歩いているのを見た時も、トラックが目の前を通り過ぎて行った時もだけど・・・、
走って公園に向かうときもずっと、上手く行かなかったらどうしようって・・」
頬をつだってぼろぼろと涙が落ちた。
ほっとしたら急に、涙腺がおかしくなったようで、今頃になって涙がどんどん出てくるし、身体がカタカタと震えてきた。
先生は私の手からカップを取ってベッドサイドのテーブルに置くと、私の隣に座った。
「よく、頑張りましたね。あなたはすごい人だ」
先生は真っ白なハンカチでそっと私の涙を拭う。
部屋が薄暗いから、顔を隠す事なく私はそのまま泣いた。
「す、すごく・・・怖かったんで、す。
病院で、・・・ベッドにいる、は、はるにいを見て、もう、し、死んじゃうと思ったから。
タイムマシンで助けられるって思って、必死でやったけど、もし、もし・・・、未来が変えられなかったらどうしようって。
考え出したら怖くて怖くて、怖くて。・・・ほんとに、よかった・・」
先生は私が泣き止んで落ち着くまでずっと、ぽんぽん優しく背中を撫でてくれていた。大きな大人の手はパパみたいで、やけにほっとした。




