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25 先生の恋バナ

「そういえばさー、浅井先生の好きな人ってどんな人なの?」


お昼の出前で取ってもらったラーメンをすすりながら、秋斗君がいきなり直球で聞いた。

「え? な、なんです? 急に。お、美味しいですか? ラーメンは」

「ラーメンは美味しい。酢豚もすっごく美味しい。ここ、今度家族で行ってみようと思う。で、浅井先生の好きな人の話、聞かせてよ」

「ええっ? ら、ラーメンの話は?」

「もう終わったよ。ラーメンの話題は。次は浅井先生の話」

焦りまくりの先生と、落ち着き払った秋斗君。

なんかこの二人のやりとり、おもしろい。


「別に減るモンでもないし、いいじゃーん。今時、小学生でも恋バナの一つや二つ、話してるよ」

「ええ!?」

秋斗君の発言に先生じゃなくて私が反応してしまった。

「あれ? さくらちゃん、恋バナは苦手派?

・・それとも、もしかしておれが初恋とかー? はは、そんなわけ・・・え?

ホントに?」


冗談めいて言っていた秋斗君が顔を赤くして固まる。

おそらく、私はそれ以上に真っ赤な顔をしてるんだろう。

だって、図星なんだもの。

初恋なのよ、秋斗君。

小学生の時は恋バナなんて、縁がなかった。友達のを聞く専門。

恋愛に興味なかったっていうより、ママが働きだして家のお手伝いもあったりして、心にゆとりがなかったというか。


しばらくの沈黙。

すぐに復活した秋斗君は話題の中心を先生に戻した。


「ね、さくらちゃんも聞きたいよね。浅井先生の話」

「う、うん。よかったら教えてください。誰にもいいませんから。ね、先生。

どんな方なんですか?」


先生はラーメンのどんぶりの横に箸を置いて、肩をすくめて額を掻いた。

私もつられて箸を置く。


「・・・ええっと、そ、そうですね。ええと。その・・・。

すごく、すごく素敵な人ですよ。綺麗で、優しくて、明るくて前向きで、いつも笑っているような。とにかく、素晴らしい女性なんです」

先生は少し赤くなりながら、もごもごと小さな声でそう言った。

なんだかこっちまで伝わってくるような照れっぷり。


「はー・・・。すごいベタ褒め。ホントに好きなんだなー。その人のこと」


思っていたよりずっと情熱的な一面も持っているようで、私も秋斗君もすごく驚いた。はぐらかされるかと思ったらかなり真剣に答えてくれてるし。


「でも、綺麗で素敵で優しくてって、すごすぎて全然イメージできないけど」

確かに、全部抽象的な表現だから、具体的に想像できない感じだよね。


「すみません。女性の容姿を、どう表現していいか、さっぱり分かりません。

あ、髪は長いです」

ははと苦笑いする先生。そこに秋斗君がすかさず言った。

「ね、写真とかないの? その人の」

「え!? しゃ、しゃしん、ですか?」

この慌てっぷりは、持ってるな。


私と秋斗君は二人で先生ににじり寄った。

「先生、見せてくださいよー」

「そうだよ、ここまで言っておいて、出し惜しみはナシだよなー」

ぐいぐいと二人で先生に迫っていったら、先生が目をぎゅうっと閉じた。


「わ、わかり、ました! 食事の後で、出しますから。

ほら、ラーメンが伸びないうちに食べてしまってくださいっ!」

「やたっ! おれもう食べ終わるよ」

楽しそうだなあ、秋斗君。

私も大急ぎで残りを食べた。



そして食後。

先生は「ちょっと待っててくださいね」と赤い顔で寝室に行って、 五分くらいしてようやく戻って来た。


「あ、あの・・・えっと、ぼやけているので、あんまりお見せしても分からないかもしれないんですけど」

先生はテーブルに一枚の写真を置いて、そそくさと窓際に逃げた。

私と秋斗君は、パチパチ瞬きしながらそれを見た。


「・・・全然わからない」

「・・・うん」


目を細めてみても凝視しても、見事なピンボケ写真だ。

今時カメラはみんなオートフォーカスとか手ぶれ機能とか色々ついているのに、どうしてこんな写真が出来上がるのか。

謎だ。

写真の真ん中にいる女の人は髪が長くてスタイルも良い、・・と思う。

ちらっと見える横顔は整った顔立ちをしているような気も・・しなくはない。

なんとなーくはわかるんだけど、はっきり言って顔はよく分からない。


「先生、もうちょっとまともな写真はないの? これ、隠し撮り?」

「す、すみません。とても本人には話しかけられなくて。

その、かなり離れたところからズームで撮ったので、ピントが。

緊張して、手も震ってしまって」

「先生、タイムマシンの前にカメラのいいやつ発明した方がいいんじゃない?」

「私は人前では緊張する質ですから、好きな人の前では、とても・・・。

まともに、顔も見れません」


私達がピンぼけ写真を返すと、先生はそれを大事そうにパスケースのようなものにしまった。

「浅井先生はかなり重度な奥手だね」

「告白とか、しないんですか? そんなに好きな人なのに」


先生は目を伏せ、ぎゅっと自分の白衣の胸元を握った。


「・・・ずいぶん前に、一度、・・・思い切って思いを伝えました。

けど、受け入れてはもらえませんでした。

それにもう、彼女は私にとって手の届かない遠い存在になってしまいましたから」

「そう・・・なんですか。でも、先生は、それでいいんですか?」


先生は私の目を真っ直ぐ見つめ、困ったような顔で少しだけ笑う。


「私は、笑っている彼女を見ているだけでいいんです。

それだけで。

でももし、彼女が私のことを少しでも見てくれたら、と思うこともあります。

私では彼女を幸せになんでできないでしょうし、叶わない夢だろうと思っていますけど・・・」




今日、こうやって話を聞いて、浅井先生の印象がずいぶん変わった。

ただウジウジしてるだけのひ弱な草食系かと思いきや、

すでに告白しちゃってて、フられてもなお彼女の幸せを願ってるなんて。

ツラい恋をしてるのね、先生。


前は、変態ロリコン教師なんて思ってごめんなさい。

絶対に本人には言えないけど、私は心の中で深く謝罪した。

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