20 リンゴとトマト
先生のマンションの部屋を出て、エレベーターに乗る。秋斗君は身を屈めて私の顔をのぞき込んだ。
「さくらちゃん、浅井に見とれてた?」
「へ?」
「彼氏の前で、他の男に見とれるなんてなぁ」
「そ、そんなことないってば!」
私は両手と首をぶんぶん横に振った。それを見た秋斗君は、ぷっと吹き出した。
「あはは。ウソウソ。ウソっていうか、冗談だよ。
さくらちゃんは顔を見ると考えてること全部分かるね。
でも、まあアレはしょうがないか。あんなにイケメン教師になるなんて、
おれも本当びっくりだよ。さくらちゃん美容師にもなれるんじゃない?」
「もうっ。からかわないで」
「だって自分の彼女が、他の男の髪を切ってる状況ってさ、けっこう嫌というかおもしろくないというか・・。途中でストップさせるわけにもいかない
からガマンしてたけどさあ」
秋斗君はちょっと口を尖らせる。
え? これって・・
「・・秋斗君、・・やきもち、焼いてくれてるの?」
「そうだけど?」
ツンとそっぽを向く秋斗君の顔はちょっぴり赤い。
「相手は先生なのに? 二十歳越えの大人だよ?」
「年は関係ないよ。男はオトコだよ」
「・・先生、好きな人いるって言ってたじゃない。私のこと見てたのはタイムマシンのこと、聞きたくてタイミングを図ってたって」
「それはそうだけど。・・でも、ヤなんだよね」
なんか、秋斗君がかわいい。子どもっぽい拗ね方。
思わず今度は私がぷっと吹き出してしまった。
「笑ったな、さくらちゃん」
「ふふ。ごめんごめん。だってなんか意外で。秋斗君って穏やかな感じで、妬いたりするイメージなかったから」
「えー?」
秋斗君は思いっきり不満そうな声を出した。
そう言えば、秋斗君と話すようになった最初のころも、おれはそんな奴じゃないよって言ってたっけ。
私、勝手にイメージ作り過ぎちゃってたかな。
秋斗君と一緒にいる時間が増えて、気付くことはたくさんある。
ああ、秋斗君ってこういうところもあるのかなって。そういう意外な一面を知った時はいつもなんだか嬉しくなる。
秋斗君は私の方に向き直り、両手を伸ばし私の両手をぎゅっと握る。
「おれはね」
それだけで私の全身がぶるるっと震う。
どきどきどきどき、心臓が高鳴る。
これは、緊張と・・期待?
「おれは、さくらちゃんが思ってるよりずっと、さくらちゃんのこと好きだよ」
きゃーーーーー!
そ、そんなこと、こんな至近距離で言われるなんて、
は、恥ずかしすぎる!
「・・・」
どうしよう、なにか答えなきゃ。でも・・、なんて?
だめっ! なにも浮かばないよー!
「ぷ。あはははっ!」
ぐるぐる考えていたら、秋斗君の大笑いが聞こえてようやく顔を上げれた。
「さくらちゃん真っ赤。リンゴみたいになってるよ」
「あ、秋斗君だって! トマトみたいになってる!」
私達は手をつないで向かい合ったまま、じっと見つめ合い、同時にぷぷっと吹き出して笑い出した。
「おれは言いたいことを言っただけだからさ。無理して何か言い返そうって悩まなくてもいいよ」
そんなことまで付け加えてくれた。




