19 まるで別人
「瀬川さん、謝らないで下さい。短くして欲しくてお願いしたんですから、いいんですよ」
そう言って笑う先生は、もうなんて言うか、まるで別人。
誰?って言いそうになっちゃったくらい。
自分で切っておいてなんだけど、やり過ぎだ。
「おー、いいじゃん、先生。なんか爽やかな青年だね」
秋斗君はこっちにやって来て、くるりっと先生の回りを一回りした。
「浅井先生、短い方が似合うよ」
「そうですか? ありがとうございます」
「おでこの傷、すごい。昔のケガ?」
「いえ。子どものころ脳の手術をしまして。その跡です」
髪を切って露になった先生の額には、真横に大きく縫い跡があった。
もしかして、これを見られるのが嫌で髪で隠していたかったのかな。
だったら、私、悪いことをしてしまったのかもしれない。
「へえ。なんかカッコイイ」
「そうですか?」
「うん。サイボーグみたいで。マンガに出てきそう。
明日は学校で女子にも男子にもきゃーって言われるよ。楽しみだね」
「そういうのは苦手ですが、嬉しいですよ。ありがとうございます」
秋斗君に褒められて、先生は照れた顔で苦笑している。
私は気を取り直して、櫛で梳いて、耳の辺りの右と左の長さをそろえて、普通のハサミで飛び出たところとかを切って、全体的に仕上げをした。
「・・・いちおう、終わりました」
ちょっと自信がないので声が小さくなる。
先生の髪をもう一度払って、首の布を取る。
「まだ髪が少しついてると思うので、ここで落として下さい。
掃除機で吸っちゃいますから。そのあとバスルームに行ってシャワーで流してください」
「わかりました」
先生の切った髪は新聞紙の上にこんもりと山になっていた。
わあ。やっぱり切り過ぎちゃったなあ。
新聞紙をそのまま畳んでごみ箱に捨てる。飛び散った髪を掃除機で吸って、後片付けは終了。
「お疲れさま、さくらちゃん」
「どうしよう、秋斗君。私、あんなに短く切るつもりじゃなかったのに。
やり過ぎちゃったよー。気が付いたらあんなに短髪に!」
「いいんじゃない? 似合ってた感じだったし」
「ありがとうございます、瀬川さん。おかげでスッキリさっぱりしました。
いやー髪を洗うのも楽でいいですね。頭が軽いですよ」
バスルームから出て来た先生は、本気で別人だった。
無精ヒゲも綺麗にそられてるし。
人って髪形でこんなに変わるんだなあってつくづく感心する。
先生って、こんなカッコイイ人だったんだ。
今まであの長いボサボサな髪で隠されてた顔がこんなに整った顔だったなんて正直信じられない。
短い髪はツンツン立っていて、今風な感じになってるし。
秋斗君じゃないけど、うっすら見える額の傷跡がなんだがカッコいい。
テーブルに置いてある黒いフレームのメガネをかけると、先生は私に向かってにっこりほほ笑んだ。
「どうもありがとうございます」
「あ、い、いえ」
なんだか思わずどきっとしてしまう。
その瞬間、ぐいっと手を引かれた。
「さて、今日はおれ達もう帰るね」
「あ、はい。長い時間、どうもありがとうございました。今日のバイト代です」
先生はそう言って、棚から封筒を取り出して、秋斗君と私にそれぞれ渡した。
「是非また来てください。
ああ、それと、タイムマシンのことを含め、このことは他言しないように。
私と貴方達の秘密、ということで、お願いしますね」
「はい」
ペコリとお辞儀をすると、なぜか秋斗君に引っ張られるようにして部屋を出た。




