1 あれから三ヶ月
『さくらとタイムマシン』シリーズ、第二部です。
三ヶ月前、学校帰りにタイムマシンを拾った私。
離婚寸前だったパパとママの仲をどうにかするために、兄のはるにいと協力して過去に行った。
二人がケンカをし始めた原因はちょっとしたすれ違い。最初は小さかった溝がだんだん深くなって取り返しのつかない状態になっちゃったみたい。だから、過去のパパとママといっぱいいっぱい話して、お互い話し合うように説得した。
そしてめでたく、未来を変えることができた!
すごく嬉しい。
我が家は一気に明るくなった。
パパとママは、今では見てるこっちが恥ずかしくなるくらいラブラブ。
*****
あれから三ヶ月経って、季節は秋。
先週中学の体育祭も終わって、十一月に入ったばかりなのに、もうクリスマスケーキの予約受付とかのチラシがポストに入って来てる。気が早い。
・・そっか、世間ではもうクリスマス。
今年はどうなるかなあ。
去年は、・・去年のクリスマス記憶は、明確ではないけど二通りある。
おかしな感じなんだけど、タイムマシンで過去を大きく変えたから、記憶が混ざってるみたい。
一つは、うちで家族揃ってホームパーティをやった記憶。
部屋の飾り付けもばっちりで、ケーキも料理もママと一緒に作ったんだ。
パパなんてサンタの赤い三角帽子をかぶってた。
もう一つはぼんやりとだけど、・・パパもママも仕事で忙しくてクリスマスどころじゃなくて、はるにいも私もそれぞれ友達のクリスマスパーティに呼んでもらった記憶。
シンとした家に帰ってきた時、さびしくてちょっと泣いたっけ・・。
過去から未来に戻って来て、目が覚めたらあまりにも色々なことが変化していて、何もかも驚いた。
でも、日が経つごとに・・寝ているうちにどんどん記憶が塗り替えられていく感じで。逆に以前のことは途切れ途切れにしか思い出せなくなってる。
変な感じだけど、不思議とああそういうものなのかって受け入れられる。
ママがいなくて寂しくて悲しかった思い出がどんどん消えていって、家族みんなで楽しく笑って過ごした思い出に変わって行くのは本当に嬉しかった。
・・それでも、パパとママがケンカしてたとことかは、よっぽど衝撃的だったからか、今でも頭に焼き付いていて忘れられない場面がいくつかある。
もう今更悲しくもないし平気だけど。 思い出すと胸がズキリと痛む。
でも、家族みんなが仲良しでいられる今の毎日はすごくすごく、すごく大事なことで、 これが当たり前だって思わないように、前のことも少しくらい覚えていた方がいいのかもしれない。
だから、忘れなくてもいいのかなって思う。
今年もママはきっと張り切ってクリスマスパーティを開くんだろう。楽しみ。
あ。ブッシュドノエル作ってみたいな。ママに頼んでみようっと。
*****
晩ごはんの用意をしながら、ママとクリスマスに作るごちそうやケーキの話で盛り上がる。ママはすごいお料理好きだった。
遊んでくたくたになって帰って来たはるにいにもさっそく何かリクエストはあるか聞いてみた。
「クリスマスにホームパーティ? いい、いい。俺パス。
この前和彦にクリスマス遊びに来いって誘われたし。ゲーム仲間で集まる予定」
はるにいはパタパタ手を振って、記念すべきホームパーティを否定してきた。
はるにいは私よりずっと順応性が高いみたい。
戻って来た次の日の夜には、パパとママの離婚話なんかなかったみたいな顔してケロッと過ごしてた。
私は未だにパパとママがキスしてるとこ見ちゃうとあたふたしちゃうのに、はるにいは何にも動じないし。
クリスマスのことにしても、去年もホームパーティやっただろ、なんて平然と言ってるから、うまいこと記憶を塗り替えていってるんだなあって感心する。
それにしてもクリスマスにゲームって・・・。
それってクリスマス関係あるの?
ただ単にみんなで集まってゲームしたいだけでしょ、と突っ込みたい。
「つーか、お前、今年はアキトとカレカノになって初クリスマスじゃん。
デートだろ? デエト!」
「なっ! は、はるにいっ!」
「まあ、さくらってば。そうならそうと言わなきゃ」
はるにいの発言にママがすかさず反応する。ママ、こういう時はすばやい。
「いいのよ、うちの家族パーティは二十五日にやれば。
だってほら、その方がケーキのイチゴも鳥肉も安く買えるんだし、絶対お徳よ。
あ、そうだわ。春樹もさくらもお出掛けだったら、ママもパパと二人でデートして来てもいいかしら?」
なんてママもすっかりルンルンしてる。
「俺らも彼女持ちの奴は誘ってねーし。カップルはクリスマスデートしとけ」
「そーよ、さくら。カップルには超重要イベントよ」
「そうそう。プレゼント渡して、盛り上がって、ちゅーしてな」
「きゃあ、春樹ったら」
「もうっ、わ、私、部屋で宿題してくるっ」
これ以上ここにいたら二人にいいようにからかわれてしまう。
赤い顔を外したエプロンで隠して、私はすばやくその場から逃げ出した。
*****
部屋に駆け込みベッドに転がる。
・・そうなんだ。実は先日、つい先週に、秋斗君が、こ、告白してくれて、私達はお付き合いすることになったんだ。
付き合うって言っても、まだ、手を握ったくらいけど。
秋斗君の顔を思い浮かべただけで顔がかあっと熱を持つ。
心臓もバクバクいってる。
こんなに緊張しちゃって、どうしよう。
こんなんで、これから私、ちゃんとお付き合い、できるのかな・・。
うさぎとねこの編みぐるみをぎゅっと抱きしめる。
キス、なんて・・考えただけでも倒れそう。
自分の思考に余計恥ずかしくなって、私はしばらくベッドに伏せったまま起き上がれなかった。