17 髪を切ろう
そういうことで、私はひとっぱしり自分の家に戻って散髪セットを取りに行くことになった。玄関で靴を履きながら秋斗君に小声で言う。
「秋斗君、先生とケンカしちゃダメよ。仲良くね」
「ケンカはしないよ。さっきの好きな人の話、詳しく聞きたいなあって思ってるけど。ホントかな」
秋斗君はちょっとイジワルな顔で笑ってる。先生のことイジる気満々だよ。
「まあ、ほどほどにね。それじゃ、いってきまーす」
「うん。気を付けて」
梳きバサミと普通のハサミ、櫛と霧吹き、首に巻く大きな布。
わが家の散髪五点セットを持って戻って来ると、リビングの方から秋斗君の歓声が聞こえた。
「うっわ、すごい! あ、これも、すっげーー!!」
嬉しそうな声。いったいなんだろう?
「あ、さくらちゃん! おいでよ、見て見て。すごいんだよ!」
キラキラした目の秋斗君の手には、図鑑のような分厚くて大きな本。
開かれたページ には、宇宙に浮かぶ惑星の大きなカラー写真が載っている。
「すごい、綺麗ね」
「でしょ? おれ、こういうのすっごく欲しかったんだよね。でも、図鑑とか専門書ってめちゃくちゃ高いからさー。とても手が出せなくて」
「この本棚の本は全部私の私物なので、いつでも読んでもらって構いませんよ。
ほとんど趣味で集めた物なので」
さすが理科の先生。ページをめくる度にすらすらと詳しい解説までついてくる。
秋斗君、うれしそう。星に興味があるなんて知らなかったなー。大発見。
先生はソファから立ち上がって私の方にやってきた。
「瀬川さん、わざわざ取りに行っていただいてすみません。
どこで切りましょうか?」
「あっと、まずは古い新聞紙を何枚か床にひきます。
あ、切り終わったらすぐにシャワーを浴びれるようにしておいて下さい。
あと、簡単に脱げる服に着替えて下さいね」
「はい」
「さくらちゃん、僕も何か手伝おうか?」
秋斗君も立ち上がる。
「あ、ううん。大丈夫。・・大丈夫じゃないかもしれないけど、梳きハサミは一本しかないし。困ったら呼ぶね」
「あはは。じゃあもうちょっと読んでていい? それに失敗しても大丈夫。
ほら、すぐ近くに美容院あるし。いざとなったらあそこに行けば。
それに髪の毛はまた伸びるんだしねー」
「もう。秋斗君ってば」
広げた新聞紙の真ん中にイスを置いて、先生を座らせて首に布を巻く。
笑ったらちょっと緊張がほぐれた。
霧吹きでシュッシュと髪を濡らすんんだけど、なにぶん髪が長いのでなかなか大変。
「先生、どのくらいの長さにしますか?」
「瀬川さんにお任せしますよ」
おまかせ・・・悩む言葉だなあ。
夕飯のメニューを考えてるとき、はるにいに「何食べたい?」って聞いたら
「なんでもいいよ」って言われた時みたいな。
まあとりあえず全体的に長過ぎるし、どんどん切って行こう。
チョキチョキチョキ・・・梳きハサミは、長さを短くするには何度も何度もチョキチョキしないといけない。
めんどいけど、普通のハサミでばさっと一気にやっちゃうのも勇気がいるし。
よーし、と気合いを入れて、私はひたすらハサミをチョキチョキしていった。




