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16 先生の好きな人

「先生、もっとしっかりしてください。

部屋の掃除もそうですけど、身だしなみも。目が赤い時は目薬を射すとか」

「髪の毛もぼさぼさだもんね、浅井先生は」

先生はまたも、はあ・・と苦笑いして、ばさっと顔にかかった髪を掻き上げた。


「もっときちんとしたらいいのに。私の友達も、先生はお洒落すればきっと格好いいのにもったいないって言ってましたよ」

「いやあ、その、お洒落とかはよく分からなくて、苦手です」

「とりあえず、その髪、短く切ったらどうですか? さっぱりと」

「あー、これ・・、なんだかほおっておいたらズルズルと長くなってしまって。

切りたいですけど、ちょっと・・、美容院とかは苦手で」


先生は長い髪を指でつまんで、やっぱり苦笑いした。

つまんだ髪を見ていた視線が、私に向けられる。


「瀬川さん、もしよかったら、切ってくれませんか?」

「え! えええ?  む、無理ですよ。そんなの」

突然の先生の提案に、私は立ち上がって無理無理無理って、手を顔の前で横に振りまくった。

「大丈夫、どんなふうになっても文句は言いませんよ。

私が自分で切るより。 断然いいと思いますし」

「おいコラ待て、セクハラ教師。さくらちゃんに何やらせようとしてるんだよ」

秋斗君は私を庇うように前に出て先生をキッと睨みつける。

こんなケンカ口調の秋斗君は初めて見る。なんか舌巻いてるし。


先生はこほんと咳をした。

「・・高木君、私を誤解しているようなので言っておきますけど、私は別に瀬川さんに何かしようとしているとか、下心がある訳ではありませんよ」

「今までのあんたの行動すべてが怪しいんだよ! 授業中だって・・」

「タイムマシンを持っているのが瀬川さんかなと予測していたんですが、その、お話を聞きたいと思って、その、タイミングを計らっていたのですが・・。

・・なかなか話しかけられなくて。私、怪しかったですか? すみません」


「あ、いえ。そうだったんですか」

なんだかな。

こんなに素直に謝られてしまっては、そうですかと言うしかない。


「それに私は、間違っても中学生の女の子に手を出すような、特異性を持つ変質者ではありません。

ちゃんと・・・あの・・・・好きな方は・・います、し」

最後の方はくるりと後ろを向いて、聞こえないくらい小さな声だったけど、確かに今、好きな人がいるって言ったよね!


私と秋斗君はびっくりして目を合わせた。

「うそ!? 本当に?」

「先生の好きな人って、想像できないなあ。どんな人なんですか?」

「そ、それは言えませんよ。秘密です」

先生は横を向いていても分かるくらい耳まで真っ赤になっている。

あれ? なんか、ほんと意外かも。

先生ってこんな人なんだ。・・・純朴な人なんだなあ。

なんか共感持てちゃうかも。


「でも、それならなおさら、身なりもきちんとしないと。先生。

好きな人に嫌われちゃいますよ」

「はい。じゃあ、お願いできますか?」

あ、そういう流れなの? 

美容院とか床屋に行ったら?というつもりで言ったんだけど。

先生の懇願するまなざしが突き刺さる。

私が やっちゃって、いいのかなあ。

「・・腕は保証しませんよ。

私、兄の髪を切ったことはありますけど、仕上げはママがやりましたし。

それでも・・いいですか?」

「はい。お願いします」にっこり笑って即答だ。


掃除をしにきただけなのに、なぜか床屋の真似事まですることになっちゃった。


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