13 作戦、大成功!
閉めていったはずのカギは開いていて、秋斗君は勢いよく玄関を開けた。
「あら、おかえりなさい、秋斗。もうすぐお昼よ」
キッチンからお母さんの声がした。
少なくとも、過去に飛ぶ前と何等かの変化があったのは確かだ。
「あらあらあら、さくらちゃんも一緒なの。うれしいわあ。
よかったら一緒にお昼、食べて行く? もうすぐお父さんも帰って来るわよ」
玄関にやって来たお母さんはエプロンで手を拭きながらにこにこ笑っている。
「母さん。・・と、父さんは今、どこに?」
秋斗君の声に緊張が混じる。
「まあいやだ、どうしたの? お父さんは・・」
「ただいまー」
すごいタイミングで秋斗君のお父さんが帰って来た。
私達を見て驚いた顔をしてる。
「お、どうしたどうした? 皆して玄関先に。なんだなんだ? 休日出勤した父さんを出迎えてくれたのか? それとも、これからデートなのか、秋斗は」
はははと笑ってお父さんは秋斗君の頭をぐりぐり撫でた。
その顔はとても嬉しそうで、やつれた様子もない。
「お帰り、父さん。会社だったの?」
「ああ。今度のプロジェクトは父さんがチームリーダーだからな。今週はずっと張り切ってるよ。まあ、土曜日は休ませて欲しいけどね。
昼前で帰って来られてよかったよ」
秋斗君は私の顔を見る。私もうんうんと頷いた。
よかったね、秋斗君。私達の作戦は大成功だ!
「あの、私、お昼は家で母が用意してくれてますから、今日はもう帰ります。
お邪魔しました」 ペコリとお辞儀をする。
「いやあ、秋斗にはもったいないくらいの可愛いお嬢さんだ。ぜひともまたいらしてください」
「でしょう、あなた。さくらちゃん、また遊びに来てね。
私、さくらちゃんが来てくれると、本当にもう、嬉しくて嬉しくて!」
「は、はい。ありがとうございます」
二人にそう言ってもらえて、嬉しいけどハズカシくって俯いてしまう。
「おれ、送ってくるよ。お昼までには戻るから。ご飯、待ってて。
父さん、夕方、久しぶりに公園でキャッチボールしてよ」
「ああ、いいぞ」
「やった! じゃ、行ってくるね」
満面の笑みの秋斗君。・・・素敵。胸がキュンとしちゃう。
ご両親に見送ってもらって、玄関を出る。
「やったね、大成功!」
「よかったね、秋斗君!」
二人でハイタッチをして笑い合う。
「あー、一時はどうなるかと・・わ!」
「っと!」 ほっとして気が抜けたのか、私は玄関前の石につまづいた。
顔面から地面に突っ込むところを秋斗君に抱きとめてもらってギリギリセーフで助かった。
「あ、あ、ありがとぉ・・」
心臓が、これでもかってぐらいガンガン早打ちしてる。
秋斗君の手がそっと背中に回って、ぎゅうっと優しく抱き締められた。
「・・ありがとう、さくらちゃん。本当に、ありがとう」
何も言えずに固まったままの私に、秋斗君は慌てて手を離す。
くるりと回れ右をして玄関に戻って、私の靴を持って来た。
「・・すっかり忘れてた。はい、どうぞ。足、痛かった? 大丈夫?」
ちょっと顔が赤い秋斗君。
もちろん私はそれ以上にきっと赤い顔をしているだろうと思うけど。
二人で並んで私の家への道を歩く。
途中、浅井先生の背の高い高級マンションが他の家越しに見えて、思わず足が止まった。
「さくらちゃん、明日は行くつもり?」
「・・・うん。やっぱり、何かお礼はしたいし。秋斗君が一緒なら怖くないし。
駄目かな?」
うーん、と秋斗君は腕を組んで眉間にシワを寄せる。前よりも眉間の溝が深い。
「・・まあ、おれも、感謝はしてるから。その分は働くよ。
もちろん一緒に行くから。さくらちゃん、絶っ対に一人で行っちゃダメだよ」
「もちろん」
今回のことで、ずいぶん浅井先生のイメージが変わったけど。
それでもあの外見が怖いことに変わりはない。




