夏の日とアイスと冷やし中華
暑くなってきたから、と言う理由で僕たちは冷やし中華を始めることにした。
昼ごはんのメニューの選択理由なんてそんなもんだろう。
「冷やし中華って、きゅうりと、卵と、トマトと、そのくらいだっけ」
言われてみれば思い出せない。スーパーに来る前に調べてくればよかった。
「君が作ってくれるって事が大事なんだ」
「あーもやしとかもはいってた気がする」
「後はコンビニに寄ってアイス買って帰るだけだね」
「ここで一緒に買って行けばいいじゃない」
彼女はきょとんとして言った。
「コンビニで買うからおいしいんじゃないの」
「そうだな」
そういった僕の口元から笑みがこぼれだしたのがわかった。
帰りにコンビニでアイスを買って、僕たちは歩く。
彼女はちらちらと僕の持つ袋を見ていた。
夏の日差しは僕たちをじりじりと刺す。
「なあ」
「ん。え、あはい」
話しかけると彼女はびくっと姿勢をただした。
「あいし……、あい……」
「?」
「アイス食うか。これじゃ家に帰るまでに溶けそうだし」
彼女はぱあっと満面の笑みを浮かべた。小さい公園に入ってさびかけたベンチに並んで腰掛ける。
「はい、半分!」
彼女は元気いっぱいに半分に割ったアイスを僕にくれた。棒が2本ある、ソーダのアイスだ。よく見ると上の部分は不自然に斜めになっていた。
僕たちの作った冷やし中華には動物性のたんぱく質が不足していた。
「大事なもの忘れてたねー」
「次から気をつけよう」
「夏はやっぱり暑いね」
「まぁ僕たちには敵わないけどね」
「食べながらしゃべるな」
軽口ならいくらでも言えるのになぁ。
彼女は扇風機のスイッチを押した。
中古の扇風機の発するカタカタという音も、いつからかそんなに不快じゃなくなっていた。