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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛玩される存在でありたい

作者:


独りで生きていけない。

独りは寂しい、独りはこわい。

…なのに俺は独り。








必要ならばそれなりにクラスの人間と会話はするけど、基本俺はひとりだ。

というより周りの人間が、俺という人間は独りが好きだと思っているらしい。



確かに俺はひとりで居るのが好きだ。

だけど独りは嫌い。正直誰かに傍に居て欲しい。


なんという矛盾さだろうかと何時も思う。








「…あれ、高瀬。もうすぐ授業始まるけど何処行くんだ?」


カタリと席を立つと、隣の席のヤツが不思議そうな顔で俺を見上げた。

お前には関係ないだろと思いながらも、一言サボると言い捨てる。


「そっか。あ、そういえば屋上のドアの鍵が壊れてるから、今なら屋上入れるぜ」


あそこならサボリ放題だ!なんて言いのけるコイツは、確か生徒会の人間だったんじゃないだろうか。

良いのかよそれでと思いながらも、有難い情報の提供にどうもと返す。


「相変わらずクールなヤツだな高瀬は」


苦笑気味に言われたその言葉に返事をせず、俺は黙って教室を出た。








屋上のドアの前に着くと、ふとすぐ近くに何か落ちてるのが目に入った。


「……針金と金づち…」


アイツ、壊れてるとか言ってたけど…これはもしかしなくても故意に壊したんじゃあないだろうか。


しかも金づちって。

針金はまだ分かるにしろ、金づちって思いっきりドアのノブ壊す気満々じゃないか。

ホントそれでいいのかよ生徒会。多少呆れながらもドアを見れば、ノブはとりあえず形を保っている。

恐る恐るドアノブを回してみると、ガチャリと鈍い音がして呆気ないほど普通に開いた。


拍子抜けした。正直回せばそのままノブが落ちるんじゃあないかと思ってたし。


とりあえず屋上へと出ると、雲一つない青空が広がっていた。



これはよく寝れそうだとフェンスを背にして座り、目を閉じようとする。

が、視界の端に煙草の吸殻を見つけた。

…ホント、うちの学校の生徒会は大丈夫だろうか。まぁ俺には関係ないのだけど。



うつらうつらと眠気が襲ってきて、俺は今度こそ目を閉じた。










どれくらい経っただろうか。


ふと人の気配がして、目をうっすらと開けると目の前に男子生徒がしゃがみ込んで俺を見下ろしていた。


「やっぱ高瀬じゃん」

「…は、誰」


唐突に人の名前を呼んだ目の前の男に、俺は見覚えがない。

まじまじと俺の顔を凝視したのち、男はフフンと笑う。


「あれ、やっぱわかんねぇ? 俺、隣のクラスの村上」

「隣のクラスのヤツなんか知るかよ」

「ひっでぇの、一応体育とか合同でやってんのによォ」

「だとしてもわかるわけねぇだろ。何人居ると思ってんだ」


それに俺は自分のクラスのヤツらを把握するだけで精一杯だと言えば、目の前の男…村上は確かにと笑う。



「でも、俺は高瀬を知ってる」

「……で?」

「ははっ、見た目通りクールなヤツだな高瀬は!」


何処かで聞いたような台詞だ。


それに対して俺は何も答えない。一体村上は何がしたいのかがわからないからだ。

黙ったままの俺を村上は胡散臭い笑みを浮かべたまま、そっと手をのばしてきて俺の顎を掴み上を向かせる。


「…何、してんだよ」

「俺、直感っていうか、あー…自分で言うのもなんだけど他人の心情が分かるっていうか」

「……何が言いたいんだ」

「高瀬を見た時、俺は不思議に思ったわけよ。…何でコイツ、独りが嫌いなのに独りで居るのか、って」

「…っ!」


なんだ、なにを言ってるんだコイツは。


「最初はまぁ…そーいうキャラでも目指して自分で作ってンのかと思ったけど、よーく見てるとそうでもないみたいだし。確かに見た目はクールっぽい感じだから、周りの人間は高瀬が独りが好きだって思ってるみたいだけど、」


なんで、なんでそんなに。


「ホントはそうじゃないんだろ? 高瀬は、ひとりは好きだけど、実際は…独りにされるのが嫌いなんだ」

「…な、んだよ、お前っ! だったら何だってんだ!」


淡々と俺の本音をあっさり言い当てて、正直俺は混乱していた。

普段滅多に声を張り上げない俺が、こんなにも簡単に村上によってうろたえて、なのに村上は相変わらず胡散臭い笑顔で俺を見下ろし、少しずつ顔を近付けて。




「…高瀬、お前俺の好みにどストライク」

「は、あ?」


にんまり笑った村上に意味分からないことを言われたのと同時に、頬に軽い感触。


「俺さァ、そーいう兎みたいなヤツめっちゃ好みなわけよ」

「ぅ、兎って…、つか、なに、いま…っ」

「あー、マジ可愛い。俺お前のこと本気で飼いたいわ」

「か…っ!?」


顎を掴んでいた手は外されて、俺の背に回りぎゅうっと抱き締められた。


村上はよしよしと、本当にペットに接するかのように俺の頭を撫でてきて、その大きな手が心地よいと感じてしまった俺はどうかしてる。




「…俺だったらお前のこと独りにしないで目一杯構ってやるし、好きなだけ一緒に居て愛してやるよ」


だから俺のペットになれよ、寂しがり屋の兎チャン?と耳元で囁かれ、俺の脳内では村上の手によって何処かに閉じ込められる映像が浮かぶ。


あぁ如何しよう。そんな異常さに俺は。






「…なぁ、ホントに俺のこと飼ってくれるの」

「あぁ、ちゃんと首輪だって買ってやるよ。だから、俺のところにおいで」


自ら擦り寄りその背に腕を回せば、可愛いと囁かれ優しく頭を撫でられる。



あぁ如何しよう如何しよう。





俺はこの男に飼われる為に生きてきたのかもしれない。






――――そして倒錯した関係に溺れる。





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