そのとき、銀髪が揺れた
これからはもうちょっとペース早めますかぁ~!
さすがにこれじゃサボってるみたいだ……
どえらい美少女は図鑑系のでかい本を床に広げて、でもって自分も内股に足を広げて、ペタンと床に座っていた。太ももの上をスカートが伝り白い肌がほとんど剥き出しになっている。
しかし残念なのか安心なのか分からないが、とりあえず中のブツが見えることは恐らくないことが予測できた。その少女は俺に対して背を向ける形で座っていたため、俺の場所から見ると、押せば倒れてしまいそうなか弱い背中と、その背中に流れるようにかかった長い銀色の髪しか見えていなかったのだ。
そう、銀色の髪――銀髪だ。少女の髪は、銀色だった。
美しい。ただその一言に尽きるような、長く繊細な――見とれるような髪。それひとつで世界遺産にでも認定できるんじゃないかというほどに、ただただ美しかった。
だから少女が首だけこちらに振り向かせたとき、その銀髪がふわっと揺れるのを、無意識に目で追ってしまう自分が居ることに気がついてしまう。
振り向いた矢先に俺の目に映ったのも勿論、さっきも絶賛した通りの美少女っぷり。あどけない風貌の顔。一言で言えば、俗に言うおっとり系女子だ。
わらび餅を連想させそうなほどに垂れた目付きに浮かぶ、涙の結晶。それが人形のように白い肌を伝うようにして流れているのが目に見えた。
少女はちょこんちょこんと内股に開いていた足を動かし、改めて俺のほうに全身を向かせた。
光る涙を浮かべたタレ目が、上目遣いでこちらを凝視してくる。まるで不思議なものでも見るかのような目で。
「……こ、こんにちは」
と、少女の桜色の唇が開いた。そこから漏れ出てきたのは、さっき聞いたすすり泣く声、そのままに違いない。相変わらずの癒しボイス。こいつの声帯には妖精でも住んでるんじゃないだろうか。
少女は、挨拶と受け取れる発言をしてきた。
いきなり声を掛けられたもので、少したじろいでしまう。
「おう、こんにちは」
声だけでもう惚れてしまいそうな勢いの俺であったが、挨拶をされたまま返さないのも不謹慎極まりないので、できるだけ自然に対応しておこう。何事にも第一印象は肝心だからな。
「あ、えと……」
すると少女は涙を手の甲で拭うと、途端に俯いてしまった。
両手の指を互いに交わらせ、モジモジしている。どうやら頭の中で言葉を選んでるように見えた。
「情けない姿を……見られてしまいました」
「ん、あぁ……」
まぁ確かに、押し殺しきれずに漏れでた泣き声を他人に聞かれてしまったのだ。恥ずかしがる気持ちも分かる。まさかこいつも、自分以外の誰かが図書室に居るなんて――しかも加えて謎めいたラノベを読んでいたなんて、夢にも思わなかっただろう。
だからって、そんな頬を赤らめないでほしいもんだ。お前は人を一目惚れさせる達人か何かなのか。俺の恋心に防衛網を張りたいくらいだよ。
「まぁ俺もびびったよ。まさか同じ空間に、俺以外の誰かが居るもんだからな。図書室を拠点にしたような気分で使ってた俺がバカみたいだぜ、あはは」
「え、あ、ここって拠点だったんですか!? す、すみません今出ていきます! 戦頑張ってくださいね」
「待て待て待て! さっきの比喩だから。戦って何だよ、図書室を拠点に戦したところで誰も制圧したがらねーよ」
少女はまた「ごめんなさい」と頭を下げ、また俯いてしまった。おいおい、今の的確なツッコミ見たか、ボケ役が気を落としてんじゃねーよ。
……少し悟ったのだが、ははん、どうやら思ったよりこいつ、ずいぶんと扱いが面倒なお嬢ちゃんらしい。たんまりと地雷が仕込んでありそうな臭いがする。
うーむ、どうしたものか。
「それでお前、何で泣いてたんだ?」
とりあえずストレートに聞いてみた。他に言葉が思い当たらなかったのもあるが、これだけはとりあえず聞いておきたかったのだ。
さっきまでと同様――もしくはそれ以上に自然さを取り入れてみたが、どうだろう。
「あ、えと……」
また俯いて言葉選びか。
別にイライラはしないけどさ。人と話すことに慣れていないことが目に見えて分かっちゃうよな。
黙りこくること約一分。脳内でまた納得のいく表現が出来上がったのか、少女はまたその垂れた目付きでこちらをじっと見上げてきた。
こいつがもし実は幽霊だとしたら、ここで「それはてめぇの近付いてくるのを狙って食い殺すためだぁー!」とか何とか言って、読んで字のごとく俺の体をいただいてくれるのかな――などと妄想に浸りながら、俺は彼女の返答をただ待っていた。
「私の、唯一の友だちが――死んでしまったんです」
締め切った図書室の窓からは当然風など流れてこない。
錯覚だろうか――今一瞬、少女のその銀髪がまるでなびくように揺れ動くのを、確かに見た。
いえーめっちゃほりでー




