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賢者と嫁。

作者: エル

朝起きると隣に女の子が寝ていた。


本の一瞬の驚きのあと、隣に寝ている女の子…もとい僕の嫁の顔を見て安心した。

そう、嫁!妻!奥さんですよ!?

数百年もの間一人ぼっちで世界の果てに住んでいた僕に嫁!

…5年ぐらい前の自分が聞いたら、嫁という言葉の意味を聞きそうな事態だ(笑)


自分の髪とは大違いの真黒な髪に、今は瞼で見えない黒い瞳。

魔力の高い魔族だって持ちえない本当の黒。

初めて見た時はただの純粋な興味だったのに、今では夜空を見るたびに嫁の事を考える。

魔法以外でこんなに夢中になるものがあるなんて…。

彼らが聞いたらなんて言うだろう?

ああ、お人よしな彼らの事だから何の含みもなく結婚を祝うか。

あーでも、一人だけ祝わないやつがいるな…あいつ常に振られ続きだから(笑)


「…朝から何にやにやしてんの。」


呆れた、と言わんばかりの目線で嫁がこっち見てる。

僕がちょっと嫁の事考えてる間に起きたのか…しかももう着替えてる。

相変わらず動く時気配ないな。


「おはよう、奥さん。ちょっと仮定の連想をしていただけですよ。」

「仮定?」

「昔一緒に旅した連中が奥さん見たらどんな反応するかと。」

「へえ?どんな事になるの?」

「祝福されまくりだけど、一人だけ泣きながら怒る。ってとこかな。」

「…平和な仲間ね。」

「お人よし揃いですからね。」


そして嫁と一緒に朝食を食べる。

僕一人の時はお腹がすくまで魔法の研究だとか魔法具作ったりだったけど、

結婚する時嫁に、

”一日3食、手があかなくても2食は食べる!”

って約束させられたので、一緒に朝食です。


嫁はとても、とても料理上手です。(大事な事は2回言うのが嫁流)

なんでも、嫁の故郷は食に文化なんて名がつくほど豊富な食事情だったらしく、

本当に多彩な料理が出てきます。

朝食は大体同じ献立だと言いながら、毎回”ミソシル”に入ってる具が違ったり、

焼く魚の種類、大量の卵料理のレパートリー。

これで同じなら嫁の故郷はどれだけ料理に命かけてるんだろうって思います。


今日の朝ごはんは主食に炊いた”オコメ”、

最初は、この世界に嫁の主食であるオコメが無くて、

故郷から種(嫁曰く”イネ”)を持ってきて育てるとこから始まったオコメですが、

今となってはオコメがない生活が考えられないほど我が家の主食です。


メインの丸皿には焼き魚、

残念ながら僕は海のない国出身で、現在の住居も山なので魚の知識は乏しい。

見たところ、今日は赤い身の魚(以前嫁がサケもどきと呼んでいた)の塩焼き。

嫁の料理に”サシミ”というのがあるんですが、

この魚は特にサシミが美味しいと僕は思います。

ただ、サシミは日持ちしないからと、朝ごはんでサシミが出た事がないのは残念です。


小さい皿には、卵焼きと軽く茹でたサラダ(嫁曰く、オヒタシ)。

今日のミソシルの具は”トウフ”と海藻。

トウフはあの微妙な食感がとても癖になります、トウフサラダも好きです。

ところでなんで卵焼きは、

”卵焼き”の時と”オムレツ”の時があるんですか?何が違うんですかね?

…ちなみに以前嫁に聞いたら”スクランブルエッグ”なるものを出され、謎が深まりました。

全部卵を焼いてるのに何が違うんでしょう?


どれも美味しそうですが、

嫁の故郷の流儀に従い、僕はミソシルから手をつけます。

”ミソ”独自の風味と味がやっぱり美味しくて、そして今日は安心できました。


「ねえ、奥さん。」

「何?」

「僕に毎朝ミソシル作ってくれる約束してくれてありがとうございます。」

嫁は何も言わずに僕を見ていましたので、僕もそれ以上何も言わず嫁を見ます。


友人となった彼女は人間らしい生活を放棄していた僕にご飯を作ってくれました。

何百年も一人でいた僕は寂しかったんだと、

嫁のミソシルを飲んで気づきました、人の手料理はとても胸に沁みます。


だからとても不安でした。


彼女のミソシルを飲めなくなる日が来るんじゃないかと不安で一杯だった僕は、

”お願いです、一生僕に毎朝ミソシルを作ってください。”

と、懇願にも似たお願いをしました。

黒の瞳をこれでもかと見開いて驚いた彼女から、

その言葉が彼女の故郷では求婚の定型文だと聞かされたり、

友情と愛情の違いだとかで争ったり、

重度の人間不信になっていた彼女の信用と信頼を勝ち取るのに奔走したり、

…本当にいろいろあって彼女は僕のお嫁さんになってくれました。


「…仕方無いから。」

「ん?」

僕が嫁との結婚までを回想をしていたら、嫁の穏やかな声が聞こえた。

「…賢者なんて呼ばれてる癖に、

中身子供のままの魔法オタクなんてそうそう相手がいないでしょ?」

「ああ、たしかに…。」


確かに、異世界の賢者にご飯作りに来る人なんて希少だ。


「それに…日本人は意外と未だに義理堅いのよ?」

「”ニホンジン”?」

「私の故郷での民族名。」

「そか、ニホンジン、ニホンジンね、ふふ。」

「何?」

「んー、また一つ嫁の事を知れて嬉しいなって。」

「っ。」


賢者と嫁の新婚初日はこうして過ぎて行った(笑)













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― 新着の感想 ―
[一言] 自然と続きが見たくなりました。 とても良かったと思います。
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