第五十七話
いつものように短いですがどうぞ。
「なぁ、月ちゃん。」
ここは董卓の執務室、
声をかけたのは将、
「どうしました、将さん。」
「俺ってさ、華雄の師匠に当たるよな。」
「ええそうね、でもそれがどうかしたの?」
部屋の奥からなにやら資料を取ってきたらしい賈駆が答える、
「ああ、詠か。」
将が天水に来て数日多くの将兵に稽古をつけ、
またAIの存在は現在でも秘密ではあるが、
ここ天水でもその農業改革の知識がもたらされ、
その他にも多くの知識が採用されていた、
それ故に多くの人物から真名を許されていた、
「それで、それがどうかしたの?」
「ああ、いつまでたっても華雄が真名を預けてくれないのは何か理由があるのかと思ってな、それに誰もあいつの真名を呼んでいないって言うのも何か不思議でな、本人に聴いても良いんだろうけど根が深い問題だったら本人は話し辛いだろうと思ってな、それで月ちゃんが何か知らないかと思ってな。」
「えっと、それは……」
董卓が言い淀んでいると、
「ほら、あんた、あいつの過去を聞いたわよね、「ああ。」あいつの生まれた村って言うのは10歳になるときに字と真名をつける風習の村だったそうよ。」
そんな話をしているところに李儒がが部屋に入って来る、
「うん、華雄の事か、董君雅が華雄を救ったのがあれが10歳になる前で、親から真名をもらって無かったって言うのでな義姉上があれが10歳になる時に真名をつけようとした時にあれが【私は董君雅様を、母のように思っております、董君雅様に救われたあの日に自分は新たに生まれ変わったようなものでございます、ですからあの日より10年後のその時に真名をつけて下さい。】と言って譲らなかったのでな……」
後ろから入ってきた牛輔が、
「義姉者はその前に亡くなってしまってな、それであいつには真名も字も無いってわけだ。」
「董君雅さんは華雄の真名とかを何かに書き残してなかったのか?」
「ええ、母が亡くなった時にいろいろ見ましたがそう言った物はありませんでした。」
「無かったんなら偽造しちまったらどうだ?」
「それが出来るんなら苦労しないわ。」
肩をすくめて賈駆が答える、
その将がその意味を考えていると、
「義姉者の字はかなり癖があってな、そこらの者が真似をしようと思っても真似できん、そして華雄に最初に文字を教えたのは義姉者でな、あいつは義姉者の文字の癖をよく覚えているから偽造しても直ぐにばれるだろうな。」
「ふーん、とりあえず董君雅さんの書いた字って言うのを見てみたいんだが。」
「何? もしかしてあんたやってみようって言うの?」
「見てみないと何とも言えないがね。」
将はそう言いながらもある程度の勝算があった、
この時代に筆跡鑑定など無い、
AIで文字をスキャンしプリンターで印刷してしまえば良いだけの話だ、
将はいくつかの書簡を見ながら目線でAIにスキャンをさせる、
「董君雅さんが華雄の字や真名を何てつけるつもりだったのか知っているのは誰かいるのか?」
董君雅の文字を次々とスキャンさせながら将は問う、
「字は【伯臣】、真名は【衛】月を華雄に合わせたときに【私がこの娘の一番の家臣となって、この娘の事は私が必ず守る。】って目を輝かせながら言ったそうだ、そう義姉上は言っていたよ。」
「まっ、その後に詠が月と仲良くなって華雄の真名をどうしたもんか? なんて義姉者は笑いながら言って居たけどな。」
「でも、将さん、何とか成るんですか?」
AIがモニター上に【OK】の文字を出すのを確認すると、
「たぶんな、でも真名の読み方は。」
……………
…………
………
……
…
「じゃ、この書簡借りていく、明日には出来るだろ。」
将は自室へと戻りプリンターを取り出すとAIにつなぎ書簡を偽造するのだった。
翌日 政庁
その日の朝議が終わりに近づいた頃、
「華雄将軍「はっ。」あなたの処分ですが……」
そう、華雄が将に勝負を吹っかけた件の処分が未だになされていなかった、
「董太守、華雄将軍のとった行動はあまりにも軽はずみで、この行為は死罪を言い渡されても仕方の無いものです。」
一人の文官が言うと、
「ちょっ、待ちいな確かに勝手に喧嘩を売ったのは事実やけど、将は馬騰の家臣やのうて客人どまりやったんやから他勢力の武将に喧嘩を売ったのとは少し話がちゃうやろ。」
張遼が助け舟を出す、
「しかし馬騰殿の客人に勝負を「喧嘩、や。」喧嘩を売ったのは事実では有りませんか?」
「しかし現在その草薙殿も我らの客人としてここに居ります、そして我が軍の将兵に稽古をつけ、政の相談まで受けていただいております、これは華雄将軍が作った縁ともいえるでしょう、その功績は認めても良いのではないでしょうか?」
「しかし、それでは規律が……」
「規律よりも……」
……………
…………
………
……
…
「議論も出尽くしたようですね、では、華雄将軍の罪は死罪に相応しいものの草薙さんを我が領内の客人として迎えられたこと、草薙さんによる将兵の調練、その知識など、その我が領内において大きな益となったことは事実です、差し引いても余りある功績といえるでしょう……しかし、その短慮を認めるわけにもいきません、ですから今回はその罰と功績で帳消しということで治めたいと思います、皆さんよろしいですね。」
「「「「「はっ!!」」」」」
「それと華雄将軍、この書簡が母の部屋から見つかりました、華雄将軍に関することですがここで読み上げてもよろしいですか?」
「はい。」
「いろいろ書いてありますが大切なところだけ読み上げます、【我が娘ともいえる華雄へ、私に何かあった時の為にここに記す、字を【伯臣】真名を【衛】とする。】良かったですね、華雄将軍、母から貴女への贈り物です。」
「よ、よろしいのですか?」
華雄の肩が震えている、
「良いも何も、母から貴女への贈り物ですから、受け取ってください。」
華雄が董卓から書簡を押し頂く、
その目には涙があふれていた。
「姓を……華、名を……雄、字を……伯臣、真名を……衛、董卓様に我が真名、衛をお預けいたします。」
華雄は自分の姓を、名を、貰ったばかりの字を、真名を一文字一文字をかみ締めるかのように発し董卓へと真名を預けた、
「衛、貴女の真名は大切に預かりました、そして我が真名、月、を衛、貴女に預けます、貴女は私にとって貴女の字が示すように最初の家臣です、私の家臣はみな私にとって子供のようなもので、それは家族と同じです、ですから貴女は貴女の真名のように私を、そして家族同然の者たちを衛って下さいね。」
「この衛、命に代えましても月様を、そしてこの董家に使える者たち、そして領民を衛る事を我が真名にかけて誓いますっ!!」
こうして華雄は字と真名を持つこととなり、
華雄は多くの者たちと真名を交わしていた、
当然将も真名を預かることとなった。
喪中の為に新年の挨拶は控えさせていただきます、
今回は華雄の字と真名の回です、
字に使われた伯は最初の子に使う日本で言えば一郎とか太郎の一や太、みたいなものらしいです、
孫策とか公孫瓉とか陸遜、司馬懿の兄の司馬朗などの長男に伯がついてますね、
二番目が仲、以下、叔、季、と続いて最後の子は幼をつけるみたいです、
幼は古い日本で言うと留とか末見たいな感じのようです。
馬良、馬謖で有名な五常はこの順番のようです、
馬良の字は季常ですから四男だったと思われます。
馬超や曹操の孟も最初の子供につけるようですが次以降が良く解らないので割愛させて下さい。
こんな薀蓄は所詮作者の自己満足の独り言の様な物なのであんまり気にしないでフーンと思っていただければ結構です。
それではまた次回、
ちゃお
ノシ




