第五十二話
次の日、
将は政庁へと赴く、
賭け金の徴収の他に、
董卓との謁見もある、
華雄、張遼、呂布とは面識がある、
張遼、呂布と一緒にいた二人のうちの一人はもしかしたら賈駆かも知れない、
もう一人が董卓という事はないだろうから、
誰だろうか?
董卓はやはりデブだろうか?
男なのか女なのかも解らない、
女ばかりのこの三國志の世界で楊奉や辺章といった男もいた、
またこれは俺が勝手に思っているだけだが、
張済の様に鄒氏と二人で一つになってしまっているような例もある、
誰が男のままで誰が女になっているのか?
また女が男になっている可能性だって当然あるだろう、
あまり先入観で判断したくはないが、
それでも董卓が可憐な美少女っていうのは想像できないよな。
少し前まではそんなことを考えていた俺がいたよ、
政庁に着けば翡翠さんから紹介される、
あの大人しい娘が董卓だと誰が想像できる?
否っ!!居まいっ!!
「えっと、草薙さんでよろしいですよね?先日は有難うございました、あの、お怪我の方は大丈夫なんですか?」
董卓が声をかける、
「いや、こちらも自分が勝手にやったこと、気にしなくていい、それに怪我なんてしていないさ、ま、噂に騙された連中が多かったようだがね。」
ククと笑いながら将が答える、
将の言葉に顔を赤くしている者が、
歯を食いしばる者が、
そんな人間が何人もいる、
「噂、ですか?」
「俺の脇腹が血で汚れているのを見て、そして辺章の弟分達が喧伝していたこともあってか俺が腹を刺されたと噂になったようだ、昨日の試合だって何人が俺の腹を攻撃してきていた?噂に踊らされ、人の演技も見抜けずに何人が敗れていったと思う?」
将の言葉に顔をさらに赤くし、
唇を噛み、
拳を握り、
歯を食いしばる、
「で、でもあの時の血はどう説明するのよっ。」
眼鏡っ娘の賈駆が問う、
「あれはな、本来血腸っていう食べ物なんだけど、肉屋の親父から貰って衣嚢(ポケットのこと)に仕舞っておいたんだがな、親父の失敗品で血が固まっていなかったんだ、そして辺章の弟分が刺したのは俺の体ではなく失敗品の血腸だったというわけさ、ま、そのお陰でだいぶ稼がせて貰ったからな、かえってお礼を言うのは俺の方だよ。」
「では我らとの試合は手を抜いていたとでも言うのかっ!!」
八武衆の中からそんな声が上がる、
「おいおい、なんで俺が態々全力で相手しなければいけないんだ?それに手を抜いていた俺にでさえ勝てなかったくせによ。」
そう言って将は冷たい目で八武衆を見る、
「それに全力でやったらお前らなんかすぐに死んじまうからな、俺が死罪にされちまう。」
ククと笑いながら将が続ける、
八武衆が声を荒げる前にそれを遮るように、
「将、それくらいにしておきな。」
翡翠さんが止めに入る、
「さて、将はこれからどうする?昨日の武で十二分に武威の指南としてやっていける、農業改革なんかもいろいろ教えてもらったしね、将が望むのであれば正式にうちの将軍だって勤められるよ。」
「馬騰様、少々よろしいでしょうか?」
賈駆が声をかける、
「どうぞ。」
「では、ボク達は先の試合での賭けに対して草薙を我が軍の筆頭武官として迎える約束をしています、馬騰様の客人ではありましたが客将ではありませんでしたから我々が引き抜いたということにはならないはずです。」
「あー、待ってくれないか。」
将が口を挟む、
「確かにその賭けは受けた、しかしその申し出は受けないぜ。」
「待遇などは追って決めたいと思いますが、なにか不満があるのでしょうか?」
董卓が将の言葉に答える、
将は包拳礼を取り、
「悪いが俺はどこにも仕えるつもりはない、この大陸を知らぬこの俺を保護してくれた馬騰殿、賭けでとは言えこの俺を筆頭武官にまで引き立ててくれようとした董卓殿には感謝してもしきれない、それ故に、お二人にはこの俺の力、知識が必要であるならば、その都度譲ろう、それでご容赦願いたい。」
「では、私たちの所にお客様として来て頂くことは出来るのですね?」
ニッコリと微笑む董卓、
「ああ、それはいくらでも。」
そう将が答えたところで、
「じゃぁ、ボク達の所で暫く教えて欲しいことがあるわ、さっき馬騰様が仰っていた農業改革や楊奉を倒した時のことなどいくつか聞きたいことがあるし、当然それに対しての対価は払うわ。」
フム、
と将は考える、
この地で出来る最低限のことは既に翡翠さんや瑪瑙ちゃん、琥珀ちゃんには話してある、
まだ時期的に出来ることは少ないだろうし、
董卓の為人を知るいい機会でもある、
自分の所為もあるとは言え八武衆には好かれてはいないようでもあるし、
時間を置くという意味でもしばらく董卓の元に行ってみてもいいだろうと将は判断した、
「では、しばらく厄介になりたいと思いますがよろしいでしょうか?」
将の言葉を受けパッと明るい顔をする董卓、
「是非とも来てください、出来れば私たちの帰りに同行して欲しいのですが大丈夫でしょうか?」
「出発はいつでしょう?」
「明朝を考えていますが。」
「同行者がいても大丈夫ですか?」
「妹さんがいらっしゃいましたよね、ご家族と一緒にということでしたら大丈夫ですよ?」
彼を兄上と呼ぶ娘の存在を思い出した董卓は他にも同行者がいる可能性も考え全員大丈夫であると告げる、
家族も一緒であるならば外堀から埋められる可能性もあるかも知れない、
賈駆は即座に判断し、
「何人いたって大丈夫だから気にしないで連れてくればいいわ。」
そう付け加える、
「では、翡翠さん、しばらく董卓殿のところに厄介になります、必要な時には戻りますから、いつでも連絡いただければと思います。」
「ん、解った、私はいつでも待っているから、いつでも帰って来ればいい。」
馬騰は気持ちよく将を送り出すことに決めた。




