第二十六話
「で、たんぽぽはいいのか?」
「え?たんぽぽも?いーよ、たんぽぽ今回の予選に参加するつもりないもん。」
そう言って肩を竦めてみせるたんぽぽ、
「ふーん、そうなのか、たんぽぽがそれでいいなら別に構わないが隠れてする努力ってやつだけじゃ2~3年もしたら輝に抜かれちゃうぞ。」
「えっ、うそっ、輝ちゃんに抜かれちゃう?」
俺の言葉を受けびっくりした顔で問い返すたんぽぽ、
そうそう、輝とたんぽぽは最初の日の帰り道に仲良くなり真名を交わしていたのだ、
「ああ、抜かれるな、3年ではどっこいどっこいかもしれないけれども5年もしたら確実に置いていかれてるな。」
「だって、輝ちゃん今日始めたばっかりでしょ、そう簡単に抜かれないよ。」
そうすぐに反論し胸を反らすたんぽぽ、
将は自分のことをよく知らないからそんなことを言っているんだ、
そうたんぽぽは思っている、
「いくらなんでも2~3年でたんぽぽに追いつくってことはないだろ。」
翠もまた今日始めたばかりの子がそう簡単に追いつけるほどたんぽぽの力量が低いとも思ってはいなかった、
将だってたんぽぽのレベルが低いとは思っていない、
昨日の政庁で感じたように氣のランクで言えば八武衆と大差ない、
しかし将はたんぽぽのコンプレックスに気がついていた、
そんなに年齢の違わない翠との差があまりにもでかいのだ、
たんぽぽは恐らく自分が翠と同じ歳になった時に現在の翠のレベルにまで到達できないことを肌で感じ取っている、
だからなのだろう素の部分もあるのだろうが余計におちゃらけて見せている、
努力しても置いて行かれるだけの自分を感じて翠と同じ場所での修行は自分に引け目を感じるだけなのだろう、
「たんぽぽ、俺はね、成功している人っていうのはみんな影でも努力していると思うんだ、そして勘違いしちゃいけないのが努力っていうものは誰かに見せる為のものじゃない、誰かに見せるのは努力の成果だ、努力している姿を見せようなんていうのは本末転倒で、そういうのは努力している姿を人に見せるのが目的になって成果が出ないものだ、そういう人間は【成果が出なくてもこんなに頑張っていたから仕方ないよね】っていうのを周りに言って欲しくて努力している姿を見せているだけなんだ、たんぽぽの目標がどこかは俺には解らないがもしも翠を超えよう、翡翠さんを超えようっていうのが目標であれば、翠が鍛錬している時にも鍛錬をして、翠が鍛錬をしていない時でも自分はやるっていう位でなければ追いつけないし、追い越せないよ。」
「でもさ、将さん…」
俯きながらたんぽぽが聞いてくる、
「ん?」
「努力したからって報われるわけじゃないよね。」
「そうだね、でもね、努力が報われるんじゃなくて、報われた人は他の人以上に努力をしているんだ。そしてね、たんぽぽ、よく聴いて欲しい。」
たんぽぽが俺の方を向いて聞いてくれようとしている、
「たんぽぽの悩みはね、ある一定以上の高さの壁にぶつかった人はみんな抱える問題なんだ、それが早いのか遅いのかは人それぞれだ、たんぽぽは他の人よりもちょっと早いだけだと思う。」
「将さんは…「ん?」将さんはどうだったの?」
「俺もたんぽぽと同じくらいの歳頃に壁にぶつかったよ、そして今だってその壁は乗り越えられていないよ。」
「そんなっ、将さんってだいぶ強いでしょ?それなのに?」
信じられない、
たんぽぽの顔はそんな顔をしている、
「嘘じゃないよ、俺の目指す場所はおそらくあのお日様よりもさらに遠い…」
そう言って太陽を指差す将、
「将さんはなんでそんな遠いところを目指すの?ううん、なんでそんなところを目指せるの?行けるかどうかも解らないのに。」
話を聞いていた他の娘たちも将の答えに興味があるようで、
答えを聞き逃すまいとしているのが解かる、
将としては実は理由は有る様で無かった、
いや無い訳ではない、
ただそれは幼き少年が夢見る最強への憧れだ、
いつか追いつき追い越すのだと誓ったのはいつだっただろうか?
そして、夢は夢でしかないということを思い知ったのはいつだっただろうか?
【諦めたらそこで終わりだぞ。】
一足飛びに近づくのは不可能だと知った、
だから一歩づつでも、その頂に近づく為に進むんだと、
今のたんぽぽは俺が味わった挫折にぶつかっているんだろう、
それでも先に進むためのきっかけが欲しいんだろう、
だから俺も、
俺が救われた言葉をたんぽぽに贈ろう、
「たんぽぽ、俺が行けないかもしれない頂を目指すのはね、
【諦めたらそこで終わり】
だからだよ、諦めさえしなければ少しづつでもそこに近づけると信じているからだ、
そしてたんぽぽ、これが武門の家、草薙家に伝わる代々の家訓だ、」
たんぽぽの目をじっと見つめ、
「
【人生は挫折の繰り返し、立ち上がった数だけ強くなれる、立ち上がった者だけが見られる物がある。 】
」
中途半端なところで引きます、
短いのはいつも通りのクオリティということで、
ではまた次回。




