男爵令嬢を妻にして即位した王子の話
「私と婚約をしてくれ」
そう言うと、ハイナは左右をキョロキョロ見た。
彼女は公爵令嬢付のメイドだ。
度々、公爵家に招かれて、そこで惚れた。
「殿下、身分違いでございます。お嬢様と婚約されております・・・」
「それは破棄する」
私は公爵令嬢アントンと婚約をしている。
我が王国では伯爵家でも平民と同じ。
王族との結婚は侯爵家以上だ。
公爵家、外国の姫との婚姻が常態化している。ここ三代は外国の王族の血は入っていない。だから実質、身近な婚約者は公爵家だ。
婚約は親が決める。
だが、私の母上は側妃。私を産んだらそそくさと王宮を自ら出て行った。
言うならば私は日陰の子だ。
それには理由があるが・・・ここで言うのははばかれるぐらい下世話な話だ。王宮の慣習で閨にお付きの者が手助けをしたとだけ言っておこう。
ハイナは公爵夫人とその令嬢と会っているときにいつも付き従っていた。
茶髪で薄いブラウンの瞳。どこにでもいる平凡な娘だ。
アントン嬢からいつも暴行を受けていた。私と会っている時もだ。
それを庇っているうちに愛情というものが芽生えてしまったらしい。
中々、ハイナは気持を示さない。
「殿下の置かれた状況にはご同情申し上げますが・・・」
だが、彼女は自分の置かれた状況ではなく、私に同情する。優しい娘だ。
「そうだ。公爵家で話を出来るのは君しかいないのだ!」
「殿下・・・」
「君を守る!何があっても!」
彼女の手を取った。
ハイナは顔を赤らめて小さく頷いてくれた。
そして、公爵令嬢アントンとの婚約を破棄した。
「婚約を破棄とする。理由は使用人達に対する暴言、粗暴な行い。未来の王子妃にふさわしくない」
そういうと、アントン嬢は涎をたらし。
暴れ出した。
「ウギャー!キヒー!顎無しの~、クゥせに!」
「お嬢様、いたい。暴れないで下さい」
「誰か医者を!」
そりゃ、非難囂々だ。
父上からも王妃殿下からも、兄上、姉上、公爵家からも・・・
だが、言葉が通じない。
「ライヒー・・・おま~え、けしからない・・」
「アントンと・・・婚約・・・」
そして、いつものように罵倒された。
「「この、顎無しの奇形が・・・」」
「そう、よ。顎無し・・・でも結婚・・してあげた・・ようとしたのに・・・」
王族、公爵家の面々は顎が長い。
長い事、身内で結婚を繰り返していた結果だと云う賢者もいる。
それが、いつしか高貴な身分の象徴になったのだ。
王宮の役人、使用人達も彼らの介護がごく当たり前だと思っている。母上と父上の閨にも介護が入った。
私が彼らに代わって公務をしていたのだ。
「殿下は道を間違えられましたな」
「北の塔におゆきなさい」
「えいへ~い・・・」
陛下の言葉を通訳出来ると自称する執事長が代弁する。
「ライヒー殿下を捕まえよとの王命である!」
しかし、王国内には慣習に捕らわれない組織がある。
「おい、どうした!衛兵、早く殿下とその男爵令嬢を捕まえよ!」
それは騎士団だ。軍隊と言うものは新戦術が生まれたら、今までの戦法を捨てて簡単に変える。
何故ならば、そうしなければ死ぬからだ。慣習に捕らわれない組織でもある。
義兄上は子をなせるか怪しいぐらい病状が深い。
このままでは三代前に嫁いだ姫出身の王国が利権を訴えて攻めて来るかも知れない。
その動きはある。
無駄な戦争をとめるためと説得した。
衛兵は動かない。
既に近衛騎士団長と話しが付いている。
近衛騎士団長が前へ出てきた。
「これは異なことを・・・王宮の執事長ごときが陛下の代弁など片腹いたい!」
衛兵達は王宮の使用人達を拘束し。陛下たちと使用人たちを離宮に移した。
ああ、前の陛下達に罪はないから殺さない。
そして、私は即位した。
一番、始めにしたことは、近衛騎士団長の処刑だ。
「近衛騎士団長を拝命しておきながら、前陛下を拘束し離宮に移しました。この罪、私一人の責任でございます」
「ハインケンよ。すまない。家族は任せよ。余が生活出来るようにいたそう」
近衛騎士団長の親族には三代にわたって年金を渡す。
近衛騎士団長には一人娘がいた。
余の養子にして育てることに決定したのだ。
・・・・・・・・・・・
「その娘がローズだ。忠臣の娘だったのだ。皆の者、これが王家の秘密だ」
ローズが貴族学園に入学する歳になったので家族を集めて秘密を話した。
このようなことがあったから、余は王子王女たちの婚約者を決めない。
社交界に顔を出して自分で見つけよとしたのだ。
「ローズ・・・が義妹だった?」
「お兄様・・・」
仲の良かったデービットは・・・
「ローズ、大丈夫だよ。家族だよ。今までもこれからも」
そっと優しくローズの手を取った。ハイナの手を取ったときを思い出した。
きっと大丈夫だろう。
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