怪奇事変 手鏡
そろそろネタギレが……
第二十一怪 手鏡
「お婆ちゃんの此処に置いて良い?」
「え~、割れ物が入ってないかだけ確認してくれない?」
今村家――
今村梨恵は祖母の遺品整理をしている最中であった。
急な連絡、そして祖母の他界、家に残された祖母の遺品の整理…と言った流れだ。
逆に祖父は既に他界しており居ない事から、何度か両親が一緒に暮らさないか?っと提案はしていた。
だが――
『あの人との思い出の場所で死なせてほしいのよ~。え?なんでそんな陽気って?別にそんな事ないわ~、ただ何時かアンタも分かる時が来るわよ』
以前母と祖母が話していた内容だ。
その後は父に話して、父もそれで良いのか?っと悩んでいたが、一度決めた事を中々曲げないのも祖母の性格で陰では頑固者って言われてたっけ。
「えっと……」
中には日記らしきもの、中身を見ると丁寧に日々の文字が書かれていた。
内容はだれだれさんの日常的な話をした~とか、庭にある花が咲いたとか、今日食べた献立に……だんだんと血圧測定の数値も書かれるようになっていた。
健康を気にし始めていたようだ。
そんな様子など無かったが、やはり皆に心配をかけまいと明るく振舞っていただけだったのだろう。
本当は――限界だったのかもしれない。
そうして様々なの物を仕分け、使える物、使えない物を仕分けていくうちに木彫りで作られた"手鏡”が出てきた。
綺麗に手入れされた"手鏡”の鏡には指紋1つ付いておらず、布で包まっていた辺りとても綺麗に保管されていたのだろうっと分かる。
だが――何かがパラっと落ちた。
その紙を拾うと"封”と書かれた紙が落ちていた。
「なに……コレ」
"手鏡”の中に入っていたものだろうか?
いや、その様なモノが入ってるようには見えなかったが…。
「お母さん!」
「なに~?」
「コレ、お婆ちゃんの!見て欲しいんだけど~」
「ちょっと待って、今別の――終わってから見るー!」
もしかしたら曰く付き?いや、その様なモノを収集する癖があるとは聞いていない。
だが……日記の文面を見てる辺り、祖母も重要な事を隠す性格であることが分かる事から、これも何かしらの理由で隠された"ナニカ”かもしれない。
布からは完全に外さずに、落ちた紙と共に危なくない場所に置いて、他の遺品整理を進めるのであった。
「それで、コレが梨恵の言ってた"手鏡”」
「うん、お婆ちゃんの遺品整理をしてた時に出てきたんだけど、何か知ってる?」
「んー……」
互いのマグカップに珈琲を注ぎ、それを飲みながら身体を温める。
季節は冬と言う事もあって、雪は降っていないが曇天の有様であった。
何度か鏡を見るも母は丁寧に布の上に"手鏡”を置きつつ、傍らに置いてあった"封”と書かれた古びた用紙も確認していた。
「私も初めて見る物ね…お母さんからは何も聞いてないし」
「そっか」
とは言っても、何か曰く付きの物じゃないだろうかっと言う心配は母も同様だった様だ。
「神社でお焚き上げしてもらう?」
「……んー、そうするかな」
正直、"手鏡”を全く使わないと言う事はないが、今時は現代風にちなんだ物を使う事が多いから、必要か?と言えばあまり必要ではない。
と言うより、高校生が使ってる様なファンシーな装飾も何もない。
あまりコレを友人や家で使ってるイメージが付かないのだ。
それに…母も使わないとなるなら話はやはりお焚き上げの方向になるだろう。
こうして"手鏡”に処理については話が終わった。
祖母の遺品は葬式と共に焼かれる事になる、翌日行われる事からほぼ通しだ。
寝ないと良いのだがっと言う心配をしつつ、友人とLIMEをしつつ時間を潰し、その時がやってきた。
葬式には数多くの、それこそ顔さえ知らなかった隣人やあまり会った事のない親戚の顔までもズラリと並んでいた。
香典を受け取りながら静かに会釈と感謝を済ませ、招きいれつつ、傍らでは集会の如く集まっている男性陣が少し五月蠅いぐらいに何か大きな声で話し込んでいた。
大体が会社の愚痴とかだが、自分の親戚が無くなった時に空気の読めない事をしないもので欲しいものだと梨恵は思った。
少なくとも自分よりも年配の方が、情けないと思ってしまう。
そうして式が始まり、お坊さんがお経を唱える。
木魚のポンポンとお経の声が響く中、やはり居る――ふさげている馬鹿な連中。
しかもそれが大の大人だと呆れてものも言えない。
普通社会人として出てる以上はマナーと言うものがあるだろうに、それを……大人になってまでふざけて、人の葬式を何だと思っているのだろうか?
時間は過ぎていく。
先ほどまでふざけていた大人達も、まるで子供が玩具遊びに飽きた様に今は携帯を弄っている。
「(携帯も弄る?普通……)」
そう思っていると木魚の音が止む。
「これにて、今村様のご葬儀を終えさせていただきます、それではご焼香をお願いいたします」
お経が終え、お坊さんの一言で母や父が、そして私とその後に親戚の人たちがお線香を刺していく。
無垢な子供も中におり、そしてお経の最中にふざけていた連中も終え、色々な感情があったが、無事に葬式が終わった。
葬式も色々あるそうで、母がその後お坊さんが遠方から来た事もあって、控えと共に交通費を出していた。
その際に母は"例の物”を取りだしてお坊さんに聞いていた。
「あの、コレ…母の物なのですが、この"手鏡”について――あつッ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
突如"手鏡”を反射的に手放し地面に落としてしまう。
幸いにも布が着地面に着いた事もあって、怪我やガラス片が飛び散る事もなかったっと言うよりも、割れていなかった。
「ん?」
なにか――鏡の中で何かが動いた様な気がした。
"ナニカ”とは具体的に言えば"白い影”の様なモノが通った様な気がしたのだ。
母が直ぐに拾い上げたせいもあって一瞬の出来事だが、確かに梨恵には見えてしまったのだ、あの"白い影”が。
「それでこれのお焚き上げも行いたいのですが……」
「ええ、構いませんよ、現地でにはなりますが――」
「……アレ、なんだろう」
「お姉ちゃんも"見えるの”?」
「え!?」
急に話をかけられその場で驚いてしまう。
無垢な表情で声をかけてきた男の子は指を指す。
その方角を見ると、母とお坊さんの2人だった。
「あのね、おそうしきの時にあの"白い影”、雲みたくふわふわ漂ってたよ~」
「……そ、そうなん、だ」
「うん!あの"鏡”にパって映ったのもソレだと思う!」
「そうなんだ、あ、ありがとう、ね」
声が多きため一瞬これを聞かれたら可笑しな会話だと思われてしまうと周囲を見渡すも、誰も気に留めてなかった様だ。
「でもね――」
男の子は会話を続ける、まるで少しだけ怖い物を見たかのように。
「白から黒にパ!って切り替わった時があったんだよ、本当に本当だよ!」
「あ、ありがとうね、お母さんにも伝えとくね」
「うん、バイバイ!お姉ちゃん!」
「うん、ばいばい」
不吉な事を聞いてしまった様な気がする。
"白い影”があのお経中に飛んでいたっと、それがあの"手鏡”に映り込んだ。
何処かで聞いた怪談話にも似ている、よくテレビ番組などである"霊体”とか"霊魂”と言うものだろう。
確か"黒いモノ”はとても危険だった様な気がする。
「(もしこれが全て繋がってる話なら……どうせあの馬鹿な大人連中に腹を立てたお婆ちゃんの怒りでしょ)」
っと梨恵は結論付けた。
もし自分が無くなった際に、あの様な無礼な態度で式典に参列されたら腹が立つからだ。
きっとどこかで天罰が下ると思いながらその日は無事に終えたのであった。
今日は母と共に祖母を出棺し、花葬し骨上げをして終了となる。
お焚き上げは四十九日が終えたあと、神道的な理由で良くないとされているからだ。
だが、お陰で時間もあり、その際に長年買ってしまってそのまま放置してあった、神社で購入したお守りやら破魔矢、それに木札まで見つかっていた。
新しく進捗する為、それも含めてお焚き上げする事となる。
「……」
昨日みたい"白い影”に、それと母が手に持った瞬間"熱さ”で手放してしまった"手鏡”。
試しに触れてみるとがその様な熱さはない。
鏡の方も見るも自分の顔が映るだけで何も――っとそこで何かが映り込んだ。
そう"ナニカ”だ。
何と表現すれば良いのか……それは知らない誰かだった。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
ビックリした拍子に無造作に"手鏡”を放り投げてしまう。
しまったと気づいた瞬間にはパリン!っと言う鏡が割れる様な音はなく、ただゴツンと木彫りが床に当たる音だけが鳴り響いていた。
「どうしたの!?」
「お、お母さん」
娘の悲鳴に駆け付けた母は、事態を把握する為周囲を見ると、あの"手鏡”が目に入った。
「ああ、これね……フフ」
急に不敵に笑いだす母に少し怒りを覚える。
「……なによ」
「アンタ、コレを見て"何か見えた~”なんて良い出すんじゃないんでしょうね?」
「な、そ、そんな事!お母さんだって昨日急に"熱い!”とか言い出すんじゃないの?」
「ああ……アレね」
"手鏡”を拾いつつ、そう言って椅子に腰を掛ける母。
机の上に物を置くと母は真剣な表情で語りだした。
「急に…そう、まるで熱した焼かんを誤って触った時の様な熱さだったわ」
「……あのさ」
聞いて良い物なのかどうか、少々迷いが生じるが、もし違っても笑い話になると考え思い切って聞いてみた。
「お母さんは"白い影”とか見た事ある?」
その問いに少々の間をおいて母は答えた。
「あるわよ」
そう伝えると、栓に詰まった水が勢いよく流れる如く聞きたい事が山の様に出てきた。
「ねぇ!昨日来てた子供がさ、式場に"白い影”を見たって、それにお母さんが"手鏡”を落とした際に一瞬だけど私も"鏡の中で白い影”を見たんだよ」
「……梨恵、その話、本当?」
「嘘なんかつかないよ!こっちも何か不気味で……なんであんなのが急に見えだしたの?」
「……私が見たのは小さい頃だから今のアンタぐらいの世代じゃ見えなかったけど」
そう言って立ち上がり、台所に移動し、マグカップに粉末状の珈琲を淹れていく。
粉が入った袋にお湯を注ぎながら答える。
「昔、今村家は"霊が視える家系”って言われてたの」
「え?」
「初耳だったでしょ、アンタを他人に変な目で見て欲しくなかったからね……お母さんも何も言わなかったし、見えたとしても、きっとはぐらかしてたと思うわ」
「……テレビで言う、"霊感”ってやつ?」
「かもね、今すぐ確認する方法はないけど四十九日が過ぎた後のお焚き上げの時にお坊さんにもう一度聞いてみるのも良いかもね」
「……うん」
「そんな心配な顔しないって、別に何も起きないって」
「…………うん」
言えなかった。
あの時、"手鏡”に映り込んだ長い髪の女性の顔。
やつれていて、唇も乾燥しているのカサカサになっており、目もクマによる睡眠不足が見られた。
ただジッとこちらを睨む様に見ている目線は――恐怖でしかなかった事を。
「さて、準備してお母さんを送り出そうか」
「……うん」
そうして出棺が行われ、その後を車でついていく。
花葬場は暑く、これなら人なんて簡単に燃やせてしまうと思い、そしてそれは現実になる。
灰の中に埋もれているお婆ちゃんの遺骨を1つずつ拾い上げる。
骨上げ(収骨とも呼ぶ)を行い、壺の中に収納していくと、全てこの小さな壺の中に人は入ってしまうんだと痛感する。
「……ねぇ」
「ん?」
「私もいつか、ああやって壺の中に入るのかな?」
「ずっと先よ、それに贅沢よ、きっと」
「贅沢?」
「だって考えてみなさい、誰も居ない中でそこら辺に投棄されるより、ちゃんと誰かが送り出して、骨を拾って入れてくれる人が居るって」
「……うん」
「お母さんの時もよろしくね」
「もう、まだお母さんは死なないでしょ!縁起でもない事、こんな時に言わないで」
「そうね、ごめんね」
「うん」
自然と目頭が熱くなる。
お婆ちゃんと話した内容は全く覚えてない訳ではない。
だが一緒にいた期間はとても短いながらも、濃い生活を送っていた事を思い出すと、色々と感情が溢れてきた。
初めて一緒に作った御餅、そこからお菓子や裁縫、花に水をやる事、一緒に手を繋いでいく買い物。
もう……できないんだと思ったら自然と涙が流れる。
その時――
「え?」
「どうしたの?」
「う、ううん、何でもない」
まただ。
あの"白い影”がふわりと横切った様な気がした。
お母さんの言う通り私の家系が"霊が視える家系”ならば、きっとこれも必然なのかもしれない。
「……大丈夫、私、1人でも」
誰にも聞こえない様に静かに言うと、本当に感覚的なものだが、"白い影”はふわりと消えた様な気がした。
忌明けが終わりいよいよ神社に行くことになった。
お婆ちゃんの魂は無事にあの世にいけたのかなっと思いながら、あの曰く付きの"手鏡”を持って神社に訪れる。
流石に行事ではないものの、参拝客がそれなりに居た。
二礼二拍手一礼、神社によっては異なる場所もあるそうだが、此処の神社は一般的な神社と変わらないらしい。
"氷見神社”それがこの神社の名前である。
受付の人のお坊さんに渡された名刺とその時の事情を説明すると、宮司さんがやってきた。
「お待ちしておりました、こちらへ」
本来ならマンツーマンでやる事はないが、宮司さんもこの"手鏡”を見た瞬間顔つきが変わった事、そして母が口にした家系の事を聞いて個別にやる事になった。
元々来る時間を日没に指定されていた事もあり、本殿で行われる祈祷は全て終え、その後自分たちの番となった。
祝詞を読み上げつつ、大麻で曰く付きの物、そして私達にそれを行い一礼をする。
最後に神社に入った時に私達がやった二礼二拍手一礼を行い、裏から玉串奉奠を受け取り、手順を見せ私達にもそれを受け取る。
「左手が下になるように、右手は上で持ちます」
「はい」
「頭を軽く下げた状態で祭壇前まで」
そうして祭壇前まで来るまた宮司から声がかかる。
「玉串をこちら側に向けた状態で枝先を神前にお捧げ下さい」
「はい」
「そして心の中で願いを込め、最後に二礼二拍手一礼でお終いでございます」
言われた通り、心の中でこの"手鏡”が消える様に願い、最後に二礼二拍手一礼を行いその場を静かに離れる。
全員が終わると同時に別室の案内になり、その後は家系の話に映り変わった。
「"霊が視える家系”と言う事で伺っておりましたが?」
「はい、昔、母が見えていたっと」
「なるほど……神道では基本的に霊感は必要とされていないスキルです、その上でやはり皆さまの様に不思議な体験をされる方も居ます」
「宮司さんは違うんですか?」
「いえ、私もハッキリとではありませんが"視える方”だとは思います、モヤみたいな形ですが」
半笑いになりながら答える。
そうして話は本題に入る。
「実は先ほどの祝詞でほとんどの儀式は終えております、"霊が視える可能性”もそこで払拭されたと思って良いと思いますが……こう言った世界は不思議な出会いがつきもの、
もしそれでも“視える”様でしたら専門の“霊媒師”にお願いをした方が良いでしょう」
「それは…宮司さんでもどうにもならないって事ですか?」
「私も長年此処で祝詞をやらせてもらっていますが、未だに視えておりますので…100%の効果がある訳ではないんですよ。
勿論、“視えなくなった方”も居ますがこればかりは私もお恥ずかしながら……」
「そう…ですか」
母が残念そうに俯く中、宮司は1枚の紙を渡す。
「私も手におえない“曰く付きの物”などはこの方にお願いをしております」
「……霊媒師」
「ええ、この方ならもしかしたら私より強い“お祓い”が可能かもしれません、良ければ私からも連絡をしましょうか?」
「いえ、大丈夫です。本当に、ありがとうございました」
「いいえ、足元にお気をつけ下さい、こちらが帰り道です」
そうして何とも言えない終え方をして“手鏡”の件は終えた。
だが――本当にコレで終えたのだろうか?
そう胸騒ぎがする予感は――後日現実となるのだった。
朝、化粧台の鏡を見ているとまたあの“白い影”が映り込んできた。
宮司さんが言った通り、100%の効果がある訳ではないらしい……そう思っていた矢先、目の前に映るはずの自分の顔が、またあの時の“手鏡”の女性に変わった。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
思わず椅子から転げ落ちる。
「ど、どうしたの!?」
「お、お母さん!!お、女の人が!?」
「女?私……じゃないわよね?誰の事?」
「か、鏡に……」
「え?」
訝し気な表情を浮かべる母がゆっくり化粧台に映る鏡を見るも特に何も起こらないし、無反応だ。
「何も…映ってないわよ?」
「でもあの“手鏡”と同じ――」
そこで言うのを一瞬躊躇ったが既に聞いてしまっていた母はすぐさまその話題に食いついた。
「“手鏡”の話、映ったって…私、聞いてないけど?」
「そ、それは…だって、誰も信じてくれないと思ったから……」
「詳しく言って」
そこで“手鏡”を触った時に映った女性の話を母にすると、母はふさげる事もなく最後まで私の話を聞いてくれた。
曰く付き……その言葉が頭の中で木魂する中、母は宣言した。
「やっぱり、ちゃんと見てもらう必要があるかもね」
「え?私、変じゃ――」
「違うわ、専門家によ。宮司さんもあの時言っていたでしょ?」
“霊媒師”――霊について生業としている人たちの事だ。
当然同じように……いや、それは失礼に当たるかもしれない。
それ以上に“視える人達”の事。
「私もこんな事初めてだから分からないけど、何か手遅れになる前に早く見てもらった方が良い気がするの」
「手遅れって?」
「それはわ、わからないわよ!でもアンタ、そうやって鏡を見る度に悲鳴を挙げてたんじゃ私だって心配だもの」
それも一理ある。
そんな事で宮司さんに紹介された“霊媒師”の方と会う事になった。
「……強い呪い、その曰く付きの物は既に神社の方で?」
「はい、お清め……お焚き上げさせてもらいました」
「……寸前で乗り移ったか」
ボソッと呟いた内容に背筋が凍り付く、今なんて言ったのだろう?
乗り移る?
誰に……いや、私にだ。
「今村様のご自宅をご拝見させていただいても?」
「ええ、構いませんが……」
そう言ってその日は分かれた。
後日――
訪れた“霊媒師”は身なりのしっかりとした服装に着替えて部屋の中を探索していく。
するとある場所で“霊媒師”の男性が止まる。
襖、その奥から何かを感じ取っている様だった。
「失礼ですが、中を開けても?」
「ええ、お願いします」
襖を開け懐中電灯を使いながら辺りを隈なく捜索していくと、何やら壁の辺りを触り始めると――そこが開いたのだ、正方形の入口となって。
そして中から何かを取りだすと、そこには――
「ッ!?」
「これって……」
「恐らく対となる“手鏡”でしょう、これを通じて娘さんを見ていた…んでしょうね」
「じゃ、じゃあ!?」
「ええ、お祓いはさせていただきます。念のため、娘さんにも結界を張らせていただきます」
手印と呼ばれる手法を使うと言い、まるで忍者が術を使う際に使う印に似ていた。
するとまるで何かに守られているかのような安心感を与える様な、透明なベールに包まれた様な気分になった。
だが一方で、何か強大な力がその見えないベールを無理やり剥がそうと引っ張っている様な感覚を味わう。
「止めなさい、その娘から離れなさい」
恐らく“霊媒師”には見えているモノに対して話す。
しばらくしてもある報告を睨んだまま動かなかった“霊媒師”が行動を起こす。
あるモノ……お札を見せ始めると、家全体が揺れている様な感覚に陥る。
「じ、地震!?」
「いえ、これは悪霊が必至に抗っている時に生じる現象です、札を見せる前から隙があれば娘さんに憑りつこうと目論んでいたので、少々威嚇しておりました」
「そ、そうなんですか?」
「こんな時ですが、娘さんの梨恵さんは“手鏡”に映った女性をどう感じましたか?」
「……なんだか、疲れ切っていて、食事も睡眠もあまり取れてないような……そんな印象でした」
「なるほど、伊三部源治っと言う男については知っておりますか?」
「い、いえ」
「その男はモノ造りの達人と言っても過言ではないのですが、ある時を境に“曰く付き”の品を生み出した産みの親に当たります」
「は、はぁ……」
急にその様な話をされてもっと思うも“霊媒師”は話を続ける。
「つい最近、その内の1つが“回収”されましてね、数人の死者を出しました」
「も、もしかして!?」
母が何かに勘づき、“霊媒師”は頷く。
「伊三部源治が主に作り出した“曰く付き”の品は3つ存在し、その内の1つがこの“手鏡”になります」
「……そんな」
そんな物が家にあるなんて聞かさてなかった。
こんな危険なモノなら何故早く祖母は廃棄しなかったのだろうと考えを巡らせていると、“霊媒師”は語る。
「推測にすぎませんが、家庭内事情は良好だったのにも関わらず、心配をかけまいと一緒に暮らす事に抵抗を持っていたのは、この“手鏡”の存在が家族にどんな悪影響を及ぼすか分からなかったら……危険にさせたくなかったんでしょう」
「……」
それなら早く言えばお焚き上げすればこんな事には――いや、現状がまさに悪化しているのだ。
そんな事をしても、何の解決にもならなかったかもしれない。
かえって被害を拡大させたかもしれない……もしかしたら、祖母はこんなプレッシャーとずっと1人で向き合い続けてきたのかもしれない。
明るい笑顔で向かい入れてくれるその瞳の奥では、何時家族に憑りつくか分からない悪霊と言う化け物の存在、話しても信じてもらえないかもしれない不安、孤独。
「対になって完成したこの“手鏡”は“合わせ手鏡”と呼ばれ、“あの世の自分と対話ができる代物”と聞き及んでいます」
「あの世?」
「つまり死ぬ前の自身と対話が出来るようになる代物と言う事です」
だとしたら、あの女性は――私自身、と言う事になる。
自身の姿に驚いて怖がっていたと思うと何だか可笑しな話になってしまうが、その時の私は――一体何を思って私を睨んでいたのだろう?
そんな事を思いながら手印をしていく。
「“皆”・“臨”・“陣”・“前”・“在”!」
すると強固な薄い壁の様な感覚が身体に付着した様な感じとなり、更に家中に地響きが伝わる。
だがそれも数秒…地響きは鳴りやみ、辺りは静寂になると目の前に在る“手鏡”もヒビが入って割れていた。
「終わりました、もう鏡を見ても怪異は起こらないでしょう」
「ほ、本当ですか?」
「ええ、今のところは……」
意味深な表現をする“霊媒師”にたまらず母は突っ込む。
「今…とは?」
「正直コレはもう“呪物”の様なものです、一時的に効力を弱め、娘さんから遠ざけただけに過ぎません、それに――もう1枚の“手鏡”が残っている以上これで終わったかどうか……」
そう言う“霊媒師”の顔は――汗だくだった。
まるでランニングした後の様に滝の様に溢れるほどの汗、僅かな時間でありながらこれだけの汗など流せるのか?
やはり原因はこの“手鏡”にあるようだ。
「ですがお焚き上げを――」
「宮司様は私達とは違い“霊媒師”ではありません、恐らくお焚き上げも失敗に終わるでしょう、私も直ぐに現場に向かい祝詞と共に破壊を試みるつもりではございますが、その間、娘さんには気を付けていただきたいことがございます」
「私…ですか?」
「はい、貴女はその“手鏡”と波長がとても合う様です、実際“手鏡”を観なくても他の鏡を通じて貴女に接触してきた所を見れば、この先の事を考えてしばらく鏡を直視しない方が良いでしょう」
「それは、全く鏡を見るなって事でしょうか?」
「ええ、理想は……ですが、生活の中で全く見ないのは不可能に近いのでなるべく直視だけは避けて下さい、あと声が聞こえても」
「……分かりました」
「それでは今日はこれにて失礼させていただきます」
その“霊媒師”のお陰もあってそれ以降、変な怪異に巻き込まれる事はなかった。
鏡はなるべく見ず、風呂場では“ささやき”の様な声が聞こえたが無視を決め、それ以降は過ごしてきた。
そして“霊媒師”の方から連絡が来たが、それは朗報ではなかった。
寧ろ悲報――宮司は焚き上げの最中に顔面に酷い火傷を負い、焚き上げた例の“手鏡”はそれ以降所在を眩ませたと言う話だ。
“霊媒師”は引き続き調査を進めているが、今後の対処としては前に言った通り“直視と耳を貸さない事”。
この2点だけを守って生活していれば何も起こらないはずっと、念には念をと特別な“お守り”をいただき、それ以降3年間はなにもせず過ごせた。
何も起こらない事こそ停滞で退屈な日常であると同時に、それは奇跡にも近い事でもある。
今置かれている現状によって変化する選択の波で、今村梨恵は記憶の彼方にあの“手鏡”の事を忘れ去ってしまっていた。
そう、この世に“完璧”な事などほぼない。
だからこそ――油断が招く災いを起こしてしまったのだ。
「え……」
友人と服を買う約束をし、衣装室で着替えを行っていた最中、アレだけ言われていた“鏡を直視”してしまったのだ。
そしてその結果――今、梨恵の正面にはあの女性が立っている。
恨みがましい目つきで梨恵を睨む女性、髪はボサボサになっており、肌は荒れ、目はクマと充血で酷い。
そのカサカサの唇が何か言ったと共に、梨恵の意識はそこで途絶えた。
――死ね――
第二十一怪 死線の双子手鏡
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