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JCの修学旅行 ~遠い日の約束Ⅱ~  作者: Red/春日玲音


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8/13

二日目 雪乃とライトとメイドカフェ

「……こんなんだっけ」


駅前に立ち、ライトは思わずそう呟いた。


東京には、雪乃たちと再会してから何度か足を運んでいる。

だが、秋葉原となると、これがまだ二度目だ。


最初に訪れたのは二十歳の頃。

あるアニメイベントで、当時、声優をしていたセイ――星夜と、テーマソングを歌っていたYuki――雪乃と再会した。

今となっては、少し懐かしい思い出だ。


「おにぃさーん、ご休憩いかがぁ?」


背後から、やけに甘ったるい声がかかる。


(……いかがわしいな)


そう思いながら振り返り――そして、言葉を失った。


「クスっ。なに、その顔?」


目の前にいたのは、ニヤリといたずらが成功した子どものような笑顔を浮かべた雪乃だった。


「くふふ……ライト、こういうの好きだもんねぇ」


そこに雪乃がいること自体は、想定内だった。

問題は、その格好だ。


ネコミミ、フリル、そして――どう考えても布面積の足りないメイド服。

雪乃はくるりと一回転し、スカートの裾を揺らしてみせる。


「どう? どう? 見惚れてないで、なんか言えぇ〜」


ライトは、喉まで出かかった言葉を必死にまとめ、ようやく口を開く。


「……露出、多すぎないか? あと、それ……お持ち帰りOK?」


後半は、ほとんど反射だった。


「今はこれくらい普通だよー。それに、こういうのがいいんでしょ?」


雪乃は一歩踏み込み、開いた胸元をわざと強調するように身を寄せてくる。


近い。

柔らかい。

いい匂いがする。


ライトの頭の中は、一瞬で真っ白になった。


「お持ち帰りはぁ……私はOKなんだけどぉ……」


そう囁きながら腕を絡め、頬を寄せ――


パシャッ。


「……っ!?」


気づいた時には、もう遅かった。


「はい、ツーショット〜」


雪乃は満足そうにスマホを操作し、なにやら送信する。


「これでよしっと」


嫌な予感しかしない。


案の定、直後にライトのスマホが震えた。


『お持ち帰りなんてダメ〜! れーじんの浮気者っ!』


みやびからだ。


ライトは画面を一瞬だけ確認し、何事もなかったかのようにスマホをポケットへ戻した。


……うん。

見なかったことにしよう。


「で、その格好で歩く気か? さすがに目立つだろ」


実際、周囲の視線は雪乃に集中している。


「さすがにねぇ。これは借り物だし」


雪乃はそう言ってライトの腕を取り、近くのビルへと歩き出す。


「このまま、ホテル誘ったらどうする?」


……反則だろ。


ライトは、即答できなかった。

冗談だとわかっていても、今日の雪乃は危険すぎる。


「……なんてね」


雪乃はふっと笑い、ライトから一歩離れる。


「今日はお預けだよ〜」


べぇ、と舌を出すその仕草に、ライトは深く息をついた。


(……心臓に悪い)


そう思いながらも、視線を逸らせなかった自分に、ライトは小さく苦笑するのだった。


エレベーターの扉が開き、二人並んで外へ出る。


目の前に広がるのは、ガラス張りのカフェ。

どうやら、ここが目的地らしい。


「着替えてくるから、中で待ってて」


そう言うと雪乃は、半ば強引にライトを店内へ押し込み、そのまま奥へと消えていった。


「いらっしゃいませ〜。お一人様ですか?」


声をかけてきたのは、ピンク色の髪をしたコスプレ姿の少女だった。

何かのキャラクターなのだろうが、ライトにはさっぱり分からない。


「あ、いや……連れが一人……」


「では、こちらへどうぞ〜」


案内された席に腰を下ろす。

平日の昼前ということもあり、店内は思ったより静かだった。


壁には、どうやら一つのアニメを中心としたグッズやポスターが所狭しと飾られ、BGMもそれに関連した楽曲らしい。

最近のアニメに詳しいとは言えないライトでも、これが相当人気の作品なのだということくらいは察しがついた。


スマホで何気なく情報サイトを眺めていると、視界の端に人影が差す。


オフショルダーのサマーニットにジーンズ。

さっきまでのメイド姿とは打って変わった、肩の力の抜けたラフな格好の雪乃だった。


「なにか頼んだ?」


「いや、雪乃が来るまで待ってた」


そう答えた瞬間、さきほどの少女が、絶妙なタイミングで現れる。


「彼ピとデートですかぁ。じゃあ、注文は……アレですね」


「うん。それと、Aランチ二つね」


「かしこまり〜」


慣れたやり取りに、ライトは思わず首を傾げる。


「……知り合い?」


「うん。ここでたまにバイトしてるの。インディーズだけじゃ、生活厳しいからね」


「雪乃がメイドカフェでバイトか……それで奢るって、大丈夫なのか?」


「プーのライトよりは稼いでるから心配しないで。あ、それと、ここはコンカフェね。一応」


「プー言うな」


憮然とするライトに、雪乃はくすくすと笑う。


フリーカメラマン――言い方はいいが、今の自分が不安定な立場なのは事実だ。

修学旅行で出会った、将来に向かって真剣に悩む若者たちの姿が、少し眩しくて……だからこそ、胸の奥がざわついていた。


「なぁ、雪乃」


「ん? なぁに?」


チキンライスを口に運びながら、雪乃が首を傾げる。


「今回のこと……ありがとな」


美音子から相談を受けたとき、ライトは正直、何もできないと思った。

無職同然の自分が、将来や進路について語る資格などない――そう感じていたからだ。


それでも、何か力になりたくて、星夜や雪乃を頼った。

結果として生まれたこの特別な機会は、彼女たちが動いてくれたからこそだった。


「んー、別にお礼言われるほどのことでもないよ〜。まぁ、貸しができたのはラッキーだけど」


にまっと笑う雪乃に、ライトは苦笑を返す。


「お手柔らかに頼むよ」


「でもね」


雪乃の声が、少しだけ真面目になる。


「私たちも、どこまで力になれるかは分からないんだよね。正直、セイも私も、勢いと感情でここまで来ただけだし……見本になれ、って言われるとさ」


その気持ちは、ライトにもよく分かった。

自分たちはまだ、社会に出たばかりの若輩者だ。


「……だからいいんじゃないか?」


「え?」


驚いたように雪乃が顔を上げる。


「想いと情熱だけでここまで来た。それが今の“Yuki”なんだろ?

『強い想いと、諦めない心』――それを体現してるんだから、胸張れよ」


一瞬の沈黙。

それから、雪乃はふっと笑った。


「……やっぱり、ライトの言葉って好きだな」


「なんだそれ」


ライトは思わず視線を逸らす。

その笑顔が、やけに眩しかったからだ。


「褒めてるんだから、照れないの」


クスクス笑いながら、雪乃はライトの頬を軽く突つく。


その様子を、近くで見ていたメイドたちが、ひそひそと楽しそうに見守っていることに――

当の二人は、まだ気づいていなかった。


「行ってらっしゃいませ、ご主人様、お嬢様」


メイドに満面の笑みで見送られ、二人はカフェを後にした。


エレベーターを降り、ビルの外へ出た瞬間、秋葉原特有の喧騒が一気に押し寄せてくる。

電光掲示板の派手な光、スピーカーから流れるアニメソング、呼び込みの声、人、人、人。

昼前だというのに、街はすでに十分すぎるほど賑やかだった。


「さて、次はどこ行く?」


雪乃は当たり前のようにライトの腕を取り、楽しげに問いかける。


「どこって……デートじゃあるまいし、そろそろ時間じゃないのか?」


「ぶっぶー。それを見越して早めに待ち合わせたのダヨ」


雪乃は得意げに言って、ぐっと腕に力を込める。


「まだ時間あるんだから、これはデートなのだぁ!」


「……はいはい」


軽くため息をつきながらも、振りほどこうとはしない。

むしろ、腕に伝わる体温が妙に落ち着かなくて、ライトは歩調を合わせるしかなかった。


二人は中央通りを外れ、少し裏手の通りへと足を向ける。

表通りほどの派手さはないが、フィギュアショップや中古ゲーム店、同人誌を扱う店が所狭しと並び、秋葉原らしさはむしろこちらの方が濃い。


「相変わらず、カオスだよなぁ……」


「そこがいいんじゃん。夢と欲望と煩悩の街」


「煩悩は余計だ」


そう言いながらも、ライトの視線は自然と店先のショーケースに向かう。

懐かしいアニメのポスター、見覚えのあるキャラクターのフィギュア。

一度は通り過ぎても、つい立ち止まってしまう。


「……好きなんでしょ、こういうの」


雪乃が、からかうように顔を覗き込む。


「嫌いじゃないけどな」


「ほら。目、ちょっとキラキラしてる」


「してない」


即答すると、雪乃は楽しそうに笑った。


人の流れに押されるように、二人の距離はさらに近づく。

気づけば肩が触れ合い、雪乃の髪がライトの腕にかすかに触れる。


「ね、ライト」


「ん?」


「前に来たときと、印象違わない?」


「あぁ……前は、イベント目当てで来ただけだったからな」


仕事、再会、慌ただしい記憶。

こうして、誰かと並んで歩く余裕なんてなかった。


「今は?」


「……街を見る余裕がある」


それに――隣を見る余裕も。


そう続けそうになって、ライトは言葉を飲み込む。

雪乃は気づいたのか気づいていないのか、にこにこと歩き続けている。


「ふふ、そっか」


しばらく歩いたあと、ガチャガチャがずらりと並ぶ一角で雪乃が足を止めた。


「ちょっと寄っていい?」


「……好きだな」


「いいでしょー」


コインを入れて回すガチャの音。

出てきたカプセルを開けて、中身を確認すると――


「……あ、被った」


雪乃は少しだけ口を尖らせる。


「これ、やるよ。」


ライトが自分の分を差し出すと、雪乃は一瞬きょとんとした顔をしてから、ぱっと笑った。


「やさし〜」


そう言って、指先が触れる。

ほんの一瞬なのに、なぜか胸がくすぐったい。


「ほら、次行こ」


再び腕を取られ、歩き出す。

もう、さっきよりも距離が近いのは、気のせいじゃない。


派手な街の雑踏の中で、二人だけの空気が、ゆっくりと甘くなっていく。

時計を気にしながらも、今この時間が終わってほしくない――そんな気持ちを、ライトは自覚し始めていた。


「……ほんとにデートだな」


ぽつりと漏らすと、


「今さら?」


雪乃は、いたずらっぽく笑った。


その笑顔に、ライトの心臓は跳ね上がるのだった。

前作は、ライトの地元という事もあり、みやび&真理の多0んでしたが、今作では雪乃&星夜のターンです。



ご意見、ご感想等お待ちしております。

良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。

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