表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
JCの修学旅行 ~遠い日の約束Ⅱ~  作者: Red/春日玲音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/18

二日目 都内観光午前の部

「…………」


目を覚ました瞬間、美音子は自分の顔が一気に熱くなるのをはっきりと自覚した。


反射的に布団を胸元まで引き上げながら、ゆっくりと部屋を見回す。

見慣れた天井、カーテン、家具の配置。

間違いない――ここは自分たちの部屋だ。


隣には、すやすやと寝息を立てるまどかと翠の姿もある。


……そこまでは、いい。


問題は、「確かに昨夜、ライトの部屋で眠ってしまったはずの自分が、今ここにいる」という事実だった。


(……え、どういうこと?)


夢遊病みたいに自力で戻ってきた記憶は、当然ながらない。

となると、考えられる可能性はひとつしかない。


――ライトに、運ばれた。


そう思い至った瞬間、胸の奥がきゅっと縮む。


しかも、夢と現実の境目が曖昧な記憶の中に、

「抱きかかえられている感覚」だけが、やけに生々しく残っていた。


(……あれ、夢じゃなかったら)


つまり、自分は――


「……お姫様抱っこ……?」


そう呟いた途端、顔がさらに熱くなる。


追い打ちをかけるように、今の自分の姿にも気づいてしまった。

下着姿。

昨夜着ていたはずのセーラ服が、どこにも見当たらない。


「……うぅ……」


頭を抱えたくなる衝動を必死でこらえながら、ぽつりと声が漏れる。


「……まどかぁ、ごめんねぇ……」


何に対して謝っているのか、自分でもよく分からない。

覚えはないのに、まどかより先にライトと――そんな、ありもしない想像が勝手に膨らんで、胸がちくりと痛む。


「ん〜……ネコちゃん、おはよぉ……ふぁぁ……」


間の抜けた声に、美音子はびくりと肩を跳ねさせる。


「あっ、ま、ま、ま、まどか……! お、おは、おはよ……!」


状況を整理しきれないまま、当の本人が起きてしまい、完全に動揺してしまう。


「ネコちゃん、ゴメンねぇ」


大きなあくびをしたあと、意識がはっきりしたらしいまどかが、申し訳なさそうにそう言った。


「……え? あ、う、うん……?」


「でもさぁ、ライトさんに抱っこされて運ばれてきたときは、思わず殴りたく――」


「ちょ、ちょっと! それは不可抗力だから……!」


瞳のハイライトを消し、ぶつぶつと呟き始めた親友を慌てて宥めながら、

(……やっぱり、お姫様抱っこだったんだ……)

と、美音子は別の意味で落ち込む。


まどかにとっては“ご褒美”のような出来事でも、

美音子にとっては、気を失って迷惑をかけた挙げ句、情けない姿を晒しただけだ。


――今日、どんな顔をしてライトに会えばいいのだろう。


そう思うだけで、胃のあたりがきゅっと縮む。


ちなみに、美音子が運ばれてきたとき、ちょうどまどかが目を覚ましたらしく、

美音子のセーラ服を脱がせて、クローゼットにしまったのも、まどかだったらしい。


その話を聞いて、ライトに下着姿を見られていないと分かり、ほっと胸を撫で下ろす。


……と同時に。


(……ちょっとだけ、残念……?)


そんな感情が浮かんだことに気づいてしまい、美音子は再び顔を覆った。


(ダメダメ……何考えてるの……)


ライトへのときめき。

まどかへの遠慮。

そして、ほんのわずかな罪悪感。


その全部がごちゃまぜになって、朝の布団の中で、美音子は静かに身悶えするのだった。



「フジテレビだぁ!」


翠が真っ先にはしゃいだ声を上げる。


「写真撮ってぇな! あの丸いのが入るようにっ!」


「はいはい。じゃあ、そこに並んで」


ライトは苦笑しながらリクエストに応え、立ち位置を指示する。


三人がポーズを決めると、

カシャッ、カシャッ、と小気味よいシャッター音が続いた。


「はい、次が待ってるから、場所空けてね」


そう言われて横を見ると、いつの間にか他の班の生徒たちが列を作っている。


「はーい……」


まどかは一歩下がり、ふと顔を近づけて、


「……ライトさん、またお昼、です」


と、彼にだけ聞こえる声で囁く。


そのまま、トテトテっと翠たちの待つ場所へ小走りで戻っていった。


ライトはその背中を見送ってから、気持ちを切り替えるように別の班へ声をかけ、撮影を続ける。


フジテレビを最初に選んだ班は、全体の三分の二ほど。

だが、そのほとんどが中へ入ってもすぐに出てきて、次の目的地へ向かっていく。


――まあ、時間が早いよな。


時計を見ると、まだ八時半を少し過ぎたところ。


フジテレビの見学エリアの営業時間は十時からだ。

一応中には入れるものの、ショップも展望台もミュージアムも閉まっているため、長居はできない。


中には、そのまま一時間半待つ班もあるようだが……。


ライトは、ある程度撮影を終えると、ゆりかもめに乗ることにした。


モノレールに揺られながら、次はどこへ向かうかを考える。


修学旅行の定番といえば、渋谷のハチ公前を経由して原宿――

だが、それも二、三十年前の話だろう。


(まあ、教えてくれたのが祖父だからな……)


班別行動表を思い返すと、渋谷方面の次に多いのが上野公園方面だった。

秋葉原や東大を組み込んだルートも含めると、むしろこちらのほうが主流と言える。


いろいろ考えた末、ライトは当初の予定通り、上野公園へ向かうことを決める。


実のところ、十一時半に秋葉原で待ち合わせが入っているため、上野方面以外の選択肢はなかった。


それでも一瞬、渋谷方面を考えたのは、ほんの些細な意地に過ぎない。


――まあ、昼をご馳走してくれるって言うしな。


フリーターのライトにとって、東京の食事はとにかく高い。

それを分かっていて、ランチを餌にしてくるあたり、相手もなかなかの策士だ。


ゆりかもめを降り、山手線へ乗り換える。


東京の鉄道事情は、何度来ても慣れない。

とはいえ、間違えてもすぐ次が来るだけ、まだマシなのだが。


どこへ行くにも鉄道――

張り巡らされた鉄道網と、その複雑さ。

一方で、どこへ行くにも車が必須な田舎。


どちらがいいとは一概には言えないが、少なくともライトには、田舎暮らしのほうが性に合っている。


そんなことを考えながら、電車に身を揺らしていた。


駅に着き、ホームに生徒の姿を見つけてカメラを構えた瞬間、周囲から不審そうな視線が刺さる。


――そういえば。


以前、先輩カメラマンから聞いた話を思い出す。


修学旅行先で女子生徒を撮影していたところ、盗撮疑惑で職質された、という話だ。

しかも、そのときに

「女子中学生を狙ってるんだから邪魔しないでくれ」

などと答えてしまい、誤解が解けるまで相当な時間を要したらしい。


聞いた当時は皆で笑ったものだが――


「……笑えないよなぁ」


当事者になると、まったく話が違う。


ライトは小さく溜息をつき、カメラを下ろした。


ヘルプの仕事で社会的に抹殺されるのは、さすがに勘弁だ。

それなら、少しくらいサボったほうがマシだろう。


そう決めて、ライトは静かにカメラの電源を落とすのだった。


◇ ◇ ◇


上野公園に足を踏み入れた途端、まどかの表情が一気に明るくなった。


「わぁ……! 見て、あのゾウ! 大きい……!」


柵の向こうを指差しながら、目を輝かせて声を弾ませる。


「ちょ、ちょっと、はしゃぎすぎやで?」


そんな様子を見て、翠が呆れたように肩をすくめる。


「まどか、あんたほんま子供やなぁ」


「えー? だってすごいんだもん!」


まどかはそう言い返しながらも、次の檻へ、次の檻へと視線を移し、落ち着きがない。


その様子を、やれやれ、といった顔で見ていた翠だったが――


「……あっ」


次の瞬間。


「ミーアキャットやん!!」


突然、翠のテンションが跳ね上がった。


「ちょ、見て見て! 立っとる! かわいすぎやろ!」


柵に張りつく勢いで身を乗り出し、写真を撮ろうとスマホを構え始める。


「……」


その光景を見て、美音子は静かにため息をついた。


(……どっちが子供なんだか)


先ほどまで「子供やなぁ」と言っていた本人が、一番はしゃいでいる。


「ミドリ、落ち着きなさいって……」


「無理や! これは無理やって!」


まどかもその様子につられて笑い出し、結局三人揃って檻の前で足を止めることになった。


二班の女子たちは、動物園には寄らず、早々に池袋方面へ向かったらしい。

そのおかげで、今ここにいるのは、まどか、美音子、翠の三人だけだ。


(三人だけで行動するのは……ちょっと目立つかしら)


美音子は、腕時計をちらりと確認しながら、頭の中でスケジュールを組み直す。


秋葉原での集合時間までは、まだ少し余裕がある。

だが、あまり遅くなるのもよくない。


(……もう一、二ヶ所見たら、移動した方がいいわね)


そう考えつつも、


「ねぇネコちゃん! 次、あっち行こ!」


「ミドリ、今度はペンギンおるで!」


と、無邪気に声をかけてくる二人を見ていると、つい頬が緩んでしまう。


(まぁ……今日くらい、いいか)


計画を少しだけ調整しながら、美音子は二人に付き合って動物園を回る。


楽しそうに笑うまどかと、テンション高く騒ぐ翠。

その姿を横目に見ながら、美音子は静かに歩き出すのだった。

ご意見、ご感想等お待ちしております。

良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ