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JCの修学旅行 ~遠い日の約束Ⅱ~  作者: Red/春日玲音


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14/21

3日目 レコーディング

朝食を終えた生徒たちは、それぞれ準備を済ませ、ホテルのロビーに集まっていた。


今日はこれから都内での自由研修を経て、千葉にある“ネズミの国”へ向かう日だ。

正午から14時の間に入場すること、そして20時には園を出てバス乗り場へ集合すること。

その二つのルール以外は、完全自由行動となっている。


とはいえ、放任というわけではない。

各班には1台ずつスマートフォンが支給され、GPSで位置を把握できる仕組みだ。


(便利な世の中になったもんだよな……)


そんなことを思いながら、ライトはホテルの外、人目につきにくい場所で待っていた。


やがて、小走りでやってくる見慣れた顔ぶれ。


「なんか……悪いことしてるみたいで……ドキドキします」


まどかが頬を赤らめ、胸元をぎゅっと押さえながら呟く。


自由行動を利用して、これからライトと“デート”をする――

そう思うだけで、心臓が早鐘のように打ち、今にも破裂しそうだった。


もっとも、実際は二人きりではない。

翠も美音子もいるし、裕也とエイジも一緒だ。


だが恋する乙女の視界からは、そういった現実的な情報はきれいに消えているらしい。


「まどかぁ、一応ウチらもおるんやで?」


翠が呆れたように言うが、まどかの耳にはまったく届いていない。


そして意を決したように、ライトの前に立つ。


「あ、あのっ……ライトさん、て、手をつないでも……いいですかっ!」


顔を真っ赤にして、震える声で絞り出すようなお願い。


それを聞いてしまえば、断れるはずがなかった。

というより、ライトは最初から「まどかのお願い」に拒否権など持っていない。


無言で、左手を差し出す。


きゅっと、小さな手が握ってきた。


「あらぁ、お熱いわねぇ」


「ライトって、やっぱロリコン?」


背後から、聞き慣れた声。


振り向けば、にやにや笑う星夜と、面白そうに眺めている雪乃の姿があった。


二人は昨夜、日付が変わっても飲み続けた結果、そのままホテルに宿泊。

これからオフィスへ戻るついでに、まどかたちを案内してくれることになっている。


ライトとしては思うところもあるが――


(電車代が浮くしな……)


現実的なメリットの前では、細かいことはどうでもよかった。


車に乗り込み、走り出してしばらくした頃。

助手席から雪乃が振り返る。


「でも、みんないいの? うちのオフィス来ても何もないよ?」


もともとは「どこか観光案内してあげる」と星夜が言い出したのがきっかけだった。

だがエイジたちが即答で希望したのは――


「オフィス・スノウに行きたい!」


という、ファン丸出しの要望だったのだ。


とはいえ「オフィス・スノウ」は、雪乃の仕事の事務処理と電話番をするだけの場所。

実際は星夜の「スターナイト・プロデュース」の一角を間借りしているに過ぎない。


そして星夜の事務所もまた、都心から少し離れた安ビルの一室。

業務は本格的でも、見学して楽しい場所かと言われれば、正直かなり地味だ。


「ええんやって。あのYukiのオフィス、っちゅうだけで価値あるんやから!」


翠が力強く断言し、そのまま“Yukiという存在の尊さ”について語り始める。


裕也とエイジも全力で同意し、三人のオタトークは一気に加速。


「わかる!? 空気吸えるだけで尊いねんで!?」


「壁とか机とか全部聖地やろこれ!」


「同じ建物内にYukiが存在した事実がもう文化財!」


その熱量に、流石の雪乃も若干引き気味である。


「……まぁ、いいんじゃない?」


ハンドルを握りながら、星夜が軽く言う。


「タイミング合えば、そのままレコーディング風景でも見学させてあげれば時間潰せるでしょ?」


その一言で。


「「「はぁああああああああ!?」」」


車内の後部座席が爆発した。


翠たち三人のボルテージは一気に天井を突き抜ける。


「生レコーディング!?」


「マジで言ってる!?」


「今日死ぬかもしれん!!」


前の席との温度差はもはや別世界。


そんな友人たちの大騒ぎを見て、まどかと美音子は顔を見合わせ――


そして、同時にそっと俯いた。


「……なんか、恥ずかしいね」


「う、うん……」


推しに対する熱量の種類が違う二人は、ただただ静かに赤くなるのだった。


車は、賑やかな笑い声を乗せたまま、ゆっくりと都内を離れていく。



「〜〜♪」


Yukiの歌声が、スタジオいっぱいに広がる。


透明なのに芯があって、やわらかいのに鋭い。

空気そのものが震えているような、プロの声だった。


ここに来てから、すでに一時間以上。

その間ほとんど休まず、Yukiは歌い続けている。


最初は「うわ、本物だ!」「やばいやばい!」と小声ではしゃいでいた翠たちも、

今では誰一人ふざけることなく、静かにガラス越しの姿を見つめていた。


憧れが、現実の“仕事”として目の前にある。

その凄みを、ようやく理解し始めていた。


今回行われているのは、Yukiの二枚目のアルバムレコーディング。

どうやら今回はきちんとスポンサーもついたらしく、調整室にはスーツ姿の関係者らしき人影もある。


遊びじゃない、本物の現場だった。


「ただ見てるだけじゃ、つまらないでしょ?」


不意に、調整室から出てきた星夜が声をかける。


「そんな事ないです」

「いや、もう、すげー感動してる…です」


裕也とエイジが、珍しく真面目な顔で答える。


「そっか。でもせっかくだし、君たちもレコーディング体験してみない?」


にやりと笑う星夜。


「Yukiも少し喉休ませないといけないしね」


その一言で、場の空気が一変した。


「え、え、え!?」

「マジで!?」

「録るって!?ここで!?」


一瞬でテンションが天井を突き破る中学生チーム。


スタッフも面白がってくれたのか、あれよあれよという間に

“中学生即席バンド体験コーナー”が設営されていく。


エイジと裕也は「歌はちょっと……」と辞退し、ギター担当に。

なんでも「ギター弾けたらモテるんじゃね?」という不純すぎる動機で、こっそり練習していたらしい。


しかも練習曲は当然、Yukiの曲。


「どの曲でもいけるっす!」と、変な自信だけは満々だった。


翠とまどかのツインボーカル。

美音子は流れでピアノ担当になり、ヘッドホンをつけた瞬間、緊張で背筋がピンと伸びる。


「おいおいマジかよぉ……」


エイジが情けない声を漏らすと、


バシィンッ!


「ウチとまどかが歌うんやで? ちぃとはカッコえぇとこ見せてみぃ!」


翠の強烈な一撃が背中に炸裂する。


好きな子にそんなことを言われたら、やるしかない。

エイジの目の色が変わった。


美音子のピアノが、震えながらもイントロを奏でる。

指は少し硬い。それでも、音はまっすぐだった。


そこに、裕也とエイジのギターが重なる。

たどたどしくても、必死な音。


そして――


翠の、太陽みたいに明るい声がスタジオに弾けた。


「彼女、中々いい声してるじゃない」


いつの間にか隣に来ていた雪乃が、ライトに小さく言う。


「ああ」


物怖じしない性格、この声、この度胸。

場数を踏めば、案外この世界でもやっていけるかもしれない。

ライトはそんなことを思う。


「せっかくだし、サービスしてあげよっか」


雪乃はそう言って、ライトにギターを押しつけた。


「はぁ……仕方ないな」


観念したようにスタジオへ入るライト。


気づいた中学生たちが目を見開く。


「え、ライトさん!?」

「マジで入ってきた!!」


ライトのギターが入った瞬間、音が一気に安定する。

裕也とエイジの拙い演奏を、さりげなく包み込むようなサポート。


さらに雪乃もマイクの前へ。


まどかと翠の後ろから、やわらかくコーラスを重ねる。


「え、Yukiの声後ろにおるんやけど!?」

「情報量多すぎてパンクする!!」


翠のテンションは完全に振り切れ、半分叫びながら歌っている。


最初はガチガチだった美音子も、

後ろから聞こえる本物のコーラスと、隣のまどかの楽しそうな声に引っ張られ、少しずつ表情がほどけていく。


鍵盤を叩く指に、さっきまでの迷いはもうない。


(楽しい……)


ただそれだけの感情が、胸いっぱいに広がっていた。


まどかも同じだった。

緊張で震えていた声が、いつの間にか笑い混じりになる。


上手い下手じゃない。

好きな人たちと、好きな音楽を、全力で鳴らしている。


それだけで、胸が熱くてたまらなかった。


そして――


最初からベースを持って参加していた星夜が、ニヤニヤしながらリズムを刻む。


プロと中学生がごちゃ混ぜになった、滅茶苦茶で、最高に楽しいセッション。


ガラスの向こうで見ていたスタッフたちも、思わず笑いながら手拍子を始めていた。


音楽が、年齢も立場も全部飛び越えて、

ただ「楽しい」で繋がった瞬間だった。

楽しい。それがYukiとセイの原点です。

学生時代、ライトたちと文化祭で歌ったのが楽しかった。その気持ちを伝えたい。

それが雪乃がYukiとして歌うきっかけです



ご意見、ご感想等お待ちしております。

良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。

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