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縁結びの神様は百合の間に入らない  作者: 樫井素数
幕間 2025年年越しスペシャル編
8/16

番外編前編 乙彼

 一年のうちで神社が最も繁盛するのが年越し、年明けだ。

 人は神社に参拝して、一年の幸せを祈る。祖先から延々と受け継がれた習わしだ。


「まー、ウチには関係ないがの!」


 わしは制服を着た人形に入ったまま、本殿でポテチを食べつつ、思いっきりゴロゴロしていた。

 せっかくの年明けに、ボロボロの神社に来る客はいない。観光客でごった返していても、しっかりとした神社に皆行きたいものだろう。

 気分だけでも正月としたい。ラジオでミュージック、スタート。年越しの神社でよく流れるあの曲が再生された。いつか神社再建したときのために、中古CDショップでこの曲を買っていたのだ。

 今は冬休みだ。大みそかと正月は親戚と会うなど、みんな忙しい。悲しいがこんなボロ神社に使う時間などないのだ……。


 と、思った矢先に来客が来たようだ。

 誰かが敷地内に来た気配がある。わしは本殿の中でかしこまった。

 やがて来客の顔がはっきりとわかる。

「操?」

 紛れもなく操だった。彼女は賽銭を入れて礼、拍手をする。

「神様、今年はありがとうございました。なでしこちゃん、メール見ると手術終わったみたい。予後を見てから帰国するらしくて、来年の春には学校来れるって」

 そうか! それはよかった。心配しておったからな。

「これからの私たちもよろしくお願いします、神様……」

 涙が出るくらいいい子だのう……。おぬしたちの未来に幸多からんことを。

 操が帰っていくと、入れ替わりに誰かが来た。


「みずっちさーん!」

 蓮華とミヨ子が腕を組んで歩いてきた。

 がたの来ている扉を開け、わしは応じた。

「なんだなんだ」

 扉を開けると、本殿に日光が差し込む。くっついているミヨ子と蓮華は本当に幸せそうだった。

 ふとミヨ子と目が合う。お互い、頷く。

 感謝の言葉を直接伝えずとも、目は口程に物を言うということだ。この者たちの縁を繋いでよかった、とわしは心の底から思った。

「あっ、いた。ほんとにこんなボロボロの神社で暮らしてるんですねー」

「うるさいわい。参拝でないなら要件は何だ?」

「みずっちさんにぃ、お年玉あげちゃいます」

 袋をガサゴソやり、中の物を取り出す。


 これは……。


 巫女服ではないか。人形の低めの身長に合わせた、丈の短いものだ。

「これ、わしに……?」

「アキバのコスプレショップに売ってたんですよ。みずっちさん、巫女って言ってたから。でもボロ神社がまともな服用意してくれるのかなって。たまたま見かけたから買っちゃいました」

「ちょっと待て。着替えてくる」

 わしは本殿に引っ込み、服を替える。

 人形の素肌を見せるわけにはいかないからな。

 巫女服はシルクでできており、肌触りが良い。

 本殿から出てきたわしを、蓮華とミヨ子は好奇の目で見た。

「なかなかいいじゃない!」

「Sサイズにしましたが、ぴったりです!」

「……こんないいものを、わしにくれるのか?」

 誰かからプレゼントをもらったのは初めてだ。

 土地神として生贄を捧げられたことはある。しかしあれは、わしが求めてもいないのに人間が勝手に寄越したものだ。


 ……生贄の少女……。


 いかんいかん。記憶に蓋をしていたのに思い出してしまうではないか。

 

 何も知らない蓮華はわしの姿をまじまじと見て。

「そういえばみずっちさん、男でも女でもないのに『巫女』なんですねえ」

「まぁ、多様性の時代だからな」

「この神社の神様は現代的ですねぇ」

 わし現代的かのう。

 ま、時代に合わせようとする心はなきにしもあらずだな。

「この後、年越しそば食べようって話になってるんです。みずっちさんも来ますか?」

 年越しそば。毎年ラジオで聞いていたが、実際に食べたことはない。

「行く、行く」

 そういうことになった。


   ・


 夜。蕎麦屋は案の定繁盛していた。

「はい、年越しそば三つお待ち!」

 カウンター席にモチの入ったそばが提供される。

「いただきます」

 そばを啜るとのど越しが良く、出汁もよく効いていた。

 この人形は神様の世界で造られた内燃機関を持っており、食べたものをエネルギーに変えられる。便利な道具だな、これは。

「美味しいですね」

「うん」

 蓮華とミヨ子も舌鼓を打っている。誰かと食事をするのも、思えば初めてだ。


 わし、長生きしとるのに初めてづくしだのう……。


 自由になったら、もっといろんな初めてを知っていくのだろうか。

 ふふっとわしの口の端から笑みがこぼれた。


 ごーん、ごーんと、どこかの寺の除夜の鐘が聞こえる。

 煩悩を打ち消す鐘の音。恋の煩悩があればウチに来るといいのにな、と思いつつ、初めて年末を楽しいと感じた。

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― 新着の感想 ―
一気読みさせていただきました! 面白かったです!! テンポが良く、クスッと笑えるストーリー展開でサクサク読めました! 冒頭の2人(操となでしこ)のラブストーリーかと思ったら、様々な百合カップルを応援す…
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