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縁結びの神様は百合の間に入らない  作者: 樫井素数
第弐章 共犯者編
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第七話 主役の座

「こいつとこいつと……こいつがくっつきそうということか」

 わしは生徒の写真が二枚貼られたカードを取り、蓮華と相談する。

「そうですね。夏休みの間に仲良くなったみたいです」

「この片割れは信心深いほうか? 神社に参拝に来るような……」

「この子は家がキリスト教なので、友達に誘われない限り行かないと思いますよ」

「そうか」

 蓮華は生徒の情報をカードにして保管している。わしらは机のうえでそれを広げ、蓮華の収集したカップル候補を見ていた。

 カードのなかに、操となでしこがいる。

「おお、この二人にはもはや懐かしさすら感じるのう」

「知ってるんですか? 隣のクラスの、操ちゃんとなでしこちゃん。そのカップリングはうちの近辺でも話題になってますよ。病気で渡米して遠距離恋愛なんて、ロマンあるじゃないですか」

 ロマン。まぁわからんでもない。バッドエンドになりそうなところを、ドラマチックに味付けしたのはわしだからな。


「こういう情報を欲しがるのは、どういった連中だ?」

「友達の変化を見逃したくない人、意中の相手に彼女がいないか探りを入れたい人です。結局他人との関わりのなかでしか、人は生きられませんからね。皆他人の色恋に興味津々なんですよ。修学旅行で恋バナとか、したことないです?」

「修学旅行自体行っておらんのだ。恋の悩みを持つ者が多いなら、わしのいる蛇野神神社に客を呼び込めないだろうか」

「蛇野神……あっ、そういえばみずっちさんの苗字……話題の神社……」

「そういう情報ももう持っておったか」

「女の子同士で結ばれたいならあそこだって、操さんが言ってたみたいです。隣のクラスの知り合いから又聞きなんですけども」

 操……本当にいい子だのう。


「わしはそこで巫女をしておる。神社の存続のため、参拝に来た者たちの恋を叶えてやりたいのだ」

「へぇ……それ、みずっちさんが神様みたいですね」

 みたいではないが、今は触れないでおこう。どのみち神様を目の前にしているなんて、女子高生が信じるわけがないと思うが。ややこしくなる前にわしは話を切り替えた。


「活動のうえで、おぬしの情報収集能力を当てにしたい。そして……生徒会長のことは知っておるか?」

「生徒会長……」

 蓮華はしばし固まってしまう。つけ込む隙は、今。

「その様子、何かあるのか?」

「……昔からの友達ですもん。今は立場が全然違いますけど」


 なあるほど。わしは神社に来た生徒会長の様子に合点が行った。中学の時の蓮華のことを覚えている理由も。

「なら、生徒会長がおぬしに好意を持っていることはわかるか?」

「それはっ……!」

 蓮華はガタッと立ち上がり、周囲の視線を集める。すぐに恥ずかしくなったのか、小さくなって椅子に座り直す。

「とてもじゃないですけど、今の私は生徒会長に釣り合う人間じゃありません。下々の者として情報を漁る日々……表に立って活躍する彼女と付き合うなんて、恐れ多すぎます」

「しかし旧知の仲なら、お互いのいいところも知っているだろう? そう謙遜することもない。自信を持ったらどうだ」

「私、昔炎上してっ……」

 熱くなるあまり、自分の過去をポロッと言おうとして、蓮華は思いとどまった。

「まぁその、ちょっと調子に乗りすぎて叩かれちゃったというか。クラスSNSを軽視してたなって自分も思いますけど」

 見た目と裏腹に感情的になることもある子だな。

 おそらく今は自重しているその精神面が、悪い方に転がってしまったのだと想像するに難くなかった。


「おぬし、自分の幸せを目指すことはしないのか?」

「幸せ……って」

「わしには目指すべき幸せがある」

 そろそろ休み時間が終わる。わしはとどめを刺すように言った。

「このスマホのSNSあかうんととやら、生徒会長もやっているのだろう?」

「……今の時代にSNSをやってない人なんていません」

 ミヨ子の本名でアカウント名検索してみる。アイコンが本人のものらしいアカウントが出てきた。ネット社会でも堂々としている、ミヨ子らしいなと思った。

「こいつが生徒会長か」

 アカウントを見せつけるわし。蓮華はやや目をそらして、無言。

 無言ということはわしに間違いがないのを認めることだ。


「……縁とは意図せずとも絡まるものだ。それを振りほどくか、糸の先を手繰り寄せるか。決断の時は近いぞ」

 蓮華は憮然とした顔をしていた。

 その顔に、もうひと押しだな、とわしは確信めいたものを感じた。

 キーンコーンカーンコーンと、次の授業の開始を告げるチャイムが鳴り響いた。

「ではまたのう!」

 わしは観賞魚のように翻って、自分の席に戻る。

 蓮華は複雑な表情のまま、かばんをごそごそやり授業の準備をするのだった。


   ・


 わしは帰る前に、生徒会室に立ち寄った。

 そう広くない教室で、ストーブがジーッと音を立てている。教室の中にいるのは、机でパソコンを操作している一人のみ。縦ロールの髪型をしたお嬢様。ビンゴだ。

「ミヨ子、おるか?」

 鍵はかかっておらんかった。わしが扉を開けて訪ねると、女子生徒はパソコンから顔を上げる。

「転校生……」

「少し、話があるのだが」

 わしの口調からただならぬものを感じたのか、ミヨ子は無言で立ち上がる。ハイヒールを履いてないのに背が高い。なるほど今の蓮華が釣り合わないと言うのも頷ける、あの目立たない格好の蓮華とこやつが並んで歩いている姿は想像がつかない。

「何のつもり?」

 ずいっと来る生徒会長。その背丈に圧倒されそうになるが、わしだって腐っても神様だ。負けじとオーラを発する。


「おぬしのアカウントをフォローした。生徒会の仕事、頑張っておるようだのう」

「あら。拡散も手伝っていただけると嬉しいのだけど。今日、一人でここに来いってリプライしたの、あなたよね? 転校生が生徒会に何の用かしら」

「身構えんでもよい。おぬしを幸せにしてやりに来たのだ」

 ぴくりと眉をつり上げる生徒会長。

「おぬしの想い人……そいつとおぬしが語り合える場を作ろうと思ってな」

「蓮華……?」

 ハッとする生徒会長。

 わしはカラカラと笑った。

 見た目は正反対だが、似ているところがあるのが可愛らしい。

「ひとつ進言があるのだ。生徒会長にも、蓮華にもプラスになることが」

「そんなことってあるの?」

「まぁ、わしに任せときんさい。皆幸せにしてやるからの」

 鳩が豆鉄砲を食らった顔で、ミヨ子はわしを見ていた。

 縁結び二件目。やってやるぞ。


   ・


 時は経って月曜日。

『……マジで?』

『生徒会の公式アカよね、これ……』

 朝教室に来ると、生徒たちがヒソヒソ話をしている。

(……来たか)

 わしは察した。そして、おあつらえ向きに蓮華がやってきた。


「みずっちさん、おはようございます……」

 ただならぬ顔をしている。試験前のように、緊張した面持ちだ。

「おぬし、『見た』のか?」

 蓮華はぴくっと肩を震わせる。

「……もしかして、これを仕組んだのって」

 蓮華がスマホを開き、わしに例のアカウントを見せる。そこに載っているつぶやき。わしはにんまり腕組みした。

「行ってこい。それがおぬしの幸せだ」

 そう言うとすぐ、放送が鳴る。

『蓮向蓮華さん。生徒会室に来てください。繰り返します……』

 蓮華の顔は、青ざめていると同時に上気している。

「私、行かなきゃ……」

「行ってらっしゃい!」

 それは覚悟した人を送り出す言葉。蓮華は頷いて、教室から出ていった。


「わしはしばし寝る! 邪魔するでないぞ!」

 わしはそう教室中に宣言してベタ寝した。

 人形の背中から、セミが殻を脱ぐように幽体のわしが抜け出す。

 わしが人形から抜け出たことに誰も気づいていない。ただ突っ伏して寝ていると思っておる。

 人と関わるうえで、透明になれることと実体を持つこと、二つを使い分けるのが良いとわしは思った。透明なままでは直接干渉すると霊障になる、そのことは前回思い知った。

 向かう先は生徒会室だった。そこでまた新たなドラマが、始まる。


   ・


「ミヨ子ちゃん……」

 生徒会室で待ち構えていたミヨ子は、無言で蓮華を見つめる。

「こっ、これ……」

 震えながら蓮華が見せた画面には、こう書かれていた。


【生徒会より】

 本校における生徒間の交流活性化のため、情報提供・広報補佐に新しいメンバーを加えます。

 推薦者:生徒会長 吉野ミヨ子


 名前はその下に、はっきりと明記されていた。


 ――蓮向蓮華。


「……どういうことですか、これ」

「あなたも見ていると思った。全部私の……まぁ、独断よ」

 蓮華の憮然とした顔がミヨ子を見つめる。

「私にこんな仕事、できるわけ……」

「あなたは自分の実力を過小評価してる。本来ならこれくらいの仕事、できるはずよ。私はあなたがそんな立場にいるのに我慢ならないの」

 蓮華はぽつりぽつりと言う。

「私、昔、歌って踊るのが好きで、それを調子に乗ってるって、気持ち悪いって言われて……」

「それでアイドルの夢を諦めたのよね。知ってるわ」

 幽体になって二人を見つめるわし。わしの思い描いたシナリオ通りに進んでいる。透明なわしはほくそ笑んだ。


「あなたはこれから『生徒会公認情報屋』として活動なさい。生徒会のSNS運用を任せるわ。今まで培ったノウハウを思う存分発揮なさい。情報屋、向いてるんでしょう?」

 ミヨ子は蓮華にウインクした。

「あのとき座れなかった主役の座、空いてるわよ」

 蓮華は耐えきれなくなったのか、顔をくしゃくしゃにして涙をにじませた。


 舞台は整った。

 あとは役者が逃げ出さねばよいのう。

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