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縁結びの神様は百合の間に入らない  作者: 樫井素数
最終章 今までとこれから編
26/27

第弐拾四話 修学旅行

「告白の返事は……待ってくれ!」

 そう言ってわしはその場をやりすごした。煮えきらない表情の紫苑を置いて逃げた。

 そうするしかなかった。

 翌日自分の教室で、机について頭を抱える。

「あ〜……」

 どうしよう。

 わしは人の縁を結びたい。しかしわし自身が結ばれたいわけではない。

「おやみずっちさん。ご機嫌斜めですか?」

 蓮華が隣の席にやって来る。

 わしは倦んだ目で蓮華を見上げた。

「……突然告白された時、どうすればいいかのう? それで悩んでおる」

「みずっちさんにも春が来たんですか?」

「わしに春は早すぎたようだよ……まだ冬眠していたかった」

「蛇ですか?」

「蛇だよ」

「めでたいことじゃないですか」

「それが全然めでたくないのだ。わしは人の仲を取り持つ者、わし自身が恋愛するなど思ってもみなかった」

「もうすぐ修学旅行なのに、落ち込んでちゃ楽しめないですよ」

 本来なら修学旅行までに、二人の互いに対する好感度を上げたかった。しかし紫苑からの矢印がわしに向いている。わしらの仲が深まってしまっては縁結びが達成できない。

「蓮華、修学旅行までに幸亜のことを調べてくれないか」

「音無幸亜さん? いいですけど……最近新しい友達になったんですか?」

「友達どころかあわや恋敵だよ〜」

「大変なんですね。私にできることはやっておきます」

 ぴっと蓮華は敬礼のポーズをとった。


   ・


 時間は誰の味方でもなく、淡々と過ぎ去っていく。まだ踏ん切りがつかない者を置き去りにしたまま。

 結局温泉の話は流れ、修学旅行に行く日になってしまった。

 今回の修学旅行はクラス交流も兼ねて、班を構成するメンバーがいろんなクラスからランダムに選ばれる。

 奇しくもわしは紫苑、幸亜と同じ班。これは気まずい。相当気まずい。

 新幹線では紫苑が隣に座った。窓側にいるわしをしきりに見やってくる。あわよくば手を握ろうとしてくる。わしはポケットに手を突っ込んでやり過ごした。

 通路側の席から幸亜が敵意ある視線を向けてくる。わしと紫苑の間のことを悟っている目だ。ごまかしきれるだろうか。

「伏見稲荷、楽しみだね……!」

 別の神社に行くのは年明け以来だ。伏見稲荷にいる神は……ウカノミタマ。わしと比べると上位の神に相当する。確か、わしの上にいるスセリビメと姉妹だったな。だからといって何があるでもないが。


 わしはカバンから、幸亜についてまとめたものを取り出す。蓮華が用意してくれたものだ。

「それ、何?」

「テスト勉強……」

「こんな日にまで勉強熱心にならなくてもいいのに」

 紫苑の目を誤魔化しつつ、わしは幸亜の資料に目を通した。

 音無幸亜。杠紫苑と幼馴染。昔、事故に遭ったところを紫苑に助けてもらい、そこから親交が始まったらしい。

 幸亜がなぜ紫苑に執着するのか、それは命を助けてもらったからだろう。しかし幸亜側の好意が紫苑に届くことはなく、仲を深めようとして、先日の校舎裏のようなことになってしまったのか。

 これは厄介な案件だな。幸亜側の気持ちもわからんではない。しかし、当事者として命を助けたことが直接恋愛に繋がるとは限らない。紫苑側の困惑もわかるのだ。紫苑としては、幸亜に普通の幸せを送ってほしいのだ。その幸せを支える自信が、紫苑にはない。


 幸亜はこちらから視線を外し、椅子に背中を預けて寝息を立て始めた。険のある雰囲気はそのまま、ふて寝しているようだ。わしはおぬしの敵ではないのに……。

「ちょっとトイレ行ってくるね」

 紫苑が席から離れた後、わしは大きなため息をついた。手に持った資料をカバンに戻す。


 もう、このままでいいかのう……?


 この縁結びを成就させる解決策が見つからない。

 縁結びの神様ではなく、女の子と添い遂げて、人間社会で普通に生きてもいいかのう……?

 わしは疲れた。縁結びの仕事は楽ではない。こんなことはやめにしたい。人形に入り、人の暮らしにも慣れてきたのだから、気ままな学校生活を続けてもいいような気がする。紫苑がマヤの生まれ変わりなら、できれば一緒にいたい。そのほうが関係性としてシンプルだと思う。


 わし、神様やめたい……。


「ダメです」

 シートの隙間からひょこりと現れたのは因幡の白兎。その唐突さにわしは声を上げそうになった。

「どういう場所から出てきたのだおぬし」

「私はいつもあなたの近くにいます。監視役でもあるのですから」

 因幡の白兎はこちらに人差し指を突きつけ、問い詰めてくる。

「あなた、仕事を投げ出したいと思ったでしょう。逃げ出したいと思ったでしょう。そんなの許しませんよ。あなたが縁結びをやると言うから、我々はチャンスを与えたんです。これはあなたが始めた物語です。途中で放り出すのは許可しません」

「うぐぅ」

「神様は人間のため働くのが使命です。伏見稲荷に行くんですよね。ウカノミタマに喝を入れてもらいなさい。それがいい」

「そんな上位の神に……?」

「人のために働くという点では、神社の神は皆一様ですよ」


 トイレから戻ってきた紫苑が、わしとその膝に乗るウサギを目にして、ちょっとびっくりした。

「ミズチさん……それ、ウサちゃん?」

 わしはぴくっと肩を震わせ、あははと愛想笑いする。

「は、はは……ぬいぐるみだよぬいぐるみ」

 わしは因幡を席の上にある棚に放り投げた。

 人間に見られるのはまずいのだろう、因幡はぬいぐるみに扮してじっとしていた。

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色んな百合カプにニヤニヤしていたら、気が付けば最新話まで読んでおりました! 超常の存在が百合を成就させるために奔走する姿に、良いぞもっとやれ!と思っていたら、まさか自身が渦中の存在になるとは…… …
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