表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縁結びの神様は百合の間に入らない  作者: 樫井素数
第参章 呪い道場編
17/20

第拾伍話 愛の反対は呪いじゃない

 友乃と芹那が結ばれた日の夜。

 わしは神社に帰って、人形に再び乗り移り、ぐでんと横になった。

 何となくだが、人形に入っているほうが寝つきがよいように感じる。夜の静けさを肌身で感じられ、闇を身近に感じられるからだろうか。幽体でいるより人形の中の方が居心地がいいくらいである。この人形の感触は格別だ。蛇神であった元の身体のようにとはいかないが、感覚は実際の肌身のようだ。

 そう考えると、地縛霊と変わらない幽体では、この世を楽しめていなかったのだなとつくづく感じる。

 本殿の床で寝ようとするわしに、外の叢から声がかけられた。


「ミズチさん、三組目の縁結びお疲れ様です」


 因幡の白兎が目を光らせ、こっちを見ておった。

「おじゃまします、よっと」

 因幡の白兎が外から床に飛び移ると、床板がぎしっと音を立てた。わしはあぐらをかき、因幡の白兎に向き直った。


「縁結びの仕事、なかなか順調じゃないですか」

「すべて順調とは行かないがな。この前は呪い道場なんて恐ろしいものを見た」

「あれはただの民間信仰ですね。神様は関わっていません。皆で集まって鬱憤を晴らしているだけです。あなたがあそこにいる方々を気にする必要はないですよ」

「そうか……」

「それよりミズチさんは頑張ってるって、スセリビメ様も言ってましたよ。職務放棄せず頑張る姿勢はすごいです」

「うむ。わしのような低級の神も、あのお方は見てくださるのだな」

 オオクニヌシの妻、スセリビメは神の上に立つ神。その方に目をかけられていると聞くと、わしの自由が少しずつ近づいてくる音がするようだ。

「ただ……縁結び、それも女の子同士というのは、艱難辛苦を伴うもの……次に来るお客さんには、十分注意したほうがいいかもしれません」

「なんだ、何か難しい客が来るのか?」

「スセリビメ様は千里眼で、あなたの未来ご覧になったようです。が、千里眼で見た未来の詳細は言ってはいけないもの。私もミズチさんが後々苦労する、としか聞かされていません」

「うぅっ……気になるではないか! 本当に何が来るのかわからんのか?」

「ま、覚悟はしておいてくださいねーとしか言えません。私はここで失礼します。では!」

 因幡の白兎がぴょーんと跳ねて森のなかに帰っていく。

 夜の静寂の中、呆然としたわしが取り残された。


 え、わし、これどんな顔をすればいいの?

 笑えばいいと思うよ……。

 心の中で自分に突っ込み、乾いた笑いを発したのだった。


   ・


 翌朝。学校。

 朝日の差し込む廊下を歩いていると、わしは自由に近づいているのを感じる。

 学校では体面を保つため授業を受けねばならなかったが、神社に閉じ込められていた時よりは開放感を感じる。神社に帰っても復習しないといけないのが厄介だったが、何もない暇な時間ばかりよりはいい。

 外の空気が吸えて、屋外で身体を動かせる……改めて、なんて気持ちがいいのだろう。


「みずっちさん、おはようです!」

 気づくと後ろから蓮華が声をかけてきた。最近、蓮華はいつにもまして明るくなっていると思う。

「機嫌がいいな。生徒会長とはうまくやっているのか?」

「はい、もちろん! 今度一緒に映画見に行くんですよ」

「おお、それはよかった」

 わしが結んだ縁。この先も途切れないことを切に願う。

「いい天気ですねぇ」

「そうだのう」

「雲のない晴れだと気持ちも晴れやかになりますよね」

「うむ」

 そういえば、天気がいいのを喜ばしいと思ったのはここ最近のことだ。

 神社に閉じ込められていた頃は、そこから動けなかったから、雨でも晴れでも同じだった。何なら外の世界の連中、連日雨で落ち込めとすら思っていた。しかし今、太陽の光を浴びられることに嬉しさを感じている。わし自身自覚できる、大きな変化だ。

「私、生徒会室に寄るのでまた後で会いましょう。ではまた!」

「おう」

 蓮華はせわしない奴だと思っていたが、生徒会に入って仕事が増え、本人にとっていいことなのだろうなと思う。

 わしも自分の仕事の成果が見たい。期待を込めて、教室のドアを開ける。


「おーす!」

 わしは教室に入るなり、わざとらしいくらいの大声であいさつした。そして友乃の席を見た。

 友乃の机のそばに、既に芹那が来ている。芹那はわしに気付くと、会釈で返す。椅子に座っている友乃は、手にした魔導書を読んでいるふりをしながら、傍らに立つ芹那をちらちら見ている。本と芹那の間を友乃の視線が行ったり来たりしていた。

 今日は友乃の頬に赤みが差している。健康的な肌だ。まるで憑き物が落ちたようだ。恋というものは、ここまで人を変えるものなのか。

「おふたりさん! 仲良うなったのか?」

「ええ、この通り!」

 クラスメイトの連中も二人の変化に気付いているのか、友乃らをこっそり見ている者もいた。しかしながら、二人に何が起こったのか知る者はまだおるまい。クラスSNSでまた動きがあるかもしれない。情報屋の蓮華に今度聞かせてもらおう。


 友乃は急にうつろな目になった。

「私、一体何に追い立てられてたんだろう……。勝手に追い詰められた気分になって、呪い道場なんて行ったりして……」

 芹那は友乃の頭をさらっと撫でる。

「いいのよ、もう。無理しなくたって」

 友乃はうっすらとほほ笑んだ。笑い慣れていない顔だった。しかしこれから、少しずつ慣れていくだろう。

 窓際でカーテンが紗になり、ウェディングベールのように二人を包み隠す。

「友乃ちゃん、独り暮らしなら……お邪魔してもバレないわよね?」

「……そうね」

 小声の会話は、耳の良いわしにははっきりと聞こえていた。

 カーテンの向こうでくすくす笑う二人。何やら既に妖しげなオーラが出ている。二人はもう、仲良くなるを飛び越えてしまったようだ。

 まぁ、結果オーライということで。わしは二人の縁を繋いだが、それ以上はわしではなく二人の問題だ。


 いや、しかし。

 わしは自分の席に着き、机に伏してしまう。

 ……本当に疲れた!

 これを後九十七回? とんでもねぇ。

 しかしぐったりしてもいられない。

 次なる参拝客……厄介と言っていたが、友乃以上に厄介なのだろうか。しかし因幡がそう言うのなら、そうなのだろうな。

 少し休ませてくれ~。

 新手がすぐに現れないことをわしは願った。

今後は二日に一度の更新となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ