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縁結びの神様は百合の間に入らない  作者: 樫井素数
第参章 呪い道場編
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第拾参話 恩讐の彼方に

 文字列の上を十円玉が滑っていく。

 友乃と芹那は、自分以外の二人が硬貨を動かしていると思っているだろう。本物の神様がいるとわかっているのはわしだけだ。


 硬貨の軌跡が言葉を紡いでゆく。

「へ、き、が、ん……」

 二人は綴られる文字に目を丸くする。

「す、い、ぞ、く、か、ん……?」


 碧岸水族館。

 こっくり占いで導き出されたのは、海の近くにある小さな水族館。この街から電車で一時間くらい行った先にある。大きな水槽があるわけではなく、あまり人が多く入っている印象のない水族館だ。

「ここに行けって言うの?」

 芹那は困惑したように言う。わしは頷いた。

「こっくり占いは初めてか?」

「ええ。ちょっと怖いものだと思ってた……」

「変な質問をしなければ、あいつはそこまで怖い奴じゃない……おっと。まぁ、よくある占いだよ」

「……」

 友乃は自分の指先をじっと見る。わしの指と、芹那の指と重なっている。友乃の指に、汗が少しにじんでいるのがわかった。


 まだ事態を飲み込めていない芹那が訊ねる。

「これって、水族館に行って、何しろってこと?」

「そりゃあ……デートじゃないか?」

「デートを提案するの? こっくりさんが?」

「そう訊いたじゃないか。お互いに意識している二人が行くべき場所を、とな」

 あっけらかんと答えたわしに芹那は懐疑的な視線を向ける。友乃はさっきからずっとわしを睨んでいる。

 

 そうだ。

 わしは気づいてしまった。


 わしから仕掛けたこの占い、気づけばわしがいらなくなっていた。

 この二人にとってわしは異物。この機会、どうせなら二人きりのデートにしたい。わしは仮病を使うことにした。

「あいたたた、ストマックエイク! 昨日食べた牡蠣に当たったか……わしは行けんのう。今度の日曜でも行くといい、お二人で楽しんできてくれ!」

 ではな! と手を挙げてわしは教室を後にする。ぽかんとしている二人の姿が見えるようだ。

 わしにできることはした。接点のない二人を結びつけるのに少し強硬手段を使ったが、魔術を信じておる友乃はこっくり占いに従うだろうし、友乃と一緒にいたい芹那もそうするはずだ。

 わしは人事を尽くした。後は天命を待つのみだ――。


   ・


 日曜日。わしは人形を神社に置いて外に出る。

 わしはもう幽体でいるのに慣れてしまっているが、肉体を封印される前は大蛇の姿をしておった。あの頃の身体に戻りたい気持ちがないと言ったら嘘になる。

 が、わしが存在を許されているのが、上位の神々の考える人の益であるなら、百人の縁を結ぶまでこのままだろう。自由になったとして、荒神だった頃の身体に戻れるかはいささか疑問だ。今度因幡の白兎が来たら問うてみよう。


 誰も信じない友乃でも、やはり占い結果なら信じられるようだ。友乃は予定時間の三十分前に集合場所の駅に着いていた。意外と女の子らしい趣味をしている、ピンクのカーディガンを着たコーデだ。


 今回は人形を使わず、幽体で二人を見守る。なぁに危なくなったら霊障でもいいから介入してやるさ。三人デートでは雰囲気が出ない。わしは引き際も心得ておるつもりだ。


 友乃はデートなんてしたことがないだろう。しきりにそわそわしている。そんなとき、柔らかな言葉が友乃に投げかけられた。

「おまたせ」

 いかにもお嬢様という格好で芹那は待ち合わせ場所に来た。白地のワンピースの裾は水色に縁取られている。まるで白砂の浜に打ち寄せる波だ。水族館に行くから、海を意識したのだろうか?

「行きましょう」

 芹那は友乃の手を握り、駅から彼女を連れ出した。駅から少し離れたところに水族館がある。真冬の白味のある日光に照らされて、二人は目的地に向かっていった。


 あまり人のいない水族館は、ゆったりと展示を見て回れる。水槽の一つ、目のないのっぺらぼうのような顔をしたサンショウウオの展示の前で、友乃はぶつぶつ唱えるように言った。

「これは、日本で碧岸水族館のみに展示されてるホライモリ……外国ではサラマンダーの幼体とも言われているの」

「サラマンダー……ドラゴンみたいな怪物のこと?」

「ええ。そういう怪物もいると、昔は信じられていたみたい。国旗にもなったわ。このホライモリは、その国との国交の証でもあるの」

「すごい! 占いだけじゃなく、いろんなことを知ってるのね!」

 友乃は目を見開いて、それから少し照れたような顔になる。

 知識を褒めてもらったのはおそらく初めてだろう。次の言葉は友乃側から放たれた。

「私……あなたに嫌われてると思った。なんで私に向かってくるのか、わからなくて……。テストの順位に嫉妬までしたのに……」

「とんでもないわ。私、あなたに悪い感情を抱いたことなんかない。むしろ仲良くしたいの」

 友乃の死んだ目に、ぽっと明かりが灯ったようだった。

「あなたの知ってること、色々教えてくれる?」

 芹那は繋いだ手をぎゅっと握った。

 友乃は弱々しくはあるが、それにきゅっと握り返すのだった。

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