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縁結びの神様は百合の間に入らない  作者: 樫井素数
第参章 呪い道場編
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第拾弐話 こっくりさん

「1914年6月28日、サラエボ事件が起こったのですメェ。それでメェ、オーストリアとセルビアの仲が悪くなったんですメェ」

 毎度のこととはいえ、歴史の授業は地獄だった。ヤギ担任の専門は世界史。しかしあまりにも細かい点や重箱の隅をさも重要ワードのように説いてくるので、聞いていると口調も相まってうんざりしてくる。

 歴史上の出来事の、日にちまで覚えさせる気かよヤギ担任。こういうのは年代だけでいいだろう……。

 わしは要点だけをノートにまとめるようにしている。そのほうが後で確認しやすいからだ。

 キーンコーンカーンコーンと授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。

「では、お昼の前はおしまいにします。メェ。お昼ゴハンの時、お茶を飲みながら復習してください。では起立!」

 食事の時まで勉強させる気か。知恵熱で寝込むぞ。しかし、辛い授業があってこそ休憩時間の自由が嬉しくなるものだ。わしはその感覚を理解しかけてきた。神社の外での自由時間はかけがえのないものだ。

 

 起立、礼を終えた後、生徒たちはざわざわと昼飯の用意をする。蓮華は礼の直後から、空気が抜けたようにぷしゅーと机に突っ伏していた。

「どうだ蓮華」

「久々に脳使ってますよー。勉強ってこんなに辛かったんですねー。それで、ご相談なんですが」

「わしのノートを見せてくれというんだろう。授業中、おぬし目を空けながら寝ていたからな」

 わしは「やれやれ」と思いつつ尋ねる。

「生徒会公認情報屋の仕事はどうだ?」

「いやー、大変ですねぇ。すべてのクラスLINEを監視していじめが起きてないかチェックをつけてます。今のところ、皆仲良くしてるみたいです。少なくともクラス全体を巻き込むいざこざは見られない……ただ、気がかりなことはありますけどね」

 わしはぴくりと眉を吊り上げた。


「……骨塚友乃のことではないだろうな?」

「企業秘密、と言いたいところですがいろんな人が噂してますし、今更ですね。綾小路芹那と複雑な関係みたいですよ」

「どんな具合にだ?」

「友乃ちゃんは芹那ちゃんが苦手みたいですけど、芹那ちゃんは友乃ちゃんと仲良くしたいみたいです。芹那ちゃん、友乃ちゃんに近づくために、友乃ちゃんが好きそうなものに自分も手を出してるみたいです」

「ほう。芹那は何に興味を持ったのだ?」

「占いですって。恋愛の。お嬢様も女の子ですねぇ。ただ、友乃ちゃんがやってるようなガチの魔術ではないみたいです」

「なるほど……」

 占いなら、わしに考えがある。旧知の仲の友がやっているものだ。呼べばこの教室にも来てくれるだろう。わしは自分の胸に手をやり応えた。

「この一件、わしに任せてくれないか。二人の仲を取り持ってみせる」

「みずっちさん、何か案があるんですか?」

「二人に占いの接点があるのを聞いたら、何とかなると思う」

「頼もしいですね……」


「蓮華」

 気がつくと、生徒会長が蓮華の机の横に立っていた。

「お昼、一緒に食べましょ」

 そう言うミヨ子の手には二人分の弁当。指に絆創膏を巻いている。おそらく蓮華の分の弁当もミヨ子が作ってきたのだろう。家で慣れない料理をするミヨ子の姿が想像できる。

 ぱあっと蓮華は笑みを浮かべて立ち上がり、次いでわしに申し訳なさそうな顔をする。

「では私は生徒会長とランチに……また会うときは次の授業で! 達者でね!」

「大げさだのう」

 歩きながら委員長と談笑する蓮華は本当に嬉しそうだった。

 二人きりで屋上にでも行くのだろう。蓮華も青春しておるな。友乃と芹那も、あの二人みたいに仲良くなればいいのだが。


 芹那が昼食の準備をしながら、チラチラと友乃のほうを見ておる。友乃は昼メシも食べずに魔術書を黙々と読んでいる。知識欲が食欲に勝っているのだろうか。

 今だ。


「このクラスにまじないや占いに詳しい者はおらんかのーう!」

 わしは教室で声を上げた。


 芹那がぴくっとわしの「占い」に反応する。

「おっ、反応したな。綾小路芹那。占いが好きなんだな? 昼メシの時間を遅らせて、少し付き合ってくれないか?」

 わしは芹那の席に向かいながら言う。

 芹那は言い寄るわしに困惑しているのが見て取れる。

「わし、占いに興味を持っててな。『こっくり占い』をやってみたい。せっかくだから三人くらいでやりたい。もう一人いないかのう……?」

 わしはわざとらしく友乃に顔を向ける。魔術書で表情を隠しておるようだが、『こっくり占い』と聞いた時反応したのをわしは見逃さなかった。

「おぬしも占いに詳しそうだな! その本……魔術書だろう? わしとこっくり占いせんか?」

「……」

 友乃は本を閉じ、芹那の席まで来た。

 こっくりに聞きたいことがあるらしい、とわしは解釈した。こうして三人で占いをすることになった。


 ひらがな表を書き、十円玉を紙の上においてセット完了。わしら三人は人差し指で十円玉を押さえた。

 二人が何か喋る前にわしは先手を打った。

「こっくりこっくりおいでませ。お互いを気にする二人が行くべき場所はどーこだ?」

 友乃と芹那に緊張が走る。わしは知らないふりをして、『それ』が降りてくるのを待った。

 友乃は霊や神を信じておるから、占いに抵抗はないようだ。芹那は硬貨を指で押さえながら、半信半疑といった顔をしている。 


 教室の天井近い空間に時空の裂け目ができ、別の空間から『それ』が降りてきた。幽体だからわし以外には見えていない。

 狐の耳と尻尾を持ち和風の花嫁衣装を着た、はんなりな女子。それが『こっくり』だった。

『おや、ミズチさんやないの。懲戒はどないしたん?』

「来たなこっくり。わしに付き合え」

『神様が神様を呼ぶなんて、けったいなことやわぁ。何か事情があるんどす?』

 神同士の会話は思念で行われる。普通の人間には聞こえない。わしは久々に会った友に遠慮なく訊いた。

「二人きりになれるデートスポットを教えるのだ。わしは縁結びの神をしておる。こやつら二人の縁を結びたいのだ」

『ハァーまた惚気話なんやねぇ。皆さん色気づいてはりますなぁ。うち、そういう話は聞き飽きてますわぁ』

 神の時間感覚は、短命の人間と比べると違う。前に会ったときから何百年の隔たりを経ても、最近あまり連絡を取らなかった知り合い程度にわしらは考えている。こっくりは表面は嫌々だが、律義なやつだとわかっている。今回の占いにもちゃんと答えてくれると知っていた。

『ま、小さい水族館にでも行くとええんとちゃいます? 大きい水族館は子どもたち大興奮やさかい、静かなところのほうが二人にはええやろ』

「ありがとう、今度いなり寿司でも供えてやる」

『お揚げが甘いの頼んますぅ。ほな、いくでぇ』

 そう言ってこっくりはどろんと煙に巻かれ、十円玉に吸い込まれていった。


 わしらが押さえている硬貨が、こっくりの妖力で意思を持ったように動き始める。

「あっ……動いた!」

 芹那が声を出す。

 友乃は自分の指先に集中していた。実際に動いているこっくりを見たのは、おそらく初めてだろう。こっくりの一挙一動を見逃すまいとしているかのようだ。

 十円玉の指す言葉は、二人が行くべき場所を示すのだった。

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