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縁結びの神様は百合の間に入らない  作者: 樫井素数
第参章 呪い道場編
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第九話 呪い道場

 骨塚友乃。生徒名簿に載っている名前。不健康そうな顔の女子。写真を見るに、あのぼさぼさ女子に間違いない。

 骨塚とは供養されぬものが集まってくるような名字だな。名は体を表すということか。とりあえず調査開始だ。


 休憩時間でも友乃は誰とも話さず、一人で本を読んでいた。ハードカバーの本を読んでいるかと思ったが、近づいてみると魔導書の類らしい。古ぼけた紙の本は女子高生がふつう読まなそうなものだった。友乃はそれを読みながら、ぶつぶつと何か独り言を言っている。

「エロイムエッサイム……エコエコアザラク……エコエコザメラク……」

 人間の言語ではない!?

 危ないヤツ。失礼ながら彼女の印象はそうだった。機嫌を損ねたら何されるかわからない。誰も彼女に話しかけないのも頷ける。

 ……ただ一人、綾小路芹那を除いては。


「ごきげんよう」

 その日の朝も、にこりと芹那は友乃に微笑む。お嬢様とオカルトマニア。その属性は正反対に見える。

 友乃は芹那に、こともあろうに険しい目線を返してどすの効いた声で言った。

「何か用?」

 あらら、と芹那はそれでも笑って応対した。

「そんなにつれなくしなくたって……私はあなたと仲良くしたいだけなのに」

「……私があなたと一緒にいたら、あなたの評価も下がる。こういう女なの、私は」

「そんなことないわ。私が誰といても関係ない……」

「あなたは何もわかってない!」

 がたっと友乃は席を立つ。

「あなたには私の気持ちはわからない……顔を近づけないで! どっか行って!」

 うひゃー、と思った。ガチ拒絶ではないか。芹那は本当にこやつに恋しているのか? 嫌われておるではないか。

 芹那は困った顔で笑いつつ、痛むのか自分の胸をきゅっと握り、自分の席へ戻っていった。


 友乃が立ち上がった時、つんと鼻を突くにおいを感じた。

 そのにおいは人間には知覚できない、高次元のものだった。呪いやまじないに関わる者は、こういうにおいがする。触れてはならぬ領域に足を踏み入れた人間特有のものだ。

 今まで席が遠いのもあって関わっていなかったが、近づくとわかる。こやつ、ヤバい香りがプンプンしよる!

「……あなたも何か?」

 ぎょろりとわしをも睨む友乃。

「あっ、き、気のせいだ、あはは……」

 わしも誤魔化して、席に戻った。


 近くの席の蓮華が耳打ちしてくる。

「骨塚友乃……あの娘はヤバいですよ。みずっちさん、命が惜しかったら関わらない方が良いです。私たち生徒会で何とかしなきゃいけない子です」

「……あいつはどういう奴なのだ?」

「古今東西の魔術書を集め、ネットオークションで霊薬を買い、自宅を魔女の厨房みたいにして何か錬成してるって噂です。具体的に何をしてるのか、こうして見ててもさっぱりわかりませんけど……」

 ほう。

「生徒会が動くほどの問題児なのか?」

「はい。あまりにもクラスから浮きすぎているし、知らないところでいじめもあるかもしれないし……」


 わしは唸ってしまった。

 これは結ぶべき縁なのか?

 明らかに友乃は芹那を嫌っておるし、芹那も自分でもよくわからない胸の高鳴りを感じているときた。

 明らかにただごとではない雰囲気だ。

 しかしながら妙なにおいも嗅ぎ取ってしまったがために、わしはこの縁を降りることができなくなった。人間社会に放置していては厄介なことになる、そんな予感がしてならなかった。

 人間で解決できるとは到底思えない。わしが介入せねばならない。そう強く思うのだった。

「蓮華、友乃のデータをくれ」

「みずっちさん、何するんですか?」

「わしも動かねばならん。わしとおぬしの仲だ、生徒会には秘密にしておいてくれ」

 蓮華はちょっと考え、「いいですよ」と返事した。

「詳しくは放課後にダイレクトメールで……」

「よし」

 わしのやることが決まった。


   ・


『友乃についての情報です。過去に遭難者も出たと言われている、街の北にある鎮守の森に頻繁に出入りしているようです』

 訊いていた通り、ダイレクトメールで蓮華が情報を寄越した。

 わしはスマホ片手に、例の鎮守の森に向かう。街はずれに広がる広葉樹林が見えた。木々を染める夕焼けが逢魔が時を演出しており、何か化け物でも出そうな雰囲気だった。

『足を踏み入れてはいけないとされる鎮守の森。みずっちさん、気を付けてください。幽霊とかでなくても、不良のたまり場になっている可能性もあります』

 そう蓮華は忠告してくれた。

 なぁに万が一何かあっても、わしの神様パワーでなんとかする。なんとかなる……よな?

 戦ったことが室町時代までだったことに気付き、今のわしにできるか急に不安になる。友乃が呪術の類を使ってきたら、わしは勝てるだろうか。

 

 鬱蒼と茂る森。森の大半を成す広葉樹は冬でも葉をつけている。

 わしは知覚を最大まで広げる。どんな小さな物音も聞き漏らさないようにする。爬虫類が持つピット器官。蛇神のわしはそれの何百倍も精度のよいものを持っていた。


 すると、何かが動く気配がした。


 わしはそちらに向かう。この市にはクマはいない。狸かカラスかもしれないが、反応は人間の大きさだった。灌木をかき分けそこに向かうと、小屋があった。


『呪い道場』


 小屋の入り口に立て看板があり、そこに書かれている文字を読んだ。

「疲れているからかのう……おかしなものが見えよるわ」

 わしは目をこすり、その看板を二度見する。


『呪い道場』


「んん?」

 わしが顔に疑問符を浮かべるのと同時に、「押忍!」という威勢のいい声が小屋から聞こえてきたのだった……。

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