第八話 白ワンピのお嬢様
正月明け。
冬休みの終了。楽しい時間も終わりが来るというものだ。
久しぶりの登校に、まだ半分寝ぼけているような生徒もちらほらいる。
二週間ぶりに見た蓮華もそんな感じだった。
机に半分突っ伏してうつろな目をしている蓮華に、わしはちょっかいをかける。
「一足す一は?」
訊いてみる。蓮華はよだれがたれそうな口を開いて答えた。
「みそスープ」
腑抜けた言い方。こいつは重症だ。テストは何日だったか……それまでには頭も治っておるかのう。
かくいうわしも冬休みの宿題に四苦八苦して、昨日やっと終わったところだった。転校生にも課題は容赦ない。スマホの助けを借りながら必死で解いている時に、ヤギ担任の小憎らしい顔が浮かんできてしまった。
そろそろホームルームが始まる頃に、新しく教室に入ってきた者がいる。
「ごきげんよう」
そのおっとりした声に教室中の誰もが振り向いた。
後光が差すようなオーラにうっ、とむせ返しそうになる。その少女は誰より輝いて見えた。
背は高く、よく手入れされたつややかな黒髪が目を引く。流し目気味の目元も美人の証左。制服を着こなし、サイズは違えどチビのわしと同じものを着ているとは思えない。
こやつは紛れもなくお嬢様のオーラを放っておる。ミヨ子がドレスの似合うお嬢様なら、こちらはワンピースの似合うお嬢様だ。田舎にいてひと夏の思い出を作っちゃうやつだ。今は冬だが。
いつの間にか正気の目を取り戻した蓮華がわしに耳打ちする。
「あの娘は綾小路芹那。こないだまで体調不良で欠席してたけど、今日は登校するみたいですね」
「有名な奴なのか?」
「テストでは学年トップ。容姿端麗さは学校で一番だと噂されてます。いろんな男子から告白され、そのたびに振っているという伝説の人ですよ」
芹那は周囲に笑顔を振りまき、男子や一部女子から熱い視線を受けている。
「一流スターみたいな生徒……いるもんだのう……」
芹那は教室を見回し、席についている一人の姿を認める。にこっと微笑み、芹那はその者の方へ向かった。
おや? と思ったのもつかの間、芹那はくらっと倒れそうになる。教室の誰もが息を飲んだ。
わしは思わず飛び出した。芹那が倒れて床に頭部を強打する寸前で受け止められた。
「大丈夫か!?」
色白の芹那は薄く笑いながら言う。その顔に生気がない。病人の顔だ。
「めまいがする……ちょっと貧血かも……いつものことよ」
わしは芹那に妙なにおいを感じ取った。
何か、人の世にあってはならないものの残り香がする。この少女が何か、霊薬のようなものを持っているのだろうか?
「お医者さんには異常ないって言われてるけど、私変よね」
「……とりあえず保健室に行け。一限の授業は受けられまい」
「私が連れていきます。みずっちさん、先生に伝言お願いします」
蓮華が芹那に肩を貸し、二人は廊下の向こうに行った。
去り際に芹那がちらりと目を向けた先に、わしの視線も吸い寄せられた。
芹那のことを恨めしそうに見ている者がいる。髪はぼさぼさで整えておらず、黒縁眼鏡の内側で金壺眼が光っていた。
その視線が気になったが、そやつが睨む以外何もしていない以上、わしは声をかける気になれなかった。
芹那が微笑んだ者は、確かそのぼさぼさ女子だったと思う。しかし一瞬のことだったので確証はなかった。何やら因縁でもあるのか?
芹那はその日、一限目は休んだが、その後はやや回復し授業を受けていた。今日は体育がないのが幸いだったと思う。
・
下校後神社に戻り、ラジオを聞いていると、来客の気配がする。
わしはラジオを切って来客を待った。三回目ともなると、この空気感にも慣れたものだ。
そして来客の姿に、わしは驚いた。
綾小路芹那。制服から白ワンピに着替えている。長身の彼女は妖艶な雰囲気を纏っていた。学校で見た姿とはまた印象が違う。こやつも神社のうわさを聞いてやって来たのだろうか?
見た目通りのお嬢様なら、金は持っているだろう。そのあたりの悩みではないのは明確だ。
賽銭箱に小銭チャリン。二礼二拍手一礼。
「……私、恋の悩みがあるんです」
このお嬢様が恋?
わしの神社は女同士の縁結び……やはりこやつも女同士の関係で悩んでいるのか?
「気になる人がいるんです。その人に近づくと、胸がどきどきして……これって恋だと思うんです。少女漫画にも、どきどきする人ってその人に恋してるってことだって書いてありました……私にも春が来たのでしょうか? その娘と仲良くなりたいです。骨塚友乃ちゃんと!」
骨塚。オカルトっぽい名前だ。その名字から、あのぼさぼさ女子をわしは思い浮かべた。
「意識し始めたのは最近だけど、あの子、最近良くないことにはまってるみたいで、心配で……でも同時に、この胸に恋心みたいなものが芽生えて。友乃ちゃんとお近づきになりたい!」
なるほどのう……。
わしは骨塚友乃のことを探ろうと決めた。明日学校に行って名簿を参照して、蓮華にも手伝ってもらおう。




