7話 祝福の花びらの下で、新婦は
大聖堂の鐘が、荘厳に鳴り響いた。
ステンドグラスから差し込む七色の光が、祭壇の二人を神聖に染める。
ギルドメンバー全員が立ち会い、野次馬プレイヤーたちで埋め尽くされた客席から、
祝福の拍手と歓声が湧き上がる。
司祭NPCが、荘厳な声で宣誓を促した。
「汝、冒険者アストラ。そらぽんを永遠のパートナーとして愛し、守り、共に戦うことを誓うか?」
アストラの返事が、少し上ずっていた。
「誓う!! 絶対に、守る!!」
客席から「うおおおおお!!」「かっこいい!!」という野太い声が飛び交う。
次は、空の番だった。
「汝、冒険者そらぽん。アストラを永遠のパートナーとして支え、癒し、共に歩むことを誓うか?」
ボタンを押す、指が震えた。
(俺は……嘘をついたまま、こんな場所で……)
でも、画面の向こうのアストラが、まっすぐに見つめてくれている。
瞳に映るのは、完全に「そらぽん」という女の子だけだ。
「……誓います」
プリセットボイスに変換された、優しい女性の声で、「そらぽん」は宣誓した。
指輪の交換。
シルバーリングが、そらぽんの薬指に滑り込む瞬間──
システム効果音と共に、無数の光の粒子が舞い上がり、二人の体を包んだ。
【あなたは結婚しました】
【専用タイトル「永遠の伴侶」を獲得しました】
【パートナーとの全ステータスが永久的に10%上昇します】
ギルドチャットが爆発した。
「キターーー!!!」
「全米が泣いた」
「もう離れられないなお前ら……一生一緒にいろよ……」
「末永く爆発しろwww」
花びらが降り注ぐ。
色とりどりの花びらが、祝福の雨となって二人を包む。
その中で、アストラが突然──
「そらぽん!」
エモートで、抱きしめてきた。
「これからも……一緒に遊ぼうな!」
空の視界が、熱くなった。
****
新居は、始まりの丘を見下ろす小さなコテージだった。
二人で選んだ家具が並び、窓の外には初めて出会った草原が広がっている。
「ここが……俺たちの家か」
並んでベッドに腰掛け、二人で窓の外の景色を見る。
「なんか……照れるな」
「……うん」
しばらくそのまま、二人で夕陽を見ていた。
沈む太陽が草原をオレンジに染める。
あの日の出会いを思い出すような、懐かしくて新しい景色。
アストラが、小さな声で呟いた。
「……俺、結婚相手がそらぽんで、本当によかった。そらぽんのこと、大好きだから」
大好き。
その言葉が、画面越しに届いた瞬間、
空はVRゴーグルを乱暴に外し、ベッドに突っ伏した。
涙が、止まらなかった。
(ごめん……ごめん……)
(こんなに幸せなのに、俺は……嘘つきなんだ)
現実の部屋は、静かすぎて、残酷だった。
──この幸せは、いつか必ず壊れる。
そう分かっていても、
もう、この嘘は、走り出してしまった。




