6話 折れる心と、新たな決意
夕方、帰宅中の空。
(早く帰って、アストラと遊びたい)
駅前の雑踏。人混みを避けて、空は裏道を歩く。薄暗い路地裏。でも、人がいない方が落ち着く。
(……ん?)
前方で、何かが動いた。壁際の──人影。
(何だ?)
近づくと──男が二人。そして、壁に押し付けられた、制服姿の女子高生。
「や、やめてください……」
怯えた声。
(!)
空の心臓が、跳ねた。
(助けなきゃ)
でも──。足が、動かない。男たちは、がっしりとした体格。空よりも、ずっと大きい。
(でも、このままじゃ──)
空は、カバンを握りしめた。震える足で。一歩。また一歩。
「やめろ!」
声を出した。張り上げたつもりの声は、自分が思っていたよりもかなりか細い声だった。
怪訝そうに男たちが振り返る。
「あ?」
空を見る、その目が、冷たい。
「なんだ、お前」
一人が、笑った。
「ヒーローごっこか?」
もう一人が、面倒くさそうに近づいてくる。空は、男の腕を掴もうとした。でも。
「邪魔すんな」
男の手が、空の肩を払った。ただ、それだけ。でも──空の体が、浮いた。
「あっ……」
背中から、地面に叩きつけられる。鈍い音がした。
「っ……!」
痛い。息ができない。メガネが、ずれた。視界が、ぼやける。
「ちっ、うぜえな」
男の声が、遠い。空は、地面に転がったままだ。
体が、動かない。
(誰か……)
「おい、何やってんだ!」
直後、男性の怒鳴り声がした。
「……ちっ」
絡んでいた男たちの足音が、遠ざかる。
「大丈夫か!?」
誰かが、空の肩に手を置いた。酔客だった。居酒屋帰りらしい中年の男性。
「あ、はい……」
空は、ようやく体を起こした。女子高生はもういない。走って、逃げたのだろう。
「ありがとう……ございました」
空は頭を下げた。酔客は、心配そうに空を見たが、
「気をつけろよ」
そう言って、去っていった。空は、よろよろと一人で立ち上がった。
近くのショーウィンドウに、自分の姿が映った。ずれたメガネ。汚れた服。細い体。
(何も、できなかった。助けたかった。でも、俺には、無理だった)
自室。空は、ベッドに倒れ込んだ。体中が痛い。でも、それよりも。
(情けない)
一番痛いのは、胸だった。
(人を騙してるのに、結婚だなんてはしゃいでいたから、報いが来たのかな……)
VRゴーグルが、机の上にある。
(ゲームの中でなら、そらぽんとして、ヒーラーとして、誰かを、守れる)
それだけが、空の救いだった。
(どんなことがあっても、アストラくんだけは傷つけたくない)
そのためなら。
(彼が傷つくくらいなら、「そらぽん」の秘密は、どんなことがあっても──)
(──守ろう)




