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17話 終わりの始まり


 「──[サーバー負荷上昇]――」


 その無機質なシステムメッセージは、まるで不吉な予言のようにゲーム内を流れ続けていた。


「え、なにこれ?サーバーが重いってこと?」


 ドワーフのヒゲモジャールこと蓮は、初めてのことに戸惑いを隠せない様子だ。


「うーん、最近ずっとこんなメッセージが出てるんだ。ちょっと前まではすぐ消えてたんだけど……」


 空がそう答える一方で、美月はどこか不安げな表情を浮かべていた。


 その不安は、すぐに現実のものとなる。

三人が初心者向けのダンジョンを抜け、次のエリアへと足を踏み入れた瞬間、異変は起きた。


 本来は一定時間で消滅するはずのモンスターの残骸が、フィールドに積み上がっている。

それらは光の粒子となって消えることもなく、禍々しいオーラを放ち続けていた。


「な、なにこれ……!?」


 空は思わず声を上げた。そして、次の瞬間、その残骸からおぞましい唸り声とともに、モンスターが次々と起き上がってきたのだ。


「まさか、モンスターがリスポーンし続けてるの!?」美月が叫ぶ。


「しかも、普段ならこのエリアには絶対に出てこないレベルのやつだよ!」


 空の体力ゲージがみるみるうちに赤く染まっていく。


 慌てて蓮が空を庇い、美月がそれを援護する。

ゲーム経験はほとんどないらしいが、蓮はゲームの勘どころを掴むのが非常に上手い。

三人は必死に応戦し、どうにかその場を切り抜けた。


「早く脱出しよう!」美月がそう叫ぶ。


 事態は深刻だった。

ギルドチャットも、騒然としている。


「ギルドのみんなは大丈夫だった!?」


「初心者のギルメンは、今初心者エリアに近寄らないほうがいいよ!」


 ギルマスのレオナが注意喚起をする。


「初心者エリアの隣に、『アントクイーン』っていうエリアボスがいるじゃん! あいつが、なぜかいつまで経っても消滅しないんだよ!」


「本当なら時間経過で消えるのに……。そのせいで、アントクイーンが下級アリ系雑魚を生み続けてるんだ!」


「モンスターだらけなのも、そのせい?」


「うん。 モンスターが消えないからサーバーの負荷もめちゃくちゃだよ」


「さっきまで私たちがいた初心者エリアにまで、いるはずのない高レベルモンスターがいたのも、そのせい?」


 「うん……! アントクイーンが生み続けるモンスターが行き場をなくして、隣の初心者エリアになだれ込んでるんだよ!」


*****


 SNSでは、初心者プレイヤーたちの悲鳴のような声が拡散されていた。


 「こんなの、まともに遊べないよ!」


 「怖すぎてログアウトしたわ……」


 本来、新規プレイヤーが安全にゲームを始められるはずのエリアが、今や強力なモンスターの巣窟と化してしまったのだ。


 「これじゃ、新しいプレイヤーがこのゲームを始める手段を完全に失っちゃうじゃないか!」


 空の表情が曇る。

ゲームは新規参入があってこそ活性化する。

その道が閉ざされたということは、ゲームの衰退が不可避であることを意味していた。


 「ねぇ、運営は何か対策してるの?」美月が訊ねる。


 「公式サイトを見てみようか」


 空が答える。


 しかし、日本の運営の答えは絶望的なものだった。


 『エピキュクルス・オンライン』の開発は海外で行われており、

日本サーバーの運営にはゲームの根幹プログラムを直接操作し、このバグを修正する能力がないのだという。


 「つまり、サーバーエラーを直すことは、今の日本の運営にはできないってことか…」蓮の声に、苛立ちが滲んでいた。


 その頃。モンスターの氾濫は、ついに中級者エリアにまで及び始めていた。


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