11話 「俺、そらぽんに会いたい」
ピコン。
通知音とともにアストラからの個別チャットが届いた。
<アストラ:そらぽん、オフ会、楽しかった?>
空は少し考えてから、正直に返信した。
<うん、みんなに会えて……楽しかったよ。アストラくんは来なかったんだね>
<アストラ:うん、ちょっと用事があって…。でも、みんなが『そらぽんは超美人だった』って大騒ぎしてたね>
しばらく沈黙が続いた。アストラが何か言いたげにしているのが、文字越しでも伝わってくる。
<アストラ:ねぇ、そらぽん。みんなに『美人だね』って褒められて、嬉しかった?>
予想外の質問だった。空は画面を見つめたまま、指が止まる。
どう答えればいいんだろう。嬉しかった、と言えば嘘になる。
でも、嬉しくなかったと言えば、みんなの好意を否定することになる。
<正直に言っていいかな>
空は、珍しく自分の本音をチャットに打ち込んだ。
<褒められるのは嬉しいはずなのに、なんだかすごく疲れちゃった>
<みんな優しくしてくれたのに、変だよね?>
送信ボタンを押してから、しまったと思った。
そらぽんらしくない、ネガティブな発言だ。アストラを困らせてしまったかもしれない。
でも、返信は意外なほど早く来た。
<アストラ:……やっぱり、そうなんだ>
(え?)
<アストラ:実はね、俺もみんなのチャット見てて思ったんだ>
<アストラ:そらぽんの『美人』話で盛り上がってるのを見て、なんだか違和感があった>
<アストラ:だって、俺が知ってるそらぽんは、見た目がどうこうじゃなくて、困ってる人を放っておけない優しい人だから>
空の胸が、きゅっと締め付けられた。
<アストラ:ねぇ、そらぽん。二人だけで、会ってくれるかな?>
画面を見つめたまま、空は息を呑んだ。
<どうして?>
<アストラ:そらぽんの、本当の顔が見たいんだ>
<本当の顔? でも、今日みんなに会ったのが、私だよ>
<アストラ:違う。そらぽんが『美人だね』って褒められて、嬉しそうじゃなかった顔>
<アストラ:あれが、本当のそらぽんだと思った>
空は、スマホを握る手が震えるのを感じた。
<アストラ:俺も……実は、同じような経験があるんだ>
<アストラ:昔、見た目のことですごく注目されて、それで人が集まってきたことがあって>
<アストラ:でも、みんな『外見』しか見てくれなくて。本当の俺を知ろうとしてくれる人は、ほとんどいなかった>
<アストラ:だから、そらぽんの気持ち、すごくわかる気がするんだ>
空の目に、じわりと涙が滲んだ。
アストラは、自分が抱えているものと同じような気持ちを、背負っているのだろうか。
<アストラ:もし良かったら、二人で会わない?>
<アストラ:お互いの本当の顔を見せ合える、そんな時間にしたいんだ>
空の胸は、複雑な感情で満たされた。
美女と知って、やはり惹かれたのだろうか――そんな邪推も一瞬頭をよぎった。でも。
違う。アストラの言葉には、そんな下心なんて全く感じない。
「美人だから会いたい」のではなく、「見た目の向こうにいる本当の相手を知りたい」という、真摯な響き。
<うん。私も、会いたい>
*****
「そらぽん」として、二人だけのオフ会の約束をした。
(何はともあれ、これで本当に「アストラ」くんを失望させない「そらぽん」になれた)
でも、同時に別の思いも湧き上がる。
(アストラくんは、俺の「本当の顔」を見たいと言ってくれた。でも、俺は……)
「本当の顔」は、まだ見せる勇気が出ない。アストラと会うためには、再び蓮の助けが必要だ。
でも、せめて、アストラが見せてくれる「本当の顔」だけは、しっかりと受け止めたい。
そして、――もし、その時が来たなら――。
このオフ会が、いつか蓮の助けを借りずに、朝野空という「本当の顔」を見せる、
最初の一歩にできるかもしれない。




