表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/17

10話 ネカマからリアル男の娘への、華麗(?)なクラスチェンジ


 オフ会当日。


 空は完璧な「そらぽん」として待ち合わせ場所へ向かった。

近所のランドマーク前でそわそわしながら佇む。

死刑宣告を待つような気分だ。

おまけに、なんだかじろじろ見られているような気すらする。


(これ、男ってバレバレなんじゃ……)


 帰りたい。


(いっそのこと、本当に帰っちゃおうか──)


その時。


「あ、ひょっとしてそらぽん?」


 突然声をかけられる。心臓が、口から飛び出そうになった。


「は、はい。そうです」


 か細いと散々言われていた声は元々高いので、おそらく低めの声の女性として通用すると思う。

外見はどうだろう。

蓮の仕事は完璧だと思うが、間近で見てバレないものだろうか。冷や汗が止まらない。


 すると──


「やだー!! そらぽんちゃん、超美人じゃん!」

「想像していた感じそのままだよ! いや、それより可愛い!」


 ギルメンたちから歓声が上がった。


「俺、ギルマスのレオナ!女キャラだけど中身男だから!びっくりした?」

「私『不気味だいふく』だよー。そらぽんイメージ通りの超美人やん!すごいね!」


(バレなかった──)


お世辞でもなさそうな心からの賛辞に、ほっとする。


「じゃ、現地に向かおうか。他のメンバーは現地集合だからさ!」


 空たちは電車で、エピキュクルス・オンラインのイベント会場へ向かう。

しかし──。イベント会場に、一番会いたくて、そして一番会うのが怖かった「アストラ」の姿はなかった。


「そらぽん」は、現地のギルメンからも「すごい美人!」と称賛された。

「髪型も可愛いし、服のセンスもいいね!モデルさんみたい!」

「写真撮ってもいい?来てないギルメンにも見せたい!」

空は愛想笑いを浮かべながら、適当に相槌を打つ。


 オフ会に来ていないアストラにも、

「そらぽんは冴えない男だったよ」と伝わってがっかりさせることを回避できた。

それは確かに安堵すべきことだった。


(でも――。)


 なんだろう、この感じ。

褒められれば褒められるほど、胸の奥に重たいものが沈んでいく。


 これは自分じゃない。借り物の姿で、借り物の評価を受けている。

そらぽんは褒められているけれど、朝野空は誰にも見られていない。


 空は、自分でも気づかないうちに、笑顔が硬くなっていた。


「そらぽん?どうかした?」不気味だいふくが心配そうに覗き込む。


「あ、ううん。なんでもない。ちょっと緊張してるだけ」


 空は慌てて取り繕った。

こんなことを感じてはいけない。みんなは好意で褒めてくれているのに。

アストラを失望させないために、ここまでしたのに。

それでも、心のどこかで小さな声が囁いていた。

(これは、朝野空が褒められたわけじゃない)


 その日のオフ会は、空が予想した以上に盛り上がり、その話題はすぐにギルドチャットでも持ち切りになった。

特に、そらぽんの美貌が話題の中心であり、そして熱狂的に語られた。


「そらぽん、マジ美人でさー。来てないギルメンにも見せてあげたかったよ」


「不気味ちゃんも可愛い女の子でびっくりしたよ! あとそらぽんが想像以上に美人でびびった!」


「つーか、『不気味だいふく』って名前なんなん?リアル全然不気味でもだいふくでもなかったよ」


「あー、あれ私が雪見だいふく大好きだから」


「俺はレオナさんが男だってことにびっくりしたなー」


「まあ、一番驚いたのはやっぱそらぽんだわ。美人すぎだろ!」


 ともあれ、これで「アストラ」をがっかりさせることもなくなっただろう。

空はほっとする一方、今日は「アストラ」がチャットで静かなのが少し気になった。

しかし、オフ会に不参加となれば会話にも入りにくいのだろう。空は一人で納得した。


 自室のベッドに横になり、天井を見つめる。

蓮に手伝ってもらったメイクはもう落とした。鏡に映るのは、いつもの冴えない男子大学生だ。


(結局、俺は誰にも会えなかったんだな)


 そらぽんとして会って、そらぽんとして褒められて。でも、朝野空として誰かと向き合ったわけじゃない。


 その時。スマホが震えた。


 ピコン。


 アストラからの、個別チャットだった。


次回、第11話「俺、そらぽんに会いたい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ