表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

【第七話】窃盗!ぬすっとギツネをつかまえろ

登場人物・用語解説

◯魔術使い

ヒトと共に暮らし、ヒトより高い身体能力と特別な術『妖魔法術』を有する希少で特別な生き物。

容姿はほぼヒトと変わりないが、中には獣の耳や尾を持つ個体も。


◯魔術科学園

魔術使いが強力かつ安全な魔術の使い方を学ぶ為に入学する公立の学園。

日本には札幌校、渋谷校、名古屋校、大阪校、高松校、福岡校の計六つがある。

中高大一貫校で、学年は九つ。


夏伊勢也なついせいや

先端が赤く染まった白い短髪に金の瞳、チーターのような獣の耳と尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の中等部二年生の男子。

暴れん坊だが明るく天真爛漫な性格で、嫌いなことから逃げるのが得意。


鳴神新なるかみあらた

紺色と薄水色の長髪に紫の瞳、ユニコーンのような耳と尻尾、角を持つ魔術科学園名古屋校の高等部二年生の男子。

美しい容姿を活かしてモデルとしての活動をしており、穏やかな物腰とは裏腹に非常に自分に対してストイックである。


鴨橋立かものはしだて

前髪のみがオレンジ色に染まった白い髪、青い瞳、カモノハシの尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の高等部二年生の男子。

おちゃらけた性格で、どんな時も騒がしく賑やか。


得田家路とくたいえろ

センター分けにした黄色い髪に紺色の瞳、虎の耳と尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の高等部二年生の男子。

常に論理的かどうかを重視し、非科学的なことに弱い。


東海望とうかいのぞむ

紺のメッシュが入った白い髪にオレンジの瞳、羊の角を持つ魔術科学園名古屋校の高等部三年生の男子。

元生徒会長で、自分のことがとにかく大好きなナルシスト。


鮫島光さめじめひかる

灰色の髪に緑のメッシュと瞳、サメの尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の大等部一年生の男子。

口が悪いので誤解されやすいが、本当は面倒見が良くて優しい。


初雁隼はつかりしゅん

先端が水色に染まった銀の長髪に右が青で左が金の瞳、ユキヒョウのような耳と尻尾を持つ魔術科学園渋谷校の高等部一年生の女子。

北海道にある剣術の名家初雁家に双子の妹の狛と共に生まれており、剣術の達人。

真面目な性格だが、時に年頃の女子らしい一面も。


初雁狛はつかりこま

先端が赤に染まったツインテールの黒髪に右が金で左が青の瞳、クロヒョウのような耳と尻尾を持つ魔術科学園渋谷校の高等部一年生の女子。

隼とは双子の姉妹だが、姉とは違って剣術よりもおしゃれやランチが好き。


獅子賀煌輝ししがこうき

センター分けにした銅色の髪にライオンのような耳と尻尾、赤い瞳を持つ魔術科学園渋谷校の高等部一年生の男子。

誰に対しても用心深い性格で簡単に信用しようとせず、仲良くなることは難しい。


雲雀椿樹ひばりつばき

コーラル色のインナーカラーが入った茶色のふわふわとした髪に柴犬のような耳と尻尾、緑色の瞳を持つ魔術科学園渋谷校の中等部二年生の男子。

初雁家に代々仕えている雲雀家の出身で、隼と狛は幼少期から従者として奉仕してきた幼馴染。

右目が長い前髪で半分ほど隠れているが、非常に怖がりで臆病な主人や勢也などの信頼している人物以外にはそれを頑なに見せたがらない。


上郷山陽うえさとさんよう

青のメッシュの入った灰色と黒の髪に緑の瞳、褐色の肌、龍の尻尾を持つ魔術科学園大阪校の高等部三年生の男子。

必要最低限なことしか話さず、助詞をよく省略しているので言いたいことが伝わらないことも。


桜燕さくらつばめ

漆色と白の髪にピンクの瞳、燕の尻尾を持つ魔術科学園福岡校の高等部二年生の女子。

ボーイッシュな容姿だが、男に間違われることは少ない。

「はぁ〜、暇。」


魔術科学園渋谷校の、ある日の放課後。


先日非公式の部活「問題解決部」の活動を本格的に始動し、担任の教師に古いキャンピングカーを部室として貸し与えられた隼であったが、現在非常に暇を持て余していた。


何せ依頼人が全く来ず、とにかく仕事がなさすぎるのだ。


この部活は学園の生徒の抱える問題や悩みを解決する為のものであり、その仕事量は悩める子羊がどれだけ現れるかに依存する。


この部活動が暇ということは学園が平和ということであり、それはそれでめでたいことではあるのだが………あまりにも仕事がなさすぎると、部活動として張り合いがない。


「暇すぎ………。」


「ねえ隼、さっきからそれ五回は聞いたよ。」


「だって実際に暇なんですもの………早く誰か依頼人が来ないかしら。いや、これを言うのは誰かの不幸を願っているようで良くないけど………。」


「まあね〜。本来は仕事が無い方がいい部活だからねウチら〜。」


そう言うのは、部員にして隼の双子の妹・狛。


隼を宥めつつ当人も、非常に暇を持て余していた。


「やはり非公式なのがいけないのでしょうか。」


「部室がこんな怪しげなキャンピングカーでは、近寄りたがる者もいないだろう。」


部員の椿樹と煌輝が推測できる仕事のない原因を次々と口にしていた、その時。


チリンチリン、と金属のような可愛らしい音がその場に響いた。


キャンピングカーのドア横に設置されたベルが、何者かによって押されたのだ。


依頼者だ。


「!!!!」


皆が一斉に仕事モードに入る。


居眠りをしようとしていた狛も、すっかり眠気が吹き飛んだ。


「僕が行きます!!!」


椿樹が真っ先に立ち上がり、ドアの外で待つ何者かの元へと駆けつけた。


まだ本当に依頼人とは限らない。


いたずらで押した誰かかもしれないし、何かが不意にぶつかって鳴った音かもしれない。


だけどそれが本当に依頼者であったら、悩みを抱えた誰かであったら………そのベルの音を聞き逃せば、困っている人を見捨てることになってしまう。


ガチャリと音を立てて勢いよく扉を開き、お決まりの台詞を口にする。


「お待たせいたしました。問題解決部部員・雲雀椿樹と申します。本日はどのようなご用件でございましょうか?」


ドアの外で待っていた少年は椿樹にとっては初対面であったが、他の三人には馴染みがあった。


その切り揃えられた黒髪に斜めに入った紫のメッシュ、葡萄のような紺色の瞳は紛れもなく彼らの同級生の佐合井梓のものであった。


「失礼しマス。」


「あら、いらっしゃい。………って、梓?」


機械的なぎこちない話し方は相変わらずだ。


大親友というほどではないが、何度か教室で話したことのある相手が目の前に立っている。


親しい同級生が来たことで隼は少し安堵していたが、どうやら相手も同じ気持ちであったようだ。


「まさか初めての依頼者があなただとはね。」


「ボクも部長があなたで安心しまシタ。怖い人ならどうしようと思っておりましたノデ。」


梓と面識のない椿樹に隼が軽く紹介をすると、四人は彼を優しく迎え、キャンピングカーの中へと入れた。


煌輝が梓を車内の席に座らせ、何があったのかを狛が訪ねる。


「それで、梓はウチらに何の用?」


「実ハ………。」


山梨県にある実家が経営しているぶどうの果樹園が、魔物ぬすっとフォックスによって最近荒らされていること。


被害は段々と増加しており、このままぶどうを奪われ続けては果樹園の存続に関わること。


果樹園は先祖の代から守り抜いてきた大切なもので、何としても未来に繋げたいと思っていること。


梓はその全てを、事細かに隼達に話した。


「それは可哀想に………。」


「ああ。その魔物をどうにか懲らしめたいものだ。」


「先祖代々続けてきたものを絶やしたくない気持ち、僕にはとても分かります。」


その場にいる全員が、梓の話に理解を示した。


彼らは問題解決部としての使命感以上に、梓の果樹園を守ってやりたいという各々の使命感に燃えていた。


「その魔物、私達が絶対に許さないわ。必ずあなたの果樹園を守ってみせる。」


「ありがとうございマス。皆さんにそう言って頂けて、非常に心強いデス。」


隼は梓の手を握り、必ず依頼を達成すると誓った。


翌日。


問題解決部の四人が梓に連れられて彼の実家を訪れると、そこに例の果樹園があった。


「ここが? 酷い有り様ね。」


ぶどうは全く実っておらず、何も干されていないベランダのようにスカスカ。


紫と緑に彩られた、鮮やかなトンネルのようになっているはずが視界はほぼほぼ茶色一色。


地面には食い荒らされたぶどうの、もはや売り物にならない残骸が散乱している。


隼の言う通り、その果樹園は荒れ果てて見るに堪えない状態であった。


「そうだろ? 奴らは旬の時期になる度にやってくるんだ。」


唐突に背後から声がした。


振り返るとそこには、梓よりも少し背の高い藤色と白の髪を持つ男が立っていた。


彼の兄ーーー佐合井甲府だ。


妖魔法術を使って身体の顔の一部分をディスプレイのように光らせ、そこに「怒り」マークを表示することで怒りを静かに表現している。


「ハイ。彼らは最もぶどうの美味しい時期を本能的に察知しているようデ、そろそろ採ろうと思っていたところを持って行かれてしまうのデス。」


「魔物も決して愚かではない、ということか。」


煌輝がそう呟いた、その時。


バサッ、と何かが切られる音がした。


「!?」


音のした方を向けば、数体のぬすっとフォックスが奥の方にまだ残って実っているぶどうを盗ろうと群がっている。


一方が刃物で複数のぶどうをまとめて切って落とすと、下で待機していたもう一方がすかさず風呂敷を広げて回収し、袋を背負って去っていく。


手慣れているのか手際がよく、六人が走って去っても追いつくことはできなかった。


「噂をすれば影が差す、ということか。」


「チッ。昨日追い払ったのに………。」


「体色は黄色で、顔の下半分からお腹、尻にかけてと尻尾の先端は白。二足歩行で服を着ているが、服や背負っている風呂敷、ポーチの色は様々跳躍が高く、逃げ足も速いので要注意………と。」


その日の晩、隼は学園の寮室に帰っても尚果樹園を守る方法を考えていた。


敵であるぬすっとフォックスの特徴をノートに記し、習性と気質から弱点を推測する。


目の前に実っていたぶどうを一つも守れなかったことが、たまらなく悔しくて仕方ないのだ。


脚の速さが自慢であったはずの自分が、唐突の出来事に呆気に取られて何も役に立てなかった。


それは傍らにいる狛も、全く同じ気持ちであった。


「ぬすっとフォックス、かなりの強敵だよね。匂いによる撃退方法もぶどうにまで影響するから使いづらいし、音も騒音被害になりかねないから使えないみたい。」


「ええ。電気柵を設けることもできるけど、それだと通行人が誤って触ってしまって危険だもの。」


「最近はライバル種族のカットキャットにもぶとうを盗まれてるらしい。それそのものも厄介だし、対抗しようとぬすっとフォックスが余計にぶどうを奪おうとするとか。」


「………それよ!!!」


狛との会話中に隼は、唐突に立ち上がって声を上げた。


どうやら狛の言葉を聞いて、何かを思いついたらしい。


その瞳には光が宿っており、先ほどとは打って変わって興奮しているように見えた。


「どうしたの、隼?」


「狛ありがとう、おかげで思いついたわ。カットキャットを利用すればいいのよ!!」


また翌日。


再び問題解決部の部員達と共に佐合井家を訪れた隼は、甲府にとあるお願いをした。


「甲府先輩。妖魔法術でぶどうの甘い香りを出して、ぬすっとフォックスとカットキャットを寄せ付けてくれませんか?」


「それはできるが………そんなことしたら、追い払いたいはずの魔物を逆に集めちまうだろ。」


「それが狙いなんですよ。お願いします、私の計画の為なんです!!」


決して乗り気ではないものの、隼に強くお願いされ甲府はしぶしぶ言われた通りにすることにした。


物陰から見ていた部員達は、隼の目的が全く分からないようだ。


「隼お嬢様は何をなさるおつもりでしょうか?」


「きっと彼女なりの考えがありマス。ボク達は静かに見守っていましょう。」


甲府が妖魔法術を込めると、辺りにぶどうの甘酸っぱく爽やかな心地よい匂いが立ち込めた。


実物は今は少なけれど、実物が満開に実っているのと同じぐらいの香りがする。


それが当然嗅ぎ逃されるわけはなく、ぬすっとフォックスの群れが盗人だけに「ぬすっ」と垣根から現れた。


それに負けまいと言わんばかりに、耳が長く尖ったネコ獣人の種族………カットキャットの群れも出現した。


両者は真っ先にぶどうに飛び掛かったが、その際に互いの存在に気付き、じっと互いを睨み威嚇する。


その空間にはバチバチとした貼り詰めた空気が漂った。


「えぇ、そこ!? お尻の割れ目が丸出しな方がよっぽど恥ずかしいんじゃないの!?」


そう言いつつも隼は、椿樹がどれだけ自分の尻尾を大切にしているかを知っていた。


煌輝も梓も甲府も、尻尾を失った椿樹のことを可哀想に思った。


魔物を懲らしめられたと歓声を浴びようとした狛も、流石に空気を読んだようだ。


依頼は何とか解決できたものの、円満解決のハッピーエンドとはいかない一日であった………。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ