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【第六話】恐怖!誰にも心配されない世界

登場人物・用語解説

◯魔術使い

ヒトと共に暮らし、ヒトより高い身体能力と特別な術『妖魔法術』を有する希少で特別な生き物。

容姿はほぼヒトと変わりないが、中には獣の耳や尾を持つ個体も。


◯魔術科学園

魔術使いが強力かつ安全な魔術の使い方を学ぶ為に入学する公立の学園。

日本には札幌校、渋谷校、名古屋校、大阪校、高松校、福岡校の計六つがある。

中高大一貫校で、学年は九つ。


夏伊勢也なついせいや

先端が赤く染まった白い短髪に金の瞳、チーターのような獣の耳と尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の中等部二年生の男子。

暴れん坊だが明るく天真爛漫な性格で、嫌いなことから逃げるのが得意。


鳴神新なるかみあらた

紺色と薄水色の長髪に紫の瞳、ユニコーンのような耳と尻尾、角を持つ魔術科学園名古屋校の高等部二年生の男子。

美しい容姿を活かしてモデルとしての活動をしており、穏やかな物腰とは裏腹に非常に自分に対してストイックである。


鴨橋立かものはしだて

前髪のみがオレンジ色に染まった白い髪、青い瞳、カモノハシの尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の高等部二年生の男子。

おちゃらけた性格で、どんな時も騒がしく賑やか。


得田家路とくたいえろ

センター分けにした黄色い髪に紺色の瞳、虎の耳と尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の高等部二年生の男子。

常に論理的かどうかを重視し、非科学的なことに弱い。


東海望とうかいのぞむ

紺のメッシュが入った白い髪にオレンジの瞳、羊の角を持つ魔術科学園名古屋校の高等部三年生の男子。

元生徒会長で、自分のことがとにかく大好きなナルシスト。


鮫島光さめじめひかる

灰色の髪に緑のメッシュと瞳、サメの尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の大等部一年生の男子。

口が悪いので誤解されやすいが、本当は面倒見が良くて優しい。


初雁隼はつかりしゅん

先端が水色に染まった銀の長髪に右が青で左が金の瞳、ユキヒョウのような耳と尻尾を持つ魔術科学園渋谷校の高等部一年生の女子。

北海道にある剣術の名家初雁家に双子の妹の狛と共に生まれており、剣術の達人。

真面目な性格だが、時に年頃の女子らしい一面も。


初雁狛はつかりこま

先端が赤に染まったツインテールの黒髪に右が金で左が青の瞳、クロヒョウのような耳と尻尾を持つ魔術科学園渋谷校の高等部一年生の女子。

隼とは双子の姉妹だが、姉とは違って剣術よりもおしゃれやランチが好き。


獅子賀煌輝ししがこうき

センター分けにした銅色の髪にライオンのような耳と尻尾、赤い瞳を持つ魔術科学園渋谷校の高等部一年生の男子。

誰に対しても用心深い性格で簡単に信用しようとせず、仲良くなることは難しい。


雲雀椿樹ひばりつばき

コーラル色のインナーカラーが入った茶色のふわふわとした髪に柴犬のような耳と尻尾、緑色の瞳を持つ魔術科学園渋谷校の中等部二年生の男子。

初雁家に代々仕えている雲雀家の出身で、隼と狛は幼少期から従者として奉仕してきた幼馴染。

右目が長い前髪で半分ほど隠れているが、非常に怖がりで臆病な主人や勢也などの信頼している人物以外にはそれを頑なに見せたがらない。


上郷山陽うえさとさんよう

青のメッシュの入った灰色と黒の髪に緑の瞳、褐色の肌、龍の尻尾を持つ魔術科学園大阪校の高等部三年生の男子。

必要最低限なことしか話さず、助詞をよく省略しているので言いたいことが伝わらないことも。


桜燕さくらつばめ

漆色と白の髪にピンクの瞳、燕の尻尾を持つ魔術科学園福岡校の高等部二年生の女子。

ボーイッシュな容姿だが、男に間違われることは少ない。

魔術科学園福岡校の燕はある日、珍しく家に帰らずに寮室を使っていた。


その日は課題が多く出たので、彼女にとって家よりも物事に集中できる課題の方が都合が良かったのだ。


同室にいる仲良しの碧も積極的に手伝ってくれたおかげで、幸いにも山のような課題を全て当日中に終わらせることができた。


忙しさでゲームにありつけなかったことを惜しみつつ、燕は寮室ベッドに潜る。


そして翌日、日が昇ると………。


「燕、起きて! 朝だよ!」


先に起きた碧が燕のベッドの前に立つと彼女の身体を掴んで揺さぶり、モーニングコールのように起こす。


「ん、んん………。」


「もう、いつまでも寝ぼけていないでよ!! 後十五分で、着替えてここを出なくちゃ遅刻するよ!」


「はいはい分かった分かった。もう………。」


燕を起こして忘れ物を確認する碧の姿は、さながら母親そのものだ。


碧の心配は本心であったが、燕には些かそれが鬱陶しいように感じられた。


「忘れ物はない? 今日の時間割はちゃんと把握してる? 保険・数学・国語・妖魔法術・体育・英語!!! だからね!!!」


「うるさいなあ!!! 分かってるよ!!!」


思わずつっけんどんな対応をしてしまったように、燕は碧の心配性な一面に対して内心煩わしく感じていた。


碧の心配性はその後も続いた。


「スマホの充電は?」


「教科書全部持った?」


「制服のリボン曲がってない?」


ことあるごとに母親ヅラし、不要な心配をしてくる。


ここまで執拗に注意されると、もはや親切心で言っているのかどうかすら怪しくなってくるほどだ。


それが耐えられなくなった燕はとうとう自室にて電話を使い、最近の碧のことを大阪校にいる友達の山陽に話していた。


「碧は面白い時もあるけどさあ、最近はボクに対して心配ばかりしてくるんだよね。たまにならありがたいんだけど、あまりしつこくされると逆にバカにされてる気分になる。」


「ふむ………そうか。」


山陽は深く考え込むような仕草をした後、碧に対してこう言った。


「それなら、これからお前の元に魔術道具『どうでもい石』を送ろう。それを使うと周りはお前のことがどうでも良くなって、口うるさく忠告をしなくなるからな。」


「えっ?」


どうでもい石とは山陽の言う通り、煩わしい心配をされなくなる道具だ。


持ち歩くだけで裸で街を出歩こうが綱渡りをしていようが、誰も何とも思わなくなる。


それは一晩のうちにほどなくして、燕の枕元へと届いた。


「これが………?」


燕は枕元に置かれたどうでもい石を拾い上げ、あらゆる角度から見つめる。


白や茶色の粒こそ混ざっているが、灰色の普遍的で普通の石。


色も大きさもざらざらとした触り心地も、何もかも「石」の範疇を出ない。


彫刻刀で刻まれたような「どうでもい石」の文字を除けば特別な要素は外見に見られず、まさしく石ころといった感じがする。


強いて言えば持ち運びを想定しているからか普通の石より軽い程度で、それもそこまで極端に軽いわけでもない。


うっかり外で落とそうものなら、探すのが難儀になりそうな程だ。


「この石に、本当にそんな特別な力はあるのかなぁ?」


思わずそう疑いたくなる。


しかし山陽がああ言うからには、決して嘘ではないのだろう。


「ま、実際使ってみれば分かることか!」


燕は石を握ったまま、いつものように福岡校へと向かった。


登校中にすれ違う人々の様子は、いつもと変わらないように思えた。


この石を持っていることで、何がどう変化するのだろうか。


教室に着いた燕は、早速石の効果を試すことにした。


石を持ったまま尻を大きく左右に振り、怪奇で意味の分からない踊りをする。


逆立ちをした状態で、手が床の汚れで真っ黒になるまで教室中を歩き回る。


「夜露四苦」と書かれたコートを纏い、ヤンキー座りで周囲を威嚇する。


どれも燕の考える精一杯の、頭がおかしくなったと思われかねない言動だ。


常識的ではない燕の言動に、周囲も流石に疑問を呈した。


「何してるの?」


「何の踊り、それ?」


しかしそこに心配や怪しみの意図は一切なく、純粋な疑問が百パーセントであった。


実際燕に「こうしたい気分なの。」と問いかけられると、皆はそれ以上何も聞かなかった。


放っておこうと思ったのではない。


ただ単に「どうでもいい」から、軽く納得してしまったのだ。


これこそが誰にも心配されない世界を作り出す………「どうでもい石」の恐るべし効果だ。


誰も口うるさく言ってこない世界は、燕にとって快適であった。


燕はしばらく、誰にも何も言われない世界の素晴らしさを楽しんでいた。


その日の帰り道。


碧や他の誰にも口出しや心配をされない一日を過ごし、燕はまるで遊園地に来た子供のようにうきうきとしながら帰路を辿っていた。


「今日の碧は大人しかったな。他のみんなも。うるさくあれこれ言われないからストレスがたまらなかった。最高!」


歩きながらも制服のポケットからどうでもい石を出し、それをニヤリとしながら見つめる。


「やっぱ『どうでもい石』万々歳だな。これのお陰で一日快適に過ごせたもん。これからもずーっと持ってよっと。」


使い始めて一日にも関わらず、燕は既にその石の効能をえらく気に入っていた。


山陽にお礼のメールをし、これからも継続して使っていこうと決意した。


しかし、彼女は気付かなかった。


目の前のマンホールの蓋が、工事の為に空いていることを。


その深さは十メートルほどあり、人間が落ちればひとたまりもない。


周囲には作業員もいるが、誰も燕にマンホールのことは言おうともしない。


彼女を気にかけもしない。


「どうでもい石」の効果のせいだ。


燕は気分がいいあまりに歩きながらジャンプし、開かれたマンホールへと飛び込んだ。


吸い込まれるように落ちていき、下の地面が近づいてきたところでようやく燕が事の重大さを理解し、己の死を覚悟したその瞬間。


「!?」


殴りかからんとする巨大な拳の如く我が身に迫っていた地面が、急激に遠ざかっていった。


まるで見えない何かに引っ張られているかのように、地面に持ち上げられていく。


謎の力によって燕は、あっという間に地上へと戻された。


最初こそ謎の事態に困惑していた燕であったが、すぐに山陽のある言葉を思い出した。


「どうでも石は使用者が心配されなくなったことが原因で命の危機に陥った場合、一度だけ最大限の力を発揮して使用者を危機から救い、その代償として砕ける。」


実際に燕の掌の中には、既にどうでもい石はなかった。


彼女が地上へと戻る過程で手からするりと滑り落ち、そのまま地下へと落ちて砕けたのだ。


燕は命を救ってくれたどうでもい石に感謝こそすれど、失ったことへの未練は既に感じていなかった。


誰にも心配されないというのがどれだけ不幸で危険なことか、身をもって思い知ったからだ。


「さよなら。そしてありがとう、どうでもい石。」


それからというもの、燕は他人からの忠告や注意に素直に感謝をするようになった。


「燕、制服がほつれてるよ。」


「あっ、ほんとだ! 教えてくれてありがとう!」


周りに自分を心配してくれる友人や仲間がいることを、燕は心から幸せと思えた。

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