『偽りの英雄──勇者の仮面が剥がれる時』
第9話
『偽りの英雄──勇者の仮面が剥がれる時』
剣と剣が激突し、鋭い音が城内に響き渡る。
白銀の聖剣と、漆黒の魔剣が、火花を散らしながら切り結ぶ。
「なんで、貴様みたいな無能が……ッ! この俺と互角にやり合えるんだ!」
「……その“無能”に追い詰められてる時点で、お前の“勇者”なんてただの張りぼてだろうが!」
翼は叫ぶように剣を振り回す。
だが、その剣筋にかつての冷静さも鋭さもない。焦りと怒り、そして恐怖。
(ああ──コイツは、怖がってる)
「お前はあの日、王に媚びて、仲間を売って、魔族を裏切った。
それが“勇者”のすることかよ、翼……!」
「うるさいッ! 俺は! 選ばれたんだッ!!
この世界の希望であり、正義であり、英雄なんだ!!」
「ならその“正義”とやらで、この剣を受け止めてみろ──!」
俺は踏み込み、剣を真っ直ぐ振り下ろす。
【魔剣・第二段階解放──黒嵐の舞】
闇のオーラが刀身を包み、疾風のように翼を襲う。
奴は何とか剣で受けるも、その反動で壁に叩きつけられた。
「ぐっ……くそッ、くそッ……!」
奴は立ち上がろうとする。
だが、足は震えている。目は泳いでいる。
「……どうして、こうなった……
全部、俺が正しかったはずだろ……?」
「お前の“正しさ”は、自分だけが救われる道だった。
他人を犠牲にして、“英雄”の仮面をかぶるための道だった」
「違う! 違うんだ! 俺は……俺は……っ!」
翼はついに、剣を取り落とした。
その瞬間、俺の剣を奴の喉元へと突きつける。
「終わりだ、翼。お前の嘘も、栄光も、ここで全て剥がれる」
「……殺せよ……殺せばいいだろ……どうせ俺はもう……誰からも必要とされてない……」
その言葉を聞いて、俺の中に一瞬の沈黙が流れた。
(……これは、“あの日の俺”と同じだ)
俺を“無能”と笑い、捨てた男が、今や捨てられる側になっていた。
かつての俺と同じように、誰にも見向きもされず、孤独に震えている。
「……死にたけりゃ、一人で勝手に死ね。
だが──俺の復讐は、“殺すこと”じゃねえ」
「は……?」
俺は剣を収める。そして、こう告げた。
「“お前のすべて”を暴いて、世界に晒してやる。
お前が何をしたのか、何を偽ってきたのか、
王も、国民も、魔族も、全員の前で明らかにする。
お前はこれから、“英雄という檻”の中で、一生を恥と屈辱にまみれて生きるんだよ──」
「そ、そんなの……やめろ……!」
「それが、俺の“復讐”だ」
⸻
数日後:王都・大広場
「では、今より──“勇者・一ノ瀬 翼”の公開尋問を開始する」
王都の民、貴族、騎士団、そして魔族代表ユリシアまでもが列席する中、翼は鎖に繋がれて立たされていた。
俺は壇上に立ち、一枚一枚、証拠を突きつける。
•魔族との密通記録
•恩賞と引き換えに渡した裏切りリスト
•処刑された者たちの記録
•奴が主導した“召喚者選別と処分”の痕跡
人々は、英雄に向けていた尊敬の眼差しを──軽蔑と憎悪に変えていく。
「……お前の英雄譚は、ここで幕を閉じる」
民衆の前で、勇者は沈黙したまま地に膝をついた。
罵声と嘲笑が飛び交う中、俺はその場を静かに後にした。
⸻
王都・夜
「……終わったわね」
ルナが、いつもと同じように涼しい声で言う。
だが、彼女の目はどこか優しく、俺の心をそっと撫でるようだった。
「……いや、まだ始まったばかりだ」
「始まった……?」
「そうだ。これは“個人への復讐”にすぎない。
だが、王国そのものが、召喚者を“道具”として扱っている。
真の黒幕は、まだ後ろに控えてる──」
「“召喚構造の核”ね」
ユリシアが現れ、手に一冊の黒い本を差し出す。
「これは、かつて王家が管理していた“召喚の根幹”……これを辿れば、真の支配者に辿り着ける」
「協力してくれるのか?」
「ええ。私も、復讐したい相手がいるから」
三人の瞳が、静かに交わる。
【復讐者】、【冷徹な参謀】、【失われた王族の姫】
この三人の旅路は、今や単なる個人的な恨みを越え、
この世界を貫く“構造”そのものに挑む戦いへと進化していく──
次回予告(第10話)
『召喚の神殿──真の黒幕と“契約の歪み”』
ノクスたちが向かうのは、遥か南方の《神殿都市アグニ》。
召喚術の発祥地であり、王家の“始祖契約”が封印された場所。
そこに眠るのは、真なる支配者か、それとも──更なる絶望か。