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『裏切りの勇者──その名は一ノ瀬 翼』

第8話


『裏切りの勇者──その名は一ノ瀬 翼』


──王都から北へ三日。

俺たちは魔族の姫・ユリシアの依頼を受け、とある辺境の街へと向かっていた。


標的は、“かつてのクラスメイト”──勇者・一ノ瀬 翼。

この世界に召喚された当初、俺の隣にいた男だ。


「藤堂、顔が険しい。……私情が混ざってるわよ」


隣を歩くルナが、涼しげな瞳で忠告してくる。

クールな参謀──それが、今の彼女の役目だ。


「……私情が混ざって何が悪い。これは“復讐”だ。割り切った仕事なんかじゃない」


「そう。その言葉を忘れないで。激情で誤った選択をしないために、私はあなたの冷却材になる」


ルナの口調は相変わらず淡々としている。

だが、その言葉の端々からは、信頼がにじんでいた。


俺は小さく笑ってうなずく。


「……頼りにしてる、ルナ」



到着した街は、かつて魔族との戦争で焦土となった“アルマレーン”。

だが今は復興し、勇者・一ノ瀬 翼が領主代理として統治しているという。


街に入った瞬間、俺たちは違和感を覚えた。


「……子どもや老人がいない?」


「住民の多くが“徴用”されてるわ。これは……軍事国家の香りね」


ルナの推察通り、街の空気は冷たい緊張感に満ちていた。


道行く人々は皆、勇者の顔が印刷されたポスターの前で立ち止まり、黙礼をしていく。


【“正義”の名の下に、我らは翼の導きを仰ぐ】


「……完全に、カルトじゃねぇか……」


俺たちは情報収集のため、街の地下酒場に足を運んだ。

そこには一人の老婆がいた。かつて王都で教師をしていたという、老人。


「勇者様? あの人は最初は良かったんだよ……戦争を終わらせて、魔族と和平を──なんてね……」


「でもな、ある日から変わった。魔族の姫と接触してたくせに、裏でそれを王に密告して、恩賞を得たのさ」


「“魔族の協力者”を次々と売って、処刑の引き金にしたのは、勇者様だよ。しかも、私利私欲のために……」


俺の拳が、静かに震える。


(やはり……お前か、翼)


裏切り者。卑劣な嘘つき。

“勇者”の肩書を騙って、人を売り、魂を踏みにじった男。


「……計画を早める。奴と直接、話をしよう」



翌日。

俺は偽名で“謁見申請”を出し、城内へと潜入した。


通されたのは、金と大理石で飾られた、まるで神殿のような謁見室。

玉座には、白銀の鎧を纏った若き男が、傲慢な笑みを浮かべて座っていた。


「……で、お前は何者だ? “ノクス”とか言ったな。ああ、どこかで聞いたような……」


「久しぶりだな、“勇者様”。俺のこと、忘れたとは言わせねぇぞ」


「……!」


その瞬間、翼の顔がひきつった。


「まさか……藤堂……!?」


「そうだよ、“無能”と笑ってくれたアイツさ。

 捨てられても、死んでも、這い上がって来た、藤堂だ」


「な……なんで生きてる!? お前は……最初の儀式で、“才能なし”って……!」


「そう、“お前の言葉”で、俺の人生は終わった。

 だがな、翼。あの日、お前が俺を見捨てたからこそ──今の俺がある」


俺は一歩、前へ出た。


「俺は復讐に来た。

 あの日、“勇者ごっこ”に酔っていた、お前に報いを与えるためにな──!」




その瞬間、翼が剣を抜き、金色のオーラを纏う。


「いいだろう……来い、無能!! 今こそ証明してやる! “本物”と“偽物”の差をなッ!!」


「……受けて立つ」


俺の背中から、グラムが“共鳴”とともに抜かれる。


「ノクス様、援護は私が」

ルナが影のように滑り出し、魔法陣を描き始める。


「行け、ノクス。あの日の絶望を、今日で終わらせるのよ」


「……ああ、終わらせる。お前の“英雄ごっこ”と一緒にな!」


二人の男の剣が、音を置き去りにして衝突する──!

次回予告(第9話)


『英雄の皮を剥ぐ日──勇者の正体と、最後の選択』

刃を交えるノクスと翼。

かつての友情は憎しみに、そして憎しみは決着へと変わる。

だが、復讐の果てに待つものとは──栄光か、虚無か。

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